第4話:王城にて その2
眼前には立派な玉座。左右にはピシリと並ぶ屈強な近衛兵達。ただならぬ雰囲気の中で俺は王様が現れるのを待っていた。
今の俺の頭で考えられることは一つしかない。
(王様が来たら跪く王様が来たら跪く王様が来たら跪く~・・・)
そう、王様の前で跪くことで恭順の意を示すのだ。これをしなければ叛意有りと受け取られ一発で幽閉ルートもあり得るらしい。そんな異世界生活は絶対に御免なので、ここは失敗が許されない場面である。
待つこと数分、臣下の一人が大声を上げた。
「アゲーラ国王のお出でです!」
きた!俺はイメトレ通りに俯いて跪く。
どんな王様なのかが非常に気になる。もし暴君だったら有益な情報をもたらさない限り俺のことなんて奴隷扱いにすることもあり得るかもしれない。それにやっぱり魔王を倒せなんていう無茶ぶりをされるかも・・・。
「面を上げよ」
色々考えている内に王様が玉座に座り、対面することを許された。俺はゆっくりと顔を上げ、国王の姿を確認する。
国王の容姿・・・燃えるような赤髪に縮れ毛、筋肉でゴツゴツとした腕と足。そしてその手には凶悪なハンマーのような武器。
蛮族かよ!と突っ込みたくなる容姿だった。豪奢に着飾った服装のお陰でこの人が王様なのは分かるけど・・・。
こんなおっかない国王、絶対暴君じゃん!人を見た目で決めつけてはいけないとは言うけども、じっくり観察する余裕なんて今の俺にはない。
勝手に発言することは許されていないので(暴君だったら何とかしてこの国から抜け出そう)という決意を胸に秘めつつ、国王の次の発言を待った。
「お主、名は何と申す」
あ、問いかけられた。こういう場合は答えていいんだよね?でも、名前かあ、この世界ではファミリーネーム的なのは主流じゃないみたいだし、長いとややこしいから・・・
「カイリ、と申します」
とだけ答えた。すると国王は、
「そうか、カイリか。此度はお主には非常に迷惑をかけたな。元の世界での生活があるお主を突然この世界に呼び出すことになったのだから。
しかし、私はこの国の王なのだ。国の民の生活を守るのが私の責務なのだ。聞かされているであろうが、今この国は魔物や周辺国との争いが絶えぬ。このままではいつか必ずこの国に危機が訪れるであろう程にな。
その運命に抗うためにはどのような手段でも選ばねばならぬ。未知の異世界の知識や技術にはそれが可能なだけの力が備わっていると確信しておるのだ。そして異世界との交流が可能なのは我が国の英雄ズークのみ。他国を出し抜くためには主ら異世界人に頼る手段を取らざるを得ないのだ。この不甲斐ない王をどうか許してほしい」
と、謝罪の意を表した。
え、暴君かと思ったらいきなり謝るとかすごく謙虚、というか国の民のことを第一に考えるってかなり良い国王なんじゃないか?
多分急に異世界に呼び出されたら普通は怒るって思われてるんだろうな。それは人によりけりだろうけど、俺の場合は別にそうでもないというか、むしろこの世界に興味がある方だし、国王がまともなら何の問題もないと思っている。
「あの、私は別にこの世界に来てしまったことを嫌なことだとは思ってないですし、むしろこういう変わった体験をさせてもらえることに感謝しているくらいです。なので、国王ともあろうお方がそう簡単に謝らないでください」
そういって国王に微笑みかけた。いや、国王の人柄に安心して自然と顔が緩んでしまったのだ。そして国王は、
「ああ・・・、そうか、そうだな。余はこの国のためにすべきことをしているのであり、決して迷う素振りを見せてはならぬ。それを異世界から来たばかりの者に思い出さされるとはな。ふっ、なんと面白い奴よ」
と和らいだ表情を見せた。
俺はただ自分の率直な気持ちを言っただけなんだけど、なんだか国王にとってはいい感じに噛み合ったみたい。
最初に蛮族だなんて思ったことが心苦しい。異世界なんだし、その文化にあった髪型とかがあるに決まってるんだから、やっぱり見た目だけで人を判断するのはダメなんだね、と反省する。
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