侵入者
「――で、今度はどこなのよ……」
宇宙が舞台だと思ったら、一転して草木のない荒野が広がっていた。一貫性がないダンジョンよね。
「今までが異質だったと考えるべきでしょう。これでようやくダンジョンらしく――」
「敵だーっ! 敵がいるぞーーーっ!」
ライフルで武装し、サイボーグのような格好した連中がこっちに向かってくる。
もしかしなくても敵って私達の事よね?
「やられる前にやるのは当然よ。みんな、やっちゃって!」
「おっしゃ、任せとき!」
急に元気になったホークを先頭に、セレンとザードも向かっていく。
「ウィンドカッターや!」
「ベノムスラッァァァシュ!」
「スプラッシュ~ウォーターボール~♪」
ドドドドドドッ!
「「「ぐぉあ!」」」
一斉に飛び道具を食らった敵がその場に崩れる。見た目ほどの強さはないらしい。
「そこだーーーっ!」
バスバスバスバス!
「イデデデデ! やったなこんクソがぁ!」
「ぐわぁ!」
死角から狙撃されたホークだけど大したダメージにはならず、反撃一発で消滅した。
見た目だと強そうなのに大して強くないらしい。
こんな雑魚を寄越してくるとか舐められたものね。
『……やりおるな。やはり実物から大きく劣化しているのは改良の余地ありか……』
「何強がってんのよ。負け惜しみはいいからさっさとアンタのところへ案内しなさい」
『チッ……つくづく生意気な小娘よ。ならば司令塔まで来るがよい』
「……どこよそれ?」
『フッ、せいぜい苦労して探し回るがいいわ。フハハハハ!』
「ちょっ、待ちなさい!」
その笑い声を最後に、ガルドーラの声は聴こえなくなった。
アイツ、また時間稼ぎをするつもりね!
「こんなところで迷ってる暇はないわ。ホーク、セレン、上空から建物を探して。司令塔っていうくらいだから、遠くからでも目立つ大きさのはずよ」
「ラジャーやで!」
「承知しました~♪」
私とアイカも二人に続いて上空へと舞い上がり、四方へ分かれて捜索する。
唯一飛べないザードは、人化を解いたホークの背中よ。
『お姉様、西側の方は海が広がっておりますが、物理的に進めません。下にも司令塔らしきものは見当たりませんね』
西はハズレね。
『アイリ様~、南側ですが~、荒野の先に~、砂漠が見えます~。でも~』
『西側の海と同じく進めないんでしょ?』
『は~い~♪』
って事は南もハズレか。
『こちら北側のホーク。ただいま敵と交戦中やで!』
『敵?』
『よう分からんけど、さっきから戦闘ヘリがしつこいねん――イダダダダダ!? おどれらぁぁぁ、ええ加減にせぇよ!』
『ベノムスラァァァッシュ!』
歩兵だけじゃなく、空の部隊までいるらしい。
北側はまだ捜索中だから、早いとこ東側も終わらせて北に向か――
ドゴォォォン!
「いったぁぁぁぁぁぁい!」
何かがお尻にブッ刺さった!
「どこのどいつよ! 乙女のお尻を狙う変態野郎は――って何もない!?」
下を見渡しても荒野があるだけで、敵とおぼしき存在は見当たらない。
いったいどこから?
シューーーッ!
「――っと危ない!」
北の方からミサイルもどきが飛んできたわ。
さっきはアレがお尻に命中したのね。
『アイカ、セレン、至急北東に向かって! そっち方面からミサイルが飛んできたの!』
『了解です』
『承知です~♪』
司令塔に近いから迎撃されたと考えられるわ。
シューーーッ!
「またきた!」
っとにしつこいわね!? これじゃ落ち着いて捜索できないじゃない!
ガシッ!
「いい加減に――」
ブン!
「しなさーーーい!」
チュドーーーン!
ぶっとい注射器のようなミサイルを強引に掴みとり、飛んできた方向に投げ返してやった。
地上への着弾とともに爆発し、ちっちゃなキノコ雲が出来上がる。
「さてさて、上手く命中してるかな?」
撃ってきたのが司令塔からだと、今のでおとなしく――
ボムッ!
「アチチチチチ、顔が焼ける!」
クゥ……一度ならず二度までも!
しかも今度は顔面よ!? 痕が残ったらどうしてくれるのよ!
