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拠点予定地への移動と建設の開始


私たちは職人15人を馬車2台に、資材を馬車5台に乗せて町を離れた。

付近のニュエルソーン王国の国境から目的地までは、約1日半かかるだろう。

出発前から顔色の悪かったモーリスは、馬車の中でも頭をかかえている。


「この事態を予想できなかったのは、モーリスだけの責任ではありませんよ」

「ですが……。ケリマに指示をしていれば防げたことかもしれません」


残念なことに職人の半数が夜逃げをしてしまったらしい。

資材の輸送を頼んだ御者たちの半分も馬車ごと消えていた。

私はシャルル王子の要請を受けた職人や御者だと思って安心してしまっていた。


”ダンジョンホード”直後のコフィへは行くのは自殺行為だ。


普通の町人であれば、そう思って当然だろう。

むしろ、王子の要請とはいえ、よく半数も残ってくれたものだ。


「人足に支払った給金は、必ずお返し致しますので!」

「いいえ。そもそも私はモーリスたちに給金を支払ってさえいません。返す必要などありませんよ」


建設で力仕事を行う人足に至っては、全員が逃げ出していた。

人足を取り仕切る親方は、家族と借金を残して姿を消したらしい。


「残った職人も全員が大工でないことが不安ですね。まさか、木工職人が5人もいて、鍛冶職人が2人いるとは……」

「木工職人は木材加工に役立ちますが、鍛冶場などあるわけもないのに」


私の愚痴にモーリスはさらに肩を落とした。


モーリスは王子が鍛冶職人を寄こすとは、思ってもいなかったのでしょう。

私も拠点建築の手伝いの職人は、全員が大工になると考えていました。

鍛冶屋が必要になるとしたら拠点が完成する間近だと思うのです。


まさか、釘から作らせると思ったのでしょうか?



「ヴィオラ。テクラから伝書鳩は届いていましたか?」

「今朝は届いていませんでしたねぇ。これから向かう場所の簡単な地図を送りましたから、森の民が直接コフィに来ると思いますよ」

「私の要求を断るにせよ、使者ぐらいは送って欲しいですね」


森の民の国ボルスタでは、未だに集会での意見がまとまらないらしい。

直接コフィに来るのは構わないが、モンスターに襲われないだろうか?


