11-41. Dies Irae 2. 最後の巨神
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無数の巨大な武器が地面に突き刺さり、空は赤黒い雷が舞い狂う嵐――そんな世界の中心を目指して私たちは進む。
あまり上空を飛ぶと怖いので、基本は地面付近をであるため思ったよりは速度は出ていない……が、極限まで成長しているであろうアリスたちの足であれば、強化魔法を使わずともかなりの速さにはなっているはずだ。
……それでも間に合うかどうかは未知数だ。
そもそも『何』に対して間に合うというのか、という疑問はあるけど……それも行ってみないとわからないか。
あくまで予感でしかないけれど、終わりが近づいている――私はそう思う。
この謎のクエストの終点は近い……そんな気がしているのだ。
理由はわからない。あくまでも私の勘としか言いようがないんだけど……話に聞いたガイア内部の終着点と似たような景色というのが理由なのかもしれない。
『ゲーム』の勝者となり終わったと思ったのに始まった延長戦――それも間もなく終わるはず。
そんな期待もありつつも、やっぱり私は予感しているのだ。
…………でも、きっとすんなりと終わることはない。
それもまた予感している。
なんだろう……ずっと感じている嫌な予感の正体は……?
『何』に対して私は不安を抱いているんだ……?
最終戦の後から、『何か』が引っかかってるような気はするんだけど……その正体がわからない。
……その正体を探る暇もない。
今はそれが致命的なことに繋がらないことを祈るばかりだけど……。
「――見えてきたな」
ほんの少し考え事に集中してしまっていた私の意識がアリスの言葉で引き戻される。
彼女にお姫様抱っこされたまま、私も前方へと目を向ける。
「…………なんだ、アレ……?」
まだまだ距離があるので詳細まではよくわからない。
ぱっと見た感じだと、『冥界』のゴールとなっていた女王の巣――通称『巻貝』に似た感じはする。
でも違いは、女王の巣よりも何というか……ごちゃごちゃとした感じがするのと、遠景からでもわかるくらい全体にびっしりと『棘』のようなものが生えていることだろう。
横たわった毛虫……が一番近いか?
「まだ結構距離があるわね……でも、あそこがゴールっぽいのは間違いなさそう」
「だな。
――ふん、エキドナのヤツもあそこにいると思って良さそうだ」
ここに至るまで妨害は特にない。
そう思わせておいて――が一番怖いところではあるが、アリスやケイオス・ロアが全速力を出せば割とすぐに到達できてしまう距離でもある。
私たちが到達するのをもはや防ぐことは難しいだろう。
到達した時点で私たちの勝利が確定する、というのであれば話は別だが、それならもっと全力で妨害してくるだろうしね。
つまり、エキドナはもう妨害に力を割くよりも、正面から私たちを迎え撃つのが一番効率がいいという考えだ。
アリス一人の時ならともかく、今はケイオス・ロアとフランシーヌもいる――下手に策を弄して誰か一人の動きを封じ込めたとしても、次の瞬間には残る二人にやられるのは目に見えている。
「……ヤツも次は本気でくるだろうね……」
おそらく、本当に初めてのヤツの『全力』がくる。
そして……『黒幕』もいる。
『黒幕』が戦えるやつなのか、それとも私みたいに戦闘力自体はないのか……。
エキドナ=ドクター・フーがいるということは、ピースの時のように何か他の戦力が伏せられている可能性も否定できない。
「あたしがラビを守る。だから、ロアとアリスはエキドナに専念して」
「ふむ? 『守る』のであればロアの方が適任なのではないか?」
……ナチュラルに自分の使い魔を他人に委ねてるなぁ……。
まぁアリスらしいっちゃらしいとも言える。二人を完全に信頼しているのだろう。もちろん、私も疑ってはいないけど。
それはともかく、確かにアリスの言う通り『守る』という点に関してはケイオス・ロアが一番良さそうな気はする。
空間魔法で防ぐことも、時間魔法で回避や攻撃の無効化もできそうだし。
「あー……そうね。もちろん、危ない時とかはあたしも守備に回るけど、エキドナ戦に関しては多分あたしがアタッカーの方が良いかもね」
「何か理由があるのか?
