東京競馬場参戦・秋
昨日、嫌なことがあって、結構深酒をした割にはちゃんと目が覚めたが、すでに十二時を回っていた。
シャワーを浴びて、娘をたたき起こす。一ヶ月も前から約束していたので、眠そうにしていても、容赦はしない。
「早く。オグリキャップが帰っちゃうでしょ!」
昨日の不機嫌を引きずっていることもあり、かなり強引に起こす。娘は行きたくなさそうに、咳をしてみたり、体温計で体温を測って『風邪ひいてます』をアピールするが、知ったこっちゃない。
多分オグリキャップと同じであろう真っ白なコートを着込み、競馬場に到着する。右手はパドック、左手にはオグリがいるはず――の場所には黒山の人だかり。
「……絶対見えないよね」
ちょっと前のほうにいけるか頑張ってみたけれど、無理。振り返ると、駅から続く通路にも、その場所が見えるスタンドにもわんさか人がいる。結局、あきらめる。見えた姿は、他の人が写真を撮ろうと伸ばした携帯電話の画面だけ。確かに真っ白でした。人だかりの後ろで待っていた娘が小声で、前の人を指しながらいう。
「新聞社の人だって」
二人の男性は、片方がカメラを持っているものの、撮影する様子さえない。
「これじゃあ、無理ですな」
なんて話をしておられた。
さて、私たちは閑散としたパドックの横を通り、いつもどおり今川焼きを買う。そしていつもの場所へ。新聞を取り出してみると、あれ? 武蔵野ステークス――間違えて土曜日の新聞を持ってきてしまった。痛恨のミス。仕方なく、パドック診断で馬券を購入することにした。
周回する十レースの出走馬をしばらく見て、騎手の登場を待たずに馬券を買い、いつもの蕎麦屋にいく。そばを持ってベランダにでて、階段に腰掛けて食べることにする。娘は餅いりのそばを写真に撮って友達に送信。私はパドックの写真を撮ってメールを送信した。
食べ終わってスタンド内をうろうろしていたら、レースが始まったのでテレビ画面で観戦した。一番人気のドリーミーペガサスはゴール前で差される。馬券は獲ったものの、トリガミ。コーヒーを買って、スタンドに出ると、運よく一コーナーよりの座席が空いていた。
アルゼンチン共和国杯は朝、パソコンから馬券を購入していたので、ゆっくりレースを観戦することにする。娘は携帯をピコピコやりながら、コーヒーを飲んでいたが、突然、
「あれ? トウカイトリック出てなかった?」
と、大型ビジョンに映し出されている出馬表をみていう。
「でてるはずだよ。あれは最終レース。なんで?」
「友達が応援してるんだって。あと、スクリーンヒーローも」
「へえ……」
私は話半分で、出馬表に『いつかできる子』ムラマサノヨートーの名前を見つけてしまい、携帯で十二レースの出馬表を確かめる。まったく、新聞がないと不便で仕方ない。
ファンファーレを聞いて、ゲートが開き、目の前を馬群が走り去っていく。ドドドドド、という地響きを聞く。
「やっぱり、蹄の音を聞くといいよね」
ゴールの写真を撮ろうと、カメラを構えていた娘も頷いた。
二歳のレースで、
「あんな名前の馬絶対来ないよ」
と娘が断言し、馬券を切ったらまんまと一着でゴールという、私たちにとっては因縁のプリキュアちゃんが前を飛ばす。鞍上は私の大好きだったローレルアンジュの主戦石神騎手。ちょっとだけ、
「まさかな」
と頭をよぎったものの買わなかった。それが前で粘っている。
「残っちゃうんじゃないの?」
私はトウショウシロッコとダンスアジョイから行っているので、このままの体制ではどう考えても馬券にならない。それならいっそ、
「残っちゃえ!」
と心の中で願った。見せ場をたっぷりとつくっての四着。よくがんばった。
十二レースは、二頭の軸を最初、一、二着馬にしていたのに、パドック診断で変更して、見事縦目と玉砕した。それでも、いいやと、私たちは三階のバルコニーに出た。ここからは、パドックがよく見渡せる。結構穴場だ。
最終レースが終わったパドックには、たくさんの人がつめかけていた。第二回ジョッキーマスターズ。実は私たちもこれが目当てでやってきていた。