2-18 初めての実戦訓練:準備
三年生へと進級した春、学園生活の空気が一変した。
授業科目も刷新され、午前はこれまで通りの座学――魔法理論、戦術学、国語、数学、政治学、歴史、地理、第二外国語など、基礎教養を固める内容が続く。
しかし午後からは、より実践的な科目へと移行した。
剣術や魔法戦闘訓練の枠は「実戦訓練」として再編され、さらに舞踏や礼儀作法といった社交の素養も加わった。
学ぶというより、“鍛えられる”時間が増えたのである。
実戦訓練の舞台は、学園が保有する森やダンジョン。
そこに棲息する初級魔物を相手に、学生たちは実際の戦闘を経験する。
現れるのは、F~Eランクのゴブリン、コボルト、オークなど。
時に、森の奥に盗賊団が隠れ家を築いていることもあり、その場合は彼らも討伐対象に含まれる。
もっとも、スライムだけは出現しない。
――この世界におけるスライムは、転生前のゲームのような“愛嬌ある雑魚敵”ではない。
それは森の悪夢であり、旅人を喰らう災厄の象徴だ。
枝葉の影や地中に潜み、通りがかった獲物に向けて強酸を滴らせる。
あるいは木の根元から酸を噴き上げて襲いかかることもある。
その液に触れた者は、瞬く間に白煙とともに肉体を溶かされ、やがて骨さえ残らぬ。
運悪く飲み込まれれば、内部でじわじわと溶解されながら、生きたまま捕食されるのだ。
物理攻撃はまったく通じず、炎か聖魔法による浄化だけが有効な手段である。
ゆえに、スライムは危険度Cに分類されている。
この訓練に参加する生徒たちは、出自によって所属先が異なる。
平民の学生は、戦士ギルドや魔導師ギルド等へ登録して活動するのが慣例だ。
一方、貴族の生徒たちは立場によって事情が異なる。
上位貴族――公爵家や伯爵家の子息は、平時には領地経営に従事し、実戦の機会は少ない。
しかし戦時には軍を率いて前線に立つ者もおり、学園での訓練に参加する者も少なくない。
対して、子爵から騎士爵の下位貴族にとっては、この訓練が己を証明する唯一の舞台である。
戦場で武功を立て、褒章や昇爵を得ることが、彼らの生涯の目標なのだ。
――そして今日。
その初めての実戦訓練の日が訪れた。
舞台は、学園の北方に広がる深い森。
俺たちはそこへ、戦士としての第一歩を踏み出すことになる。
俺はストレージの中から、愛用の刀を取り出した。
銘は〈童子切安綱〉。
自己再生の付与が施された、日本の天下五剣に数えられる名刀である。
レンカは同じく〈蜻蛉切〉を手にしていた。
彼女の槍もまた、自己再生の付与が施された、日本の天下三名槍に数えられる逸品だった。
珍しい武具を手にした俺たちを、周囲の生徒たちは物珍しげに眺めていた。
「極東の武器だ」と説明すると、彼らは納得したようにうなずき、それぞれの準備へ戻っていった。
他の生徒たちは、この日のために新調した武具を身に着け、気合いを入れている。
しかし、その装備はどれも過剰に重く、前衛だけでなく後衛職までもがフルプレートアーマーに身を包んでいた。
鉄の鎧が軋む音がそこかしこから聞こえ、俺は思わず眉をひそめる。
「動けるのか、あれで……」
レンカも苦笑いを浮かべ、肩をすくめた。
俺たちの装備は、それとは対照的だ。
上下レザーアーマーの上にミスリル銀製のブレストアーマー、手甲、ブーツを装備した軽装備。
レザーには要所にミスリルの板金が仕込まれ、急所を守る設計になっている。
バックパックには水筒や地図、最低限の補給品を入れ、ストレージには念のための予備武具――バスタードソードと円盾を収納してある。
レンカも補助武器としてショートスピアを収めているらしい。
完全武装の生徒たちの列に混じると、俺たちの姿は否応なく浮いて見えた。
互いに顔を見合わせ、苦笑がこぼれる。
重厚な鎧の音が響く中、俺とレンカの軽やかな足音だけが、やけに静かに森の風に溶けていった。
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