「鳩がグリフォンにやられて手紙が届かない、ということはありますか?」

「うーん。私はグリフォンには詳しくないですねえ。ケリマさーん!!」


ヴィオラは馬車の周囲で護衛をしているケリマに声をかけた。

ケリマが馬を近づけてくる。


「グリフォンに伝書鳩が食べられることってありますか!」

「あっ!?ない!腹の足しにもならないだろう!それに!グリフォンは直線は早い!だが普通の鳥より旋回が下手くそだ!胴体が4本足だからな!」


ケリマは馬を走らせながら器用に答えてくれた。


グリフォンが動物を捕まえる彫刻を見たことはある。

旋回が苦手なら空の生き物を捕まえるのは大変そうだ。

ケリマが木を飛び移って戦ったのは、旋回が苦手と知っていたからだろう。



出だしからつまづいてしまったようです。

これでちゃんとした職人でなかったらと思うと……。

私の怒りはシャルル王子へ向くことでしょう。



 ◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇



ニュエルソーン王国の街道からコフィへ入ると、すぐ左手に川が見えた。

大型の爬虫類のモンスターや大きめな亜人の死骸が川に溜まっている。

ニュエルソーン側へ流れないようにする為、丸太や岩で川を塞いでいた。


「あれを外したら外交問題になりますかね?」

「どうでしょうな?撤去作業が大変そうですが、爆破なら簡単かもしれません」

「ニュエルソーンの職人たちには、爆弾処理班の姿は見せたくありませんね」


ブヨブヨ甲冑は爆弾処理班という爆発で吹き飛ぶ兵士の服装らしい。

兵士の記憶を辿ったあとに、何度も赤い線を切る夢を見た。

兵士が「俺たち爆弾処理班は!」という台詞を口にしたので間違いない。


夢の中でも「軍曹ー!」と叫んでいた人がいたので、彼も爆発したのだろう。


「魔法なしとなりますと、あの中での作業は厳しいでしょうな」

「死骸の匂いと謎の毒物が蔓延していそうですね……」


モーリスの指摘どおり、隣国が残した死体を除去する余裕はありません。

そもそもコフィのモンスターだろ、などと言われたら面倒ですね。

モンスターは死んでからも処理が大変とは、非常に厄介な存在です。



昨日ケリマが報告してきた二つ目の候補地付近で休憩をとることにした。

街道にもアチコチに穴が開いていて、私たちの馬車は何度も大きく揺れた。

虫のモンスターが巣くっているらしいが、私には見えない。


「クラリス様の体調が不安です。休憩ではなく一晩休めませんか?」


レリアが青い顔をして私に提案をした。


クラリスだけじゃなくレリアの体調も悪そうに見える。

看病で疲れが出てしまってるのかも知れない。

虫のモンスターは弱いと聞いたので、ここで一晩過ごしても危険は少ないだろう。


「ケリマ。ここを調査したときに休めそうな建物はありましたか?」

「砦の建設跡の近くに職人用の小屋が残っていたとは思う。ただ、休むなら虫を追い払うべきだぞ。取り囲まれて起こされるのは嫌だろ?」


屋根のある小屋ならば充分だろうか?

馬車の中よりはきっと快適なはずだ。


「案内して頂けますか?虫を焼き払いたいので」

「食えるヤツなら夕飯にするか?ロマッリは護衛で留守番させよう」

「そうですね。ロマッリにあとは任せておきましょう!」


ロマッリは暇つぶしで同行したがるだろう。

そして、ケリマとの口喧嘩が始まってしまう。

黙って出かけるのが一番だ。



少し坂を上ったところに職人用の小屋があった。

平屋の長方形の建物が4軒ほど建てられていたのだろう。

ほとんど残骸しか残っていないが、1軒だけは人が泊まれないことはない。


「この建物は外壁の中に納めるつもりだったんですかね?」

「だとしたら大きな砦を建てるつもりだったんだろうな。基礎もなにもないから想像するしかないけどな」


地面をならした様子がないのは、虫が巣くったからではなさそうだ。

色々と準備だけして放置したのだろう。

遠くに見える盛り土の作業も雑に行ったに違いない。


「ケリマあれは虫ではありませんよね?」

「ん?肌は緑だけどな。ここのダンジョンのモンスターは種類が豊富だな!」


ケリマは少しうれしそうな笑顔を作って私を見た。



なにがうれしいのかまったくわかりません。

不潔な格好をしたモンスターが盛り土に集まってきました。

土に腕を突っ込んでいます……。



 ◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇



「遠くてわからないのですが、ケリマぐらい背の高いモンスターですか?」

「ほお?お前は私をオーガの一族だと言うのか?」

「痛いです!違いますよ!オーガのことはよく知りませんけど」


ケリマは私の頭に大きな拳をグリグリと押し付けた。


身長はケリマとあまり変わらない気がします。

きっとオーガのメスはケリマみたいな体をしているのでしょう。

オスの方は筋肉がはち切れんばかりにモリモリしています。


「連中は外壁を越えられずに戻って来たのかもな」

「お腹を空かせて虫取りをしてるんですか?ほっときましょうか?」

「ほう。放っておきたいか?連中の好物は人肉だけどな」


それは困りますね……。

そんなモンスターが領内にいたら邪魔で仕方ありません。

あんなガッチリした化け物の駆除は、ロマッリの方が適任だと思いますけど。


「おとなしく私が燃やしますか」

「派手に燃やせよ!」


ケリマはオーガと戦いたくないのだろうか?

見た感じオーガの体臭がきついのかもしれない。

緑色の肌をしているので、毒を持っていても不思議ではない気がする。



< ドラゴンフレイムスロワー >


久しぶりの漆黒の悪魔。

じゃなくて、私は真っ黒な火炎放射兵の出で立ちをしている。

たまに着るのなら、悪い気はしない。


「おい!悪魔女王。そいつの最大射程はどれぐらいだ?」

「確かケリマ15人分ぐらいの距離です。もっと伸ばす方法もありますけど」


ケリマは私のスネを蹴り飛ばした。


30Mちょっとだから数字は合っているはずです。

一応100Mにする手段もあったはずですが、今の私には不可能でしょう。


「連中は駆け寄ってくるぞ。わざわざ引き付けてから火炎を放射するような真似はするな!射程を活かして戦うんだ」


ケリマが珍しく真剣な顔をしている。


最大射程を保つように火炎放射を行わないと叱られそうです。



―――ガシャコン!


