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無人島でエルフと共同生活  作者: わんた
エルフと始める無人島生活
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襲撃2

「クソ!」


 場所は東京にある烏山議員の事務所。

 襲撃が失敗したと報告を受けると、怒りを隠すことなく周りに当たり散らしていた。


 秘書の梅澤は追い払うようなジェスチャーで周囲の人間を事務所から退出させると、顔が真っ赤になった烏山議員を落ち着かせようとした。


「落ち着いてください。声が漏れてしまいます」

「これが落ち着いてられるか! 武器も持っていない素人に負けるなんて、使えない奴らだ! クソッ。思い出しただけでも腹が立つ」

「上陸したと思われる人間はすべて帰ってこないそうです」

「死んだか? …………だが、その線で攻めるのはリスクが高いな」


 報告を聞いた瞬間、侵入者の死から健人を追い詰める方法を思いついたが、彼らとの関係を表に出せないと考えなおすと、保身のため真相究明を諦め闇に葬ることにした。


「拳銃を持った人間を、ものともしないか……」

「そのようですね。大勢で乗り込むことも難しいですし、武器、人材にも限界はあります。諦めますか?」

「諦めん! 絶対に手を引くことはせん!」


 裏から手をまわして孤立させて自殺に見せかけて殺害、金の力で事件をでっち上げて政敵を辞職させるなど、成り上がるために味方と同じぐらいの敵も作ってきた。だからこそ、一般人に負けることは自身のプライドと隙を見せたら蹴落とされてしまう恐怖感が、判断を誤らせ、後戻りできない道を進むことを決めてしまった。


「だが、お前が言いたいこともわかる。拳銃だけでは決定打にはならないのだろう。やはり魔法か……だが、この件で使えるやつを大量に集めることは出来ん。別の方法で数も用意しなければならんな。できれば、魔法士と戦えるレベルのものだ」

「へぇ」


 いまでのやり方――成功体験にとらわれることなく、魔法の強さを正しく理解した烏山議員。その柔軟な考え方に、梅澤は立場を忘れて声を漏らす。


 それは烏山議員が最低ランクではあるが、魔法士の資格を所有しているのも無関係ではないだろう。だが、魔法が使えれば誰でもいいといったレベルの考えしか思い浮かばなかったのが、彼の限界だった。


 実際には、扱える魔力の量で身体能力強化をはじめとしたさまざまな魔法の威力などが変わり、それが戦闘能力の差にまで直結していた。健人たちのレベルであれば、5級や4級といった魔法士レベルでは同じような結果になるだけだろう。


「リスクは大きいが、あの無人島を手に入れた時のリターンも大きい。ちょうど、新宿のダンジョンを管理しているヤツの弱みは握っているし、なんとかなるだろう」


 先ほどの会話から組み立てた自らの作戦に自信があるのか、いやらしく口元を上げていた。


◆◆◆


 最初の襲撃から1か月後。夜に紛れて一隻の船が無人島の砂浜に付近に停留していた。


 前回の襲撃はゴムボードだったことを考えると移動手段だけでも豪華になっている。だが、大きな違いは船の外観だけではない。船内には、肉食動物を移動させるために使う檻があった。むろん、普通の動物が入っているわけではない。子どもの背丈ほどあり、緑色の肌と長い耳、そして鷲鼻が特徴的なの魔物――ゴブリンが鉄製の檻の中から柵を叩いていた。


 研究用として捕獲してダンジョンから持ち出されたゴブリンを、烏山議員が直接交渉し、権力に物を言わせて5匹、横流しさせることに成功していた。


 魔法が使える黒い目出し棒をかぶった襲撃メンバーが3人と船長、梅澤秘書の5人。さらに魔物のゴブリンが5匹。これが2回目の襲撃メンバーであり、烏山議員が送った最後の刺客だった。


「これからゴブリンを放流します」

「はい。事前の作戦通りでお願いします。3時間後には戻ってきてください。1秒でも過ぎたら、失敗したとみなして戻ります」


 襲撃メンバーは無言でうなずくと、身体能力を強化して檻を持ち上げると砂浜に向けて投げ捨てる。さらに、2mはある鉄の棒も同じ場所に投げ捨てた。


「準備が終わりました」


 梅澤秘書が、無言でスーツの胸ポケットからスイッチを取り出してボタンを押す。


「ギャガギャギャ」

「ギャギャ」


 自分を閉じ込めていた檻のドアが開いたことに驚いたゴブリンが声を上げる。罠の可能性を考えるほど知能は高くないため、すぐ檻から飛び出すと砂に突き刺さっていた鉄の棒を手に取った。