まぁいいさ。貴様らに頼らせてもらうぜ」
細かいことまでは聞かず、アリスは一人納得してしまう。
どっちにしても、全力戦闘をしようとするとアリスでは私を守りながらというのは難しい。
ケイオス・ロアとフランシーヌがいてくれるのはそういう意味ではとてもありがたいし、守ってくれるというのであれば否はない。
それに、ケイオス・ロアの感じからすると――もしかしてだけど、エキドナの謎の能力を解き明かしているのかもしれないしね。
「うん。頼ってばかりで申し訳ないけど、二人ともよろしくね」
本当に人に頼ってばかりだ。特にラヴィニアの身体になってからは特に……。
このクエストだって、既にBPに頼ってしまっている。彼女が助けてくれなければ、アリスと私は『塔』の内部に到達するのは難しかっただろう。
……だからこそ、今度こそ完全に『ゲーム』を終わらせなければならない。
後の憂いなく、私たちの完全勝利で終わらせる――ゼウスや『運営』が何も文句をつけられないくらいに、だ。
「近づいてきたぞ――って、アレは……」
そうして私たちはついに嵐の中心地――巨人たちの戦場の中心にあるソレの元へと辿りついた。
だが、そこにあったのは……私の予想を大きく超えるものだった。
巨大な赤黒い結晶の塊――なのには間違いない。
『外』の世界を覆っていた結晶よりも、更に毒々しい赤黒さという差はあるが。
大きな違いは……ソレが『外』のように結晶に覆われたモノというわけではない、つまり『塔』と同じような最初から赤黒い結晶でできている存在……のように見えるところ。
そしてもう一つは、ソレは生き物を象っているというところだ。
――『蛇』
誇張なしに山のような巨大な、結晶でできた蛇の頭部が見えている。
私たちの前に見えるのは頭部のみ――胴体は地平の先まで伸びていて全長は全くわからない。
……『冥界』にいた巨大ムカデをも遥かに超える、生物とは到底思えないほどの巨体である、
結晶でできた鱗に覆われているが、作り物めいた印象は全く受けない。
鱗も、肉体も、全てが最初から結晶なのだろう……矛盾するようだけど、結晶で作られた精巧な蛇の彫像といった感じなのだ。
……元へと辿り着いた、と表現しているのも実は間違いなのだろう。
あまりにも巨大すぎる蛇が見える位置まで来たというだけで、実際に蛇の側まではまだまだ距離があるのはわかる。
つまりは、それだけのスケールの差があるということだ。
話に聞いたガイア本体――地下から現れたという『蛇』に比べればまだ小さいのだろうが……何にしても、過去遭遇したあらゆるモンスターを超える巨体であることは間違いない。
もう一つの異様な点は、その蛇の全身に突き立てられた数々の『武器』である。
遠くから見た時に『棘だらけ』と思った原因はこれだろう。
このフィールドに無造作に林立している数々の巨大な武器……それらも結構な大きさだったんだけど、蛇に刺さっているものはそれらの比ではない。
高層ビルのような剣や槍、矢等々……若干大きさにバラつきはあるが、巨人が振るうにも大きすぎる無数の武器が蛇の全身至るところに突き立てられている。
これらの武器によって蛇を打ち倒したことを示しているのだろうか……まぁだからこそ、生々しさはあれど蛇は死んでいる――動くことはないと私たちは思っていたわけだが。
「……あの蛇の口から中に入れってことじゃねぇだろうな?」
割と嫌そうにアリスが呟く。
まぁ……私としても嫌なのは同意だ。
んー……でもガイア戦の時を思えば、そうならざるを得ないんじゃないかって気もしなくもないけど……。
「――いや、その必要はないみたいね」
ケイオス・ロアが言うと共に、アリスとフランシーヌもすぐさま戦闘モードへと意識を切り替える。
理由は私にもすぐにわかった。
「……エキドナ……!」
横たわる蛇の頭部――文字通り横に地面へと倒れている頭部の上、死して尚見るものに恐怖を与える毒牙の上にエキドナが立っていた。
手には既に《終末告げる戦乱の角笛》が握られ、傍らには魔犬が控えている。
……こちらに気付いていないというのであればラッキーだったが、そんなわけはないだろう。
ヤツが『門番』という可能性もありえるが、何にしてもヤツとの決着をここでつける必要があるのには変わりはなさそうだ。
「ふん、伏兵もなさそうだな」
蛇の頭部周囲は見通しも良いし、物陰に誰かが隠れているという可能性も低い――まぁエキドナというかドクター・フーは次元魔法でワープできるし、気にしすぎても仕方ない。
むしろ他の邪魔が入らないであろうことを喜ぶべきだろう。
唯一、何かが隠れている可能性があるとすれば、それは蛇の口の中かな? ただ、蛇の外側で戦うことを考えればやはりそこまで恐れなくても良いかもしれない。
……ま、私が思いつくような心配事なんか、アリスたちが気付いていないわけはない。念のため、私が見れる時に見ておくくらいで十分だろう。
「さっき言った通り、ラビっちはフランシーヌに任せるわ。
アリス、あたしと一緒に――」
「ああ。今度こそあいつと決着をつけるぞ」
嫌な予感は相変わらずだが、もう進む以外に道はない。
――これで全てが終わることを願って、私たちはエキドナとの最後の戦いに挑む。




