4 ステータスオープン
部屋に静寂が戻った。母様たちは仕事があると言って部屋を出ていった。
広い部屋に残されたのは俺一人。窓から差し込む陽光だけが静かに部屋を照らしている。
「さて……」
俺はベッドの上で姿勢を正した。
異世界転生。
貴族。
チート。
ここまで来たらやることは一つだ!
前世で散々読んだ小説の主人公たちが必ずやっていたこと。
それは――
「ステータスオープン」
である。
言ってみたかった。一度でいいから言ってみたかった。
すると次の瞬間、ふわりと光が浮かんだ。
「おおっ!?」
目の前に半透明の板が現れる。
本当に出た!
ガラスのようでもあり、水面のようでもある不思議な板だった。
そこには文字が並んでいる。
⸻
ケビン・ランザルド・フォーゲリア
年齢 8歳
魔力量 無限
属性魔法 なし
【スキル】
鑑定
付与
デザイン
クラフト
錬金
空間収納(時間停止機能付)
「…………」
しばらく固まった。
いや、待ってほしい。
まず一つ聞きたい。
「魔力量、無限?」
二度見する。変わらない。
もう一度見る。やっぱり無限。
「雑じゃない?」
普通こういうのってSランクとかAランクとかじゃないのか。
無限って何だ。説明を放棄している気がする。
しかも、
「時間停止付き空間収納!?」
こちらも大概である。俺は思わず拳を握った。
やった。
やったぞ。
これ最高じゃないか。
収納がある。荷物を持たなくていい。重い物を運ばなくていい。引っ越しも楽。買い物も楽。
脛かじりライフに最適。
「勝ったな」
何に勝ったのか分からないが勝った気がした。
俺は早速実験を始める。
近くにあったクッションを持ち上げる。
「収納」
そう念じた。
すると ぽんっと、クッションが消えた。
「おおおおっ!?」
本当に消えた!
慌ててもう一度念じる。
「出ろ!」
ぽんっ。クッションが戻ってきた。
「すげぇ……」
感動。これは便利だよ。
最高だ。
前世で欲しかった。絶対欲しかった。
スーパーの買い物袋を何個も持たなくて済む。
夢の能力である。
続いて鑑定。枕を見る。
「鑑定」
綿入り枕
製作者:メルシー・フォーゲリア
品質:良
状態:良好
「母様の手作りか」
なんだか少し嬉しくなった。前世の祖母もよく布団や座布団を直してくれた。
思い出して少しだけ胸が温かくなる。
次は付与だ。
何となく枕に手を置く。
「快適に眠れますように」
そう願いながら魔力を流した。すると淡い光が宿る。
鑑定すると。
付与:快眠(微弱)
「できた!」
思わず飛び上がった。
試しに横になってみると、驚くほど心地いい。
ふわりと眠気が襲ってくる。
「危ない危ない」
本当に寝そうになった。
付与も使えるらしい。
ならば将来的には――
快眠枕、疲労回復クッション、肩こり軽減座布団。
そんなものも作れるかもしれない。
夢が広がるな。
さらにスキル欄を見る。
デザイン。
クラフト。
錬金。
付与。
全部ものづくり系だ。思わず笑みが零れた。
「ふふふふっ、最高じゃん……」
前世の俺は料理も裁縫も好きだった。
ぬいぐるみも作り、刺繍もした。
兄の子供たちに服を作ったこともある。
男なのに、と笑われたこともあった。
でも好きなものは好きだ。
仕方ない。でも今世では遠慮しない。
思う存分作れる。趣味に生きられる。
そして脛をかじろう。
するとふと母様のお腹を思い出した。
「妹だったらいいなぁ」
ぽつりと呟く。
妹ができたら、可愛い服を作る。ぬいぐるみも作る。刺繍入りのドレスもいい。
お兄ちゃんとして頑張りたい。
まだ生まれてもいないのに気が早すぎる。
だが夢を見るのは自由だ。
そしてもう一つ。
気になる存在があった。
「土精霊様……か」
記憶にある建国の話。この世界には精霊がいるらしい。国旗にも描かれている。昔は見えていたらしい。なぜか今は見えない。いなくなってしまったのかもわからない。
だから、俺は思う。精霊さまを見つけたい。なぜなら、フォーゲリア領は貧しい。
父様も母様も頑張っている。
もし精霊さまのお力を貸してもらえるなら、少しだけでも助けになってほしい。
夢を見てもいいだろう。子供だし。
俺は机に向かった。そして紙を取り出して、精霊さまを帯びい寄せる、ではなく現れてもらえるにはそうしたらいいか紙に書きだした。
・土精霊様用のテーブル
・テーブルクロス
・お菓子
・ジュース
「よし」
本当に来るとは思っていない。でも信じるだけならタダだ。
やって損はない。
俺は満足してベッドに潜り込んだ。瞼が重くなった。
まだ怪我人なのだ。本調子ではないんだ。
「よし、明日から頑張ろう……」
そう呟いて目を閉じる。
この時の俺はまだ知らなかった。
この軽い気持ちで始めたお供えが、フォーゲリア伯爵領の運命を大きく変えることになるとは――。