私が魔力燃料を銃部に注入する音が辺りに響いた。

オーガたちが虫を貪るのをやめて私に視線を合わせた。


「ウオオオオオオオ!!」


角の兜のようなモノを被ったオーガが叫び声を上げた。


その叫び声を聞いてオーガたちが群がる。

視界に入っていなかったオーガたちも参戦するようだ。

20匹以上はいるだろう。


「ウオオオオアオアアアア!」


オーガたちが一斉に私に駆け寄ってくる。

利き腕には棍棒を持っている者や丸太を抱える者がいる。


「おい!早く撃て!人間と同じだと思うなよ!」


ケリマが大声を上げた。


そうでした。

武器を持っていても彼らはモンスターです。

ダンジョンで生み出された異形の者たち。



 ―――ブオオオォォォオォォー!


私の放った火炎がオーガを包み込む。

彼らは歩みを止めないので一本の火柱に3匹、4匹と巻き込まれていく。


「そ、そんなっ!ケリマさん!?」


オーガは極端に炎に強いのか、体が燃えているのに走ってきた。

炎を浴びせ続けると黒コゲになったオーガが突然力が抜けたように倒れた。

火炎が効かないわけではないようだ……。


「気を抜くな。なぎ払えよ!」


私は指示に従って左方向に火炎を放ち、一気に右方向に火柱を走らせた。

だがオーガたちは表情を変えずに突撃を続ける。


もう目の前まで来てしまう!


「下がるな小娘!目をつぶったらやられるぞ!」


気圧されて下がろうとした私を、背後についたケリマが押してきた。


このまま燃やすしかない。

私は目の前に迫るオーガに炎を浴びせ、右から近づくオーガも燃やす。


「ガアアア!!」


左のオーガには間に合うはずがない!



 ―――ズブッ


左から飛び出してきたオーガの首にナイフが深々と刺さった。

ケリマはもう一本のナイフをアゴの下に刺して、二本同時に引き抜く。


「まあ、上出来だな」


ケリマは独り言のように呟いた。

そして、スライディングをして倒したオーガの股をくぐる。

後ろで呆然と立っていたオーガの股もくぐって後ろからナイフを頭に刺した。


「ウオオワアアア!!」


オーガたちは怒りの声を上げたかと思うと、武器をケリマに投げつけた。

そしてそのまま後ろを向いて退却する。


「いって。あいつらダンジョンから出たばかりなのに統制が取れていたな」


ケリマは足をさすりながら私に近寄ってきた。


「ケリマさんが助けてくれなければ、危ないところでした……」



目の前までオーガが迫っていました。

助けがなかったら棍棒で殴りつけられていたはずです。

頭が真っ白になって、近接戦のイメージが湧かなかった……。



 ◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇



「言ったろ?上出来だ。11匹も焼き殺したんだから充分だろ」

「ええ。ですが……」

「オーガは魔法使いに結構強いんだぞ。恐怖や痛みに鈍感だからな」


炎に強いんじゃなくて、痛みに強い?

