第2話:ルティア
「申し遅れましたが、私は王立孤児院で家事などをしていたミサと申します。あなたのお名前は?」
王城へと向かう馬車の中でも、俺がこの世界で最初に出会った女性、ミサと会話していた。
「俺の名前は藤山海入って言います。カイリって呼んでくれたらいいです。元の世界では日本という国に住んでいました。歳は17歳です」
異世界に来たということに徐々に思考が追い付き緊張も解れてきたころ、改めてこのミサさんを見てみるとすごく美人でかわいらしく、こんな人と二人きりで馬車に乗っているという状況に気付いたことからまた別の緊張が生まれてしまった。
「カイリさんって男性なんですよねぇ。ふふっ、いくらルティアちゃんがかわいいからって、その体にイタズラとかしちゃいけませんよ?そしたら怖―いことになるかもしれませんからね」
いや、何を言って・・・ってそういえば俺は今ルティアって子の体に入ってるんだった。ていうかまだ鏡を見てないから分からないけど、もしかしてルティアって子は美少女なのか?
「俺に借り物の体に変なことができるほどの度胸はないですよ・・・。ところで、怖―いことって何ですか?いや、別に本当に何かする気があるとかそういうわけではなく、純粋に気になるだけなんですが」
「それは何れ分かると思いますよー。それよりも、俺っていうのはやめて頂きたいです。転身魔法は極秘扱いで、一般人には知られてはいけないんですから。余程のことがない限り異世界から来たなんて疑われることはないでしょうけど、用心するに越したことはないですからね」
なんだかはぐらかされてしまった。まあそんなに重要なことじゃないのかな?それよりもなるほど、女の子が俺なんて言ってたら変人扱いされて余計な勘繰りをされる危険性があるってことか。それじゃあ・・・。
「私・・・ですかね?」
うぅ・・・日本じゃ男も畏まった場では使うことがあったけど、女として使うのはなんだかむず痒くて俯いてしまった。
「ふふふっ、良いと思いますよー。ルティアちゃんが恥ずかしがってるみたいですごくかわいらしいです!」
あ、これ半分慰めみたいな気持ち入ってるよね?何で俺、異世界で女の子を装って慰められてるんだ、ちょっと悲しい気持ちになる。
しかしルティア、か・・・。
「あの、一つ気になるんですけど、ミサさんから見てルティアってどんな子だったんです?記憶もまだしっかりと思い出せないですし、教えてほしいんですが」
「ルティアちゃんはすごく良い子でしたよー。優しくて他の孤児たちの面倒も見てあげてました。そして今回の転身の件でも、異世界からたくさんの有益な情報を持ち帰って報奨金をたくさんもらって孤児院の暮らしをもっと良くするんだって、急な話なのにやる気に満ち溢れていましたよ」
何という良い子。異世界に送られるなんて大変だろうに、それで得たお金を自分のためじゃなくて他の孤児たちのために使うだなんて・・・。
ルティアはこの国の王立孤児院で文武共に最も優秀な成績で、異世界の調査に最も適していると判断された。異世界から帰ってきた暁には立派な住居と持ち帰った情報の量と質に応じた報奨金が出されると聞いてルティアも容認したのだ。
もし断れば次に優秀だった子へと話が回される予定だったらしい。
そしてこのルティアという子、まだ12歳だというのだ。この世界では寿命が短い分勉強ペースも速く、優秀な者が集まる王立孤児院ではさらに速まるということもあり、12歳でも中学を卒業したくらいの知能があるという。
全く、とんでもない体に移ってしまったものだ。
「そんな優秀な子の代わりが務まるほど私は出来た人間じゃないんですが、この世界でどんなことをさせられるのでしょうか?まさか魔王を倒せだとかいう無茶な話になるんじゃ」
異世界召喚と言ったら魔王討伐。でもそんなのはチートスキルとかを持ってるのが前提での話だから、俺には無理ゲーがすぎることだ。
「魔王?別にそんなに気負わなくても大丈夫ですよー。あ、もうすぐ王城につきますので、続きの話はまた今度にしましょう!」
え、もう着いちゃうの?馬車に揺られて30分ほど、心の準備もできていないまま俺は国王に謁見する時を迎えたのだった。
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