「もう許さない。司令塔だか何だか知らないけれど、跡形もなくブッ壊してやるわ! 燃え尽きなさい――イグニスノ――」
『お待ちくださいお姉様、破壊した後では転移装置の発見に支障が出ます!』
『ムグググ……』
そう言われるとその通りとしか言いようがない。二度手間は避けたいし、焼き尽くすのは止めとこう。
命拾いしたわね司令塔。でもこのままじゃ気が済まない。
『せめてファイヤーボールでの牽制くらいならいいでしょ?』
『それくらいなら、まぁ……』
よし決まり!
「スプラッシュファイヤーボール!」
ドドドドドドン!
どうよ? これなら――ん?
『敵対反応確認、敵対反応確認。司令塔上空に新手が出現、直ちに撃墜せよ』
荒野の一部がスライドし、中から戦闘機が出てきた。
なるほど。あの辺りの地下に司令塔があるのね。
『みんな、司令塔らしきものを発見したわ。直ちに集合して!』
『は~い♪』
『っしゃあ! ちょうど敵を殲滅したとこや。今から行くでぇ!』
「わたくしは到着してますよ」
アイカが一番乗りか。
まずは二人で戦闘機やら戦闘ヘリやらを叩き壊してやろう。
「今度は全力でも構わないわよね?」
「はい。但し、地下にあるとおぼしき司令塔への攻撃はお控えください」
「そんなの分かってるわ――」
言質をとった事だし、ゾロゾロと上がってきた機体に対し、炎を宿した掌を向けた。
「――よ!」
ゴォォォォォォ!
たちまち炎上を起こした戦闘機が次々と落下していく。
射程距離も威力も私の方が上ね。
「ではわたくしも――ウィンドスマッシュプラス!」
ドォン、ドォンドォン!
広範囲に渡る突風を叩きつけ、戦闘ヘリが荒野に沈む。
十数機を撃破するとすっかりおとなしくなったわ。
「お待たせやでアイリはん!」
「ただいま到着です~♪」
邪魔物を片付けてるとホーク達も到着。
それじゃ改めて――
「お姉様、地下施設の入口が閉じようとしています!」
ったく、一息つく間もないわね。
「みんな、急いで!」
閉じようとしていた入口に向け急降下を開始する。
これで間に合わなかったら、今度こそ施設ごと燃やしてやるわ!
ガシーーーン!
ふぅ、ギリギリセーフ!
「みんな居る?」
「大丈夫です、お姉様」
「問題御座らん」
「ワイも居るでぇ」
あれ? セレンは――
「あ~れ~~~!」
「セレン――って、何やってんの?」
「は、羽が~、挟まってしまいました~」
よく見れば、羽の一部が挟まれてジタバタしているセレンが……。
「多少抜け落ちてもよくない?」
「よくないです~」
「後で回復すればよいのでは?」
「心が痛みます~」
「ゲハハハハ! 更年期障害や更年期障害!」
ブチッ!
「ォォォオオオ……ふっっっざけんなテメェゴルァァァ!」
「ヒィィィ!?」
「テメェの羽を全部むしり取ってやろうかゴルァ、あ"!?」
「す、すまんかった、セレン。ほんの出来心やってん、堪忍してぇな!」
元の状態から人化したセレンが、鬼の形相でにじり寄る。
対するホークはジャンピング土下座を開始し、ブルブルと身を震わしてるわ。
というかセレン、人化と同時に抜け出せてるじゃない。
「落ち着いてセレン。今それどころじゃ――」
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
『司令塔に侵入者あり、司令塔に侵入者あり。直ちに迎撃せよ。繰り返す。司令塔に――』
っとにもう、気が休まらないったらありゃしないわ。
「みんな、敵に備えて!」
私達の侵入を感知し、いかにもな軍事施設にアラートが鳴り響く。
直後にドタドタと走り回る足音がアチコチから聴こえてきた。
「あそこだーっ! 撃て撃てーーーっ!」
「フン、何度来ても同じよ――ファイヤーストーム!」
「「「ぎゃぁぁぁっ!」」」
騒がしい周囲を焼き払い、だいぶ静かになったわ。
ガコン、ガコン、ガコン、ガコン……
「まだ何かいるわね」
重い足音――いや、重い機械音が聴こえる。
それは徐々に大きくなっていき、ついに!
ドォォォォォン!
「侵入者を確認。これより抹殺します」
鉄製の扉をブチ壊して現れたのは、人の十倍はあろうかと思われる人形歩行兵器だった。




