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ストレス解消

 京成杯のことも、しっかりと覚えている。

 ひどい道悪だった。クラシックをこれから目指す若駒たちには、気の毒なほどの泥んこ道だった。コーナーを曲がって、ゴールに突っ込んでくる二頭の馬の姿が目に浮かんでくる。もちろん私はシックスセンスを応援していた。届かず、二着。馬券も取れなかったような気がするが、それでもすがすがしい気分であった。

 考えてみると、この年、私はかなりのレースに参加している。いろいろ変化の年であった。

 前の年に、CBC賞の三万馬券をとっていて、財布は潤っていた。だからガーネットステークスで上位人気と下位人気なんてお遊びのような馬券を、いつもより高いレートで買うこともできた。さらに財布は潤った。

 それだけではない。実は、めちゃくちゃ仕事が忙しかった。それに伴い給料もそれなりだが、抱えていたストレスは思いのほかで、退職を決意していた。調度、娘も中学に上がる。このままこの会社にいても、やりたいことはできないような気がする。もともと決意していたのが、競馬のおかげで、『三月末まで』から『二月末まで』に繰り上がった。その後、半年間引きこもり、競馬場以外へは外出しないという日々が続く。

 他にも理由はある。カレシとも別れた。

 CLUB KEIBAのコマーシャルにある

「競馬があれば彼女なんていらない」を地で行ったわけだ。本当に癒された。

 日曜日に競馬が終わり、火曜日に雑誌が発売されると、まず先週の反省にはいる。事前の新聞やネットの予想と実際の成績を比べ、どの情報が一番正しかったかを調べる。騎手のコメントを読み、敗因を調べる。自分がどんなレースに、例えば、芝とダート、短距離と長距離、別定戦とハンデ戦などどんなレースに強いかを調べる。

 やっと今週末の予想に入れるのは木曜日あたりからで、どの馬が実際に出走するか調べて、その時点ではまだ雑誌に書き込みをして考える。そして金曜日になると、歩いて三分のコンビニに新聞を買いに行き、情報を書き込んで、本格的に予想を始める。

 そして、土曜日の第一レースには、東京競馬場のパドックで、遠い角を見ながら腕組みをしているのである。

 人間はさまざまなストレスの解消方法を持っている。ある人は、ひたすら食べ、ある人は買い物を繰り返す。ある人は、一日中ちかちかするパチンコ台の前に座り、ある人は前後を考えず、性欲に走る。

 私は食べるのはあまり得意ではない。買い物も、本当に欲しいもの以外にお金を出すのは絶対にいやというたちのケチなので、これも苦手だ。パチンコ屋にいると、

「人間て、短い時間の間にたくさんのこと考えられるんだなぁ」

 と思うくらい時間がたつのが遅いので、余計に気がめいる。性欲に走った後の、なんともいえない後味の悪さは、更なるストレスとなる。

 多分、競馬は私にとって、一番よいストレス解消法なのだと思う。本を読むのも、映画を見るのもよい。ひたすらに野菜をみじん切りするとか、魚をさばくなんてことも好きだ。ようするに没頭し、集中することでほっとする。ただ、今あげたものと、競馬の違いは、終わりがないということ。考え始めれば、きりがない。本当にストレスがたまりにたまっているときは、終わりのない解消法が必要なのだ。

 考えればきりがないが、時間が来ればレースは始まってしまう。京成杯はマイネルチャールズとプラチナメーンで行こうかと思う。まだ、枠順と馬体重という重要な検討要素はあるので、今のところ、だけど。

 日経新春杯はグロリアスウィークとマキハタサイボーグ。裏切られ続けているヒラボクロイヤルも消せない。彼はきっと『やればできるこ』だから。

 なんとなく今週は、引きこもっていたときのようにデータに沿って考えてみた。小難しい顔をして、色んな資料をあさった。終わってみれば、また文無しになっているかも知れないのに、まるでどでかい仕事をしている偉い人になったような気分だ。いつになく楽しい。

 ……なんて、もしやあの頃の『鬱々とした日々再び』の前触れなんてこと、ないよね……と自問して、心当たりのあることからはとりあえず目を背けておく。さぁ、土曜日の予想もしなくっちゃ。

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