 ゴブリンは人間。それも女性の匂いに敏感であり、数km先にいる匂いまで嗅ぎ取れるほどだ。人間より優れた嗅覚によって、異世界では集団で村を襲い女性を攫っていく事件が多発し、ゴブリンが原因で村が全滅するといった話も珍しくはなかった。


 夜空を見上げるように顔を上げたゴブリンは、鷲鼻をヒクヒクとさせると、エリーゼの匂いに惹かれるように、健人たちが住むコテージへと向かっていった。


 けたたましく鳴り響く警報で目覚めた2人は、モニターが並んでいる部屋に移動すると、コテージ周辺とゴーレムダンジョンの入り口に設置していた監視カメラの映像を見ていた。


「今度は誰が乗り込んできたんだ?」


 わずかな変化も見逃さないように、モニターを睨みつけていた。


「あそこ! 何か動いたわ」


 指差した箇所を見ると、草木の一部が不自然に動いていることに気がついた。固唾を飲んでモニターを見ていると、子どもと思われるような小さな2速歩行の生物が1匹、森から出てきたかと思うと次々とモニターの前に出現した。


「うそっ……なんでゴブリンがここにいるの? ゴーレムダンジョンには生物は存在しないはず……近くに新しいダンジョンができた?」


 本来存在しないはずのゴブリンがモニターに映し出されたことにショックを受けたエリーゼは、数歩後ずさってしまった。


「こんな狭い島に新しいダンジョンが出現する可能性は低いと思うよ。それより、新宿のダンジョンからこっちに来たと考えた方がいい。東京に行った時に調べたんだけど、あそこは草原や森といったフィールドになっていて、2速歩行の魔物が出現するらしい。人知れず、ゴブリンが船を運転して無人島に上陸できないだろうから、誰かがここまで運搬したはずだ」

「ということは、モニターに映ったゴブリン以外にも襲撃者がいるってこと?」


 健人の説明で冷静さを取り戻したエリーゼは、同意を得るために質問をした。


「ああ。ちなみに、ゴブリンはどのぐらい強い?」

「ウッドドールより少し弱い程度よ。健人の実力なら、5匹同時に相手にしても余裕で対処できるはず」

「わかった。それなら俺がコテージに出てゴブリンを迎え撃つから、エリーゼは2階から他に敵がいないか監視してほしい。もちろん、弓で狙撃できそうならお願いするよ」


 エリーゼが作戦に同意すると、モニター室に隠していたアイアンドールから手に入れた剣を手に取り、健人は1階へと降りていった。


 街灯がある都市とは違い、無人島の夜は深い。特に今夜は月が雲に隠れているため、足元すら見えないほどだ。


 そんな状況で外に出てもまともに戦闘はできないため、コテージの外に出る前に、コテージ周辺を淡く照らすのに必要な火の玉を放ち、さらに腰に電気ランタンを取り付けてから、様子をうかがうようにゆっくりとドアを開けて外に出る。


「ギャガ! ギャガ!」


 コテージに近づいていたゴブリンは、目の前が急に明るくなったことに驚いていたが、健人の姿を見ると、指をさして鉄棒を振り回しながら近寄る。


 健人は左手を前に出すと、先頭にいるゴブリンに向かって氷槍を放つと同時に、ゴブリンに向かって走り出した。


「ギャギャギャ!」


 先頭を走っていたゴブリンは大声で叫ぶとギリギリのところで氷槍を避けるが、後に続いた健人がすくい上げるように振るった剣によって、体を半分に切り裂かれながら宙に舞い、地面に着地すると黒い霧に包まれて消滅してしまった。


「まずは1体目!」


 自身を鼓舞するかのように声を出す。


 先頭を走っていた味方が宙に舞ったことで驚き、立ち止まっていたゴブリン達だが、立ち直ると扇状に分かれてじわじわと近づいていく。その姿を横目に健人は魔力を足元に移動させ、ゴブリンが立ち止まると同時に魔法を放った。


「ギャガ?」


 魔法を全く感知で来なかったゴブリンは、地面が盛り上がってできた、数多の細く長い土棘によって串刺しになっていた。


「運良くまとめて処理できたけど……あれ? なんであいつだけ消えないんだ?」


 細く伸びた土棘に突き刺さったゴブリンは黒い霧になり消滅していたが、奥にいた1体だけは、体から血を流し続け死体が残っていた。今までと違う現象に驚いた健人は、魔力の共有が途切れて、光の粒子になって消えかかっている土棘の森を歩いてゴブリンへと近づく。


「健人、伏せて!」


 エリーゼの声が聞こえた瞬間、迷うことなく武器を手放して地面に伏せると、弾丸が空気を切り裂く音が、健人の耳に届いた。

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