いや、鈍感だから強いわけではないのか。

仲間が燃やされても平然と走ってくるのは、恐怖に鈍感なせいなのか。


「お前が先にビビってしまって、炎が弱くなってしまっていたからな」

「そうだったのですか?気がつきませんでした……」

「ヤツらは人間が滅多に取らない反応をする。私のナイフに仲間が刺されたを見て、ようやく大勢が焼け死んだことを理解したみたいだからな」


敵に火炎が利きにくい、そう感じたなら炎を強めるべきだった。

弱気になった私は、知らないうちに炎を弱めていたのか。

ケリマがいなければ危険だった。同じ失敗はできない。


「連中のおかげで虫は出てきそうにないな。こいつらの後片付けは残ったけどな」

「オーガの亡骸をすべて灰にするには、魔力が余分に必要になりそうです」


寝床が確保できたのですから埋葬は手伝って頂きましょう。

あの建物に入りきれない人たちは、免除ということで……。



「怖い思いをしたので眠れません、って言ったのは誰だった!?」

「ケリマさんに助けてもらったので、見張りは代わりますって誰が言った!?」

「申し訳ございません……」


馬車に乗り込む前に、ロマッリとケリマに叱られた。


眠れないはずでしたし、見張りを代わるつもりでした。

でも、気付いたときには朝だったのです。

世の中不思議なこともあるモノですね。


「育ち盛りなんだから仕方ありませんよね」

「そうですよ!私たちは一度眠ったら目が覚めない年頃なんですよ!」


昨日より顔色がよくなったクラリスに愚痴を言った。


砦跡の小屋で休んだのは正解だった。

オーガと戦ったことも今後の経験に活かせるはずだ。


「護衛なのにバイオレット様をお守りできず申し訳ありません」

「クラリス。今そのことを気にしてはいけませんよ。気分でどうにかなるものではないのです。無事出産を終えるまであなたは護衛ではなく、守られる立場なのです」

「そうですよ。クラリスお嬢様。いずれお役に立てる日が来るのですから」


視線を落としたクラリスを私とレリアで慰めた。


シャルル王子との別れだけで気が参っているはずなのに……。

私の護衛などで悩んで欲しくはないですね。

モンスターの心配もしなければならないはずなのですから。



 ◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇



私たちは日が落ちる前に拠点建設予定地にたどり着いた。

北には水源があり、近くには街道が走っている。

さらに、多少破損しているものの監視塔が3本も周囲に建っている。


「監視塔が3本あったのですよね!?」

「ん?ああ、ここから見える西の塔は、屋根までついてたはずだぞ」


ロマッリは目を細めて崩壊した監視塔を見た。


「南の塔は屋根はなかったけど、充分使える感じがしたんだけどな」


ケリマは首をかしげながら、散乱した石材やレンガを見ていた。


「お嬢様!ダンジョンが付近にある場所とは本当でございますか!?」

「えっ……、あ、はい」


アンナが血相を変えて私に駆け寄ってきた。


監視塔が3本も用意されていたはずなのです。

それはダンジョンの様子を監視するために建設された施設になります。

でもなぜか、監視塔が1本しかないのですけど!?



「”ダンジョンホード”が起きたのに、ダンジョンの周りに残っている馬鹿なモンスターなどいない、そうおっしゃいましたよね?」

「それは言ったな。だが俺はここに拠点を置くのは反対でもあったぞ」

「それはお前が、ダンジョンで働かされるが嫌だったからだろ!」


とぼけるロマッリをケリマが責めた。


「ケリマも、灯台下の暮らしは悪くない、って言葉を知らないのか?って私に言いましたよね?灯台?ってなんのことかわかりませんが、ここで暮らせますか?」

「男子三日もあれば暮らせる、って言うからな。三日は頑張ろう!」


昨日の小屋まで戻って拠点を建設する?

虫によって開けられた穴がそこら中にあったはず。

建設を行うのは危険だろう。


川の下流まで戻るのはどうだろう?

下流の死骸を片付けるのにかなりの時間がかかる……。

そして、ニュエルソーン王国がすぐ側にある。ささいなトラブルも避けたい。


「ケリマは明日輸送隊を率いて町まで戻って、残した資材を運搬してください」

「わかった。護衛が減るんだ。充分注意しろよ?」


数日であってもケリマがいなくなるのは厳しいでしょう。

監視塔を破壊するようなモンスターたちがいるかもしれないのです。

でも、監視塔の造りが雑なだけかもしれませんし……。



私たちは1本だけ残った屋根のない監視塔の最上階で眠った。

職人たちは下の階で寝たらしい。

翌日、目覚めるとケリマは町に向かう準備を整え、職人たちは柱を用意していた。


「ケリマさん気をつけてくださいね。なにかあったら本当に困りますよ!」


私が声をかけると、ロマッリとケリマが不思議そうな顔をして肩をすくめた。


私が心配をすることが、なにか可笑しいのでしょうか?

雑魚は自分の心配をしろ、とでも言いたいのですか!?


「もしかしてお前、昨晩目が覚めなかったのか?」

「ああ。気をつけるのはお前らの方だぞ?」


昨晩は寝つきがよかったので目覚めなかった気がします。

むしろ、滅多なことでは夜中に起きませんけどね!


「ロマッリ、小娘女王を頼んだぞ」

「任せておけ!デカブツ相手にはギロチンが丁度いい」


二人は力強く頷いて、同時に踵を返した。


「小娘とっとと来い!地面のならし方を教えてやる。道具が足りなきゃ職人に作らせなきゃならんな」

「えっ?私がやるんですか?」


ロマッリは声をかける私に振り向くことなく先へと進んで行った。


人足がいないのです。

私も働くしかないでしょうね……。

というか、モーリスの図面を見せてもらっていませんよ!


おかしなモノを作ろうとしていなければいいんですけど。

職人や人足には大勢逃げられてしまいましたが作業延期はできません。

”ダンジョンホード”直後で安全なはず?のダンジョン周辺を第一拠点としました。



次話 拠点建設を進めるものの厄介なモンスターが存在していました


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