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天皇賞(秋)

 母が『レット・バトラー』という本を読んでいた。新しい本の入手を目ざとく見つけた私に母は言った。

「そう、『風とともに去りぬ』の続編で……」

「母スカーレットブーケ、父サンデーサイレンス……あれ?母スカーレットリボンだったっけ?」

「何それ?」

「知らないの?」

娘が参加する。

「ブルーリッジリバーの従兄弟だよ。ブルーリッジリバーは母スカーレットブルー、父フジキセキ……」

「お母さんはだってこっちのほうが……」

「あれ? レットバトラーの母はどっちだったけ?」

「ブーケじゃない?」

私と娘のコアな会話に母はついていけず、いつの間にか小説を読むことに戻っていた。調べた結果、レッドバトラーの母は、娘のいうとおりスカーレットブーケだった。

 とまあ、こんな会話をしているうちに菊花賞は終わってしまったのだが、ディープの三冠を目の前で見たことやら結構、たくさんのエピソードがあるのでまた機会を改めて、それについては書きたいと思う。

 さて、天皇賞である。メイショウサムソン君が回避して、ダービー馬三頭対決は流れてしまったけれど、なかなかのメンバーだ。ディープスカイとウオッカのダービー馬対決しかり、ウオッカとダイワスカーレットのライバル対決しかり。

 娘はスカーレット一族に傾倒しているので、もちろんダイワスカーレットのファンなのだが、私はどうしてもウオッカを応援してしまう。成績的に見れば、ダイワスカーレットは今まで複勝圏内を外したことがない。しかし今回は休み明け。きっと左利きであろうと思っているウオッカにすこし分があるのではないかと密かに期待している。アサクサキングスを相手に、もちろんスカーレット、ディープスカイ、それから海外ジョッキーに乗り替わった二頭と、アドマイヤフジで行こうか。本当は現地に行きたいのだが、仕事でイベントがあり、きっと起きられないだろう。

 天皇賞といえば、どうしてもサイレンスズカが思い出される。その頃は競馬をやってはいたが、まだそこまではまりきってはいなかった。それでもあの映像は忘れられない。

 いつものように飛び出したスズカは一人旅だった。先頭から全馬の紹介が終わり、最後尾の馬が向こう上面に差し掛かったときにはすでに三コーナーが見えていただろう。テレビ画面が、スズカから最後尾までを写す為に引いていったとき、全身が総毛だった。そしてその次の瞬間、鞍上が手綱を引いているのが見えた。

「あっ!」

馬群が一気にスズカを飲み込んでいった。息が詰まった。驚きのあまり、涙もでなかった。

 十年も前のことになってしまった。そんな昔のことだっただろうか、と思う。初めていった阪神競馬場も、二度目の仁川も、京都競馬場、中山競馬場、どこも昨日のことのように思える。けれど、出走する馬たちの父親が実際に走っていた時を知っているとなると時代は流れているのだなあ、と認めざるを得ない。

 私の本命テンザンセイザが新しいスタンドに物見をして三着になったのは五年前、ヘヴンリーロマンスの馬上で、ミッキーこと松永幹夫現調教師が深々とお辞儀をしたのも、もう三年前なのか……そういえばダイワメジャーが勝った時は七枠十四番。今回のウオッカと同じ。うーん、何かの因縁か。兄の後を追って、スカーレットが盾を獲るのか、サムソン君のように昨年のダービー馬が獲るのか――

 土曜日の京都では、レットバトラーが走る。引き継がれる血統、ライバル対決、記憶と記録――やっぱり競馬は面白い。ああ、現地に行きたいなぁ……

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