ウオッカに乾杯
運よく昼前に目が覚めたけれど、喉に猛烈な痛みを感じて、現地参戦はあきらめることにした。
ゲートが開いて、ポンとその白い流星が一馬身近く前に出たときには、このままかかって前に行ってしまうのではないかと、毎日王冠のレース運びが頭をよぎった。内のほうでは、やはりダイワスカーレットがハナを切っていく。いつもは一際長く見せる、武豊騎手の背中が丸まっている。
――折り合いを欠いているのだろうか。
パンパンの良馬場。二歳戦でレコードが出るほどの固い馬場だ。縦長になった馬群。最後方の二頭は向こう正面ですでにそのスピードについていけなくなっている。千メートルの通過タイムが出ると、その速さに場内がざわついた。先行集団には、ディープスカイ。それの外にぴったりウオッカの姿がある。三コーナーから四コーナーにかけてもまだ、ジョッキーの背中は丸まっていた。
大欅を過ぎ、直線に入る。前哨戦と同じく、ウオッカの手綱は持ったまま。残り三百メートル。一瞬内ではスカーレットの姿が消えた。勝ったと思ったが、再び盛り返してくる青い勝負服が見えた。
「ウオッカ! ウオッカ!」
ゴール板を駆け抜けたとき、私は脱力した。
――また負けた……
武豊騎手も険しい表情のまま、首をひねっている。誰もグリーンの絨毯を帰ってこない。
検量室前では、スカーレットが一着馬のところで馬具を外した。写真判定の表示がいつまでたっても消えない。このまま、一着同着になってしまえばいいとさえ思った。レコード決着で牝馬二頭が戦ったのだ。
テレビの中継が、調度コマーシャルの間に、パソコンの画面に速報が入った。一着ウオッカの文字を見たときには涙が出そうになった。悲願のライバル対決での勝利。果敢な挑戦を続けて勝ちきれない時期もあったウオッカ。かたやその華々しい成績で負けることが許されないスカーレット。これでどちらもG1を三勝ずつ。
武豊騎手のインタビューを久しぶりにみた。川崎競馬場では現場で見たのだが、地方競馬のためカウントされず、今期は重勝は三勝目。G1はフェブラリステークス以来で、ヴァーミリアンはダイワスカーレットと同じ、名牝スカーレットインク一族である。向こう正面での手綱の引き具合といい、鼻差の勝利といい、武豊騎手の身体の中には時計とメジャーがあると感じざるを得ない。インタビューでは泣き出すのではないかというほど嬉しそうで、アンチ武の私でもとても嬉しかった。
さて、押さえて買ったワイド馬券のおかげで、ウオッカが勝ったレースで初めて馬券を獲った(これだけ応援しているのに負けたレースでしか馬券は獲っていない)ので、夜は文字通り、
「ウオッカで乾杯」
となった(ズブロッカだけど)。
いい気持ちで家に帰ると、ちょうどF1の最終戦をやっていた。私の応援するキミ・ライコネンはすでにワールドチャンピオン争いからは脱落していたが、チームメイトのマッサがポールポジションで頑張っていた。ポールポジションを維持したままゴールしたものの、ハミルトンが五位でゴールしたため、ワールドチャンピオンは逃すことになった。最終コーナーでの攻防で決着した。母国でのレースでマッサはよくやったと思う。ファンに対するアピールもとてもすがすがしいものだった。
今日は二つも、はらはらするレースを見てしまった。悔しいけれど、最後の最後にワールドチャンピオンを争っていたのはキミではなかったし、天皇賞で一番強いレースをしたのは悔しいけれど、ダイワスカーレットではないかと思う。
しかし、現場での興奮を感じたかったけれど、実際に現場に行っていたら全く何も見えなかっただろう。すべてのレース運びを見られるテレビ観戦で結果よかったのかもしれないけれど、できれば現場で見たい。ああ、もう少し背が欲しいなぁ……




