4-3 ゼラニウム~決意~その2
チェックアウトぎりぎりまで粘って、私たちは遅い朝食を取りに街へと出た。ステンドグラスが光る古めかしい喫茶店で、私とケンジは名古屋名物のモーニングを堪能することにした。コーヒーさえ頼めば、ありえないほどの品数の料理がテーブルを覆ってくれるのは流石だ。
「トシくんはもう帰ったの?」
ケンジの後輩トシくんはコンテストが終わると「あとはごゆっくり~」と言って消えてしまった。相変わらず気がきくコだ。
「彼はクルマだから。途中で女の子をナンパしたかもしれないけど」
「わざわざ名古屋まで来てくれるなんていい後輩だね。バイト代はずまなきゃ」
「いいんですよ、後輩って言うか元カレだから」
ぶーーーーーーーーーーーーーっ
とコーヒーを吹きだしそうになって慌ててナフキンで口を押えた。ケンジはゲラゲラ笑っている。
「ちょっと、あなたの場合それはギャグにならないから!」
むせながら睨んだがケンジは笑い続けていた。
「あははは、冗談です。あの花屋はトシくんの親の実家なんです。今回はプロだけのコンテストなんでショップからの推薦が必要なんですよ。だからトシくんが代表で着いてきたってわけで」
「なるほど」
「彼はまだ学生なんで、時間の融通が利くから助かってます」
「トシくんて学生だったの…そういえば、あなたって幾つなの?」
「え? 言ってませんでしたっけ。23ですよ」
うぐ、予想よりかなり若い。
これは、私は、頑張らねば…もろもろ。
「もしかして、それでいつも敬語なの?」
「ああ、それもありますね」
「それも?」
「香菜さん、怒らせると怖いからww」
ケンジはいつもより饒舌で、楽し気にコンテストの裏話や将来のことを話しだした。その未来には私がいると確信して。
「ね、香菜さん。だからもう堀内さんとヨリを戻すって話は諦めてくれますよね」
「へ?」
急にタカシの名前が出てきて素っ頓狂な声を出してしまった。
「それはー、無理だわね」
「そんな、なんで?」
「だって、もう別れちゃったもの」
「え? いつ」
「バレンタインに」
「えーっ! あれってデートじゃなくて別れ話だったんですか? バレンタインに? 香菜さんってえぐぅっ」
「いいのよ、タカシが悪いんだもの。あなたこそなんでそんなにタカシにこだわるのよ」
「だって、あんなに泣いてたから、よほど好きだったのかなって。堀内さんもちょくちょくクルマで通りかかると店を覗いてきて、香菜さんを探してたみたいだし」
そりゃそうか、事情を知らなければそう見えるよね。
今度、タカシの悪行をたっぷり教えてやろう。もちろん私の悪行もだけど、それはもうバレてるからいいか。
「ずっと黙ってたんですか、ひどいなぁ。でも良かった、香菜さんがいればなんでもできる気がする」
ケンジは私の手を取り無邪気に笑っている。その手にこもる力が次第に強くなっていき、わずかだが痛みを感じた。
「すっかり君に依存しちゃってる」
不意にタカシの言葉を思い出した。
そうなの?
これは違うのかしら…これを恋って言ってはいけないんだろうか?




