襲撃3
前回お休みしてしまったので、連日更新です。
ゴーレムダンジョンでの探索では、何度もエリーゼの指示に従っていた。体にまで染み付いたその訓練のおかげで、健人は命拾いをしたのだった。
「もう大丈夫よ。健人を狙っていた人間は排除したわ。私もそっちに行くから」
間隔を開けて2回。小さな悲鳴が聞こえたかと思うと、2階の窓からエリーゼの声が聞こえた。
健人はゆっくりと立ち上がり、周囲を警戒しながら服についた土埃を落とし、ゴブリンが落した魔石に近づき拾い上げる。腰から外して手に持った電気ランタンに照らされた魔石は、ウッドドールと同じような色、大きさをしていた。
(ウッドドールと同じような強さなんだな)
魔石から魔物の強さを推測しながら最後の魔石を拾いあげると、背中から声が聞こえた。
「両手を上げてゆっくりとこっちを向け」
この場にはふさわしくない低い男性の声が聞こえ、健人の脳内は一瞬で戦闘へと意識が切り替わる。男の声に従ってゆっくりと振り返ると、エリーゼの首を腕で締め、拳銃をこめかみに押し付けてる目出し帽の男性が目に入った。
「健人、ごめん……」
ドアを開けた瞬間に捕らえられたエリーゼは、自らの油断が招いたピンチに後悔の念にかられていた。
「まだ……生き残りがいたのか」
相手が隙さえ見せればエリーゼなら抜け出せる。一緒にゴーレムダンジョンを探索したからこそ、彼女の実力を信じている健人は、隙を作るために会話することを選んだ。
「お前らのせいで、最後になったがな!」
目出し棒で隠れている顔の代わりに健人をにらみつける目が、心から溢れてくる怒りを表していた。
「要求はなんだ?」
「まずは、武器を捨てて地面に伏せろ!」
「そして俺を撃つ……と?」
「この女の命が惜しかったらさっさと行動しろ!」
「彼女を撃てばその隙に俺が必ず殺す。俺が撃たれてもその隙にエリーゼが動いて必ず殺されるんだ。さっきの戦闘を見ていたのであれば、これがただの脅しだとは思わないよな?」
「…………」
「俺たちは手詰まりなんだよ。だから交渉しよう」
先ほどまでの怒りを抑え、考えを巡らせ沈黙する襲撃者。
今回のメンバーは全員、魔法士としては最低ランクに近い。ゴブリンを数秒で倒してしまう戦闘力は、離れた距離で見ていたのにもかかわらず恐怖を感じるほどだった。
一時の感情に流されてどちらか片方を道づれにして死ぬのか、それとも健人の交渉に乗って活路を見出すか、冷静になった頭はすでに答えを出した。
「……話を聞こう」
自身の生存を優先するのは、生物として当然の判断だろう。
「俺の要求は、俺たち2人を見逃すことだ」
「それはできない! 女はともかく、お前は殺せと言われている!」
「それは困ったな。海外に逃げるからそれで許してくれないか?」
予想していた通りの答えだったため、健人はよどみなく代替案を提示した。
「それはダメだ。お前の死体を渡すのも依頼内容に含まれている」
「どんだけ俺の死を確認したいんだよ……」
予想を超えた返答に思わず言葉が漏れてしまったが、幸い相手には聞こえなかったた。
「それなら、任務が失敗したと言って帰るのは? 依頼料の補てんは俺の方でする。こう見えても金は持っているんだぜ」
「……知ってる」
場の空気を軽くしようとおどけてみたが、失敗したようで鉛のように空気が重くなった。
「ゴホン。で、どうだい? 俺たちは生き延びて、お前は大金を手に入れる。ほとぼりが冷めるまで海外で優雅に生活するのもありだと思うよ?」
襲撃犯は何かを想像しているかのように目を動かしていたが、すぐに結論を出す。
「……ダメだ。逃げ切れる気がしない。死体を持って帰らずに船に戻った時点で殺されるかもしれない。やっぱり俺のために死んでくれ!」
そういうと、エリーゼのこめかみにつけていた銃口を健人に向ける。
(これを待ってた!)
ずっと手に持っていたゴブリンの魔石をこっそりと親指の爪の上にのせていた健人は、魔石に魔力を注ぎ込み弾き飛ばす。
周辺に明かりがあるとは言えども、親指の爪ほどの大きさの魔石を発見するのは難しい。襲撃犯は魔石が眼前に迫ったころにようやくその存在に気づいたが、すでに遅く、容量を超える魔力を与えられた魔石は顔に当たる前に小規模な爆発をする。それは人間を傷つけるには足りなかったが、相手を怯ませるには十分だった。
「あぁぁ!」
突然の爆発に驚き腕の力緩んだ隙に抜け出したエリーゼは、骨が砕けるほどの勢いで健人を狙っていた拳銃を持つ手を蹴り上げた悲鳴だった。
「お前ら……ウソをついたな!」
痛みに耐えられず、膝をついて叫ぶ。
「自分の事を棚に上げて良く言うな……」
健人が身勝手な発言にあきれていると、拳銃を拾ってきたエリーゼが戻ってくる。
「こいつも――」
「分かってる。この1ヶ月で悪夢も見なくなってきた。大丈夫、俺がやるよ」
元の世界で慣れていたエリーゼとは違い、健人はゴーレムダンジョンで最初の襲撃者を殺してからしばらくの間は悪夢にうなされ、寝れない日が続いていた。
だが最近は、心がマヒしてきたのか悪夢を見る頻度も減り、安心して寝れる日々が続いていた。もう、自分が見ている前でエリーゼの手を汚したくないという自分勝手な欲求も合わさり、今回も件も最後は自分が決着をつけようと考えていた。
エリーゼから拳銃を受け取った健人を見て、襲撃者も次に何が行われるのか正しく理解する。
「ま、待ってくれ! 依頼主のことをしゃべるから見逃してくれっ!」
「烏山議員だろ」
健人が発した声は、驚くほど低かった。
「な、ならっ! 報酬をすべて渡すのはどうだ? 500万が手に入るぞ!」
「俺の死体と引き換えにな」
「…………」
交渉材料がなくなった襲撃犯は、何か言おうと口を動かしていたが、口を閉じ……目が嗤う。
「来世があったら、真面目に生き――」
「後ろに下がって!」
襲撃犯の頭に拳銃を向けようとしていた健人は、叫び声に従ってジャンプして後ろに下がる。すると先ほどいた位置に、突如として土壁が出現した。
「くそっ! さっきの会話は、時間稼ぎか!」
まさか同じ方法で時間稼ぎをされるとは想像していなかった健人は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「大丈夫?」
エリーゼは、狭い島とはいえども夜中に森に入るの危険なうえに困難だとだと判断して、侵入者を追うのを諦めていた。
「すまない。油断をしていた」
「私もそうだったし、お互い様よ。明かりを持ってくるから海岸まで行って船が残ってないか探してみましょう」
「そうだな、と、その前に他の人間が持っていた武器を回収してからにしよう」
武器を回収し、周辺を警戒しながら砂浜まで移動したが、ビーチには何かが置いてあった形跡は残っていたものの、ゴブリンを捉えていた檻や船を見つけることはできなかった。
「痕跡は残っているし、この場に誰かがいたのは間違いなさそうね」
ビーチに残った足跡を見つめながらつぶやく。
「それにしても今回は反省点が多いわ。まさかこんなにも早く、魔法が使える人間と戦うことになるなんて思わなかったわ」
魔法が使えるようになったばかりの日本で、話しながら魔法が放てる人間が健人以外にいるとは想像していなかった。さらに手の骨も砕けていたはずだ。初心者では絶対に魔法を放てない状況だったはずだ。
「知能が高い生物との戦いは、こちらが有利でも状況がいっきにひっくり返る可能性があるの。今回みたいに一瞬の隙をついてね」
対人間の戦闘経験が少なかったために相手の力量を見切れなかった後悔から、後ろにいる健人は悔しそうな表情をしていた。
「その通りだね。でも、次は油断しないよ」
先ほどの戦闘のことを想像して、自分に言い聞かせるように言葉を発した。
「普通は次なんてないんだから、本当に気をつけてね!」
命のやり取りに次はない。エリーゼの人差し指が健人のおでこに当たると軽く押し「忘れないでね」と耳元で囁いて離れる。
「あぁ……」
突然の行動に頭が追いつかない健人は、無意識におでこをさわりながら短く返答するのが限界だった。
「この島に潜んでいる可能性も残っているから、明日は島中を探して見ましょう」
寝ずに警戒して起きていた健人たちは、朝になると2人の死体と装備をゴーレムダンジョンに投げ込んで吸収させると、丸一日かけて周辺の探索し、この島には誰も残っていないと結論を出すとともに襲撃を乗り越えた安堵に包まれて眠りについた。




