川崎へ遠征・前編
川崎競馬場に来るのは二度目だ。地方競馬は大井競馬と川崎競馬しか行ったことがない。そして少々記憶が混ざっている。大井競馬にはトーシンブリザードを見るためで、重賞レースだったが、川崎競馬場にはナイター競馬をたずねるというような目的で脚を運んだ気がする。どちらにしても、この前は夕方には着いていた。
今日は関東オークスを見に行く。馬友が調度休みなので、一緒に行こうという話になった。馬友の仕事終わりに合わせていくので、到着するのはこれまでと違い、七時近い。観戦できるレースも実質二レースだけだった。
上手く同じ電車に乗り合わせられるようにメールで連絡を取りながら、登戸についた車内で落ち合い、川崎駅に着いた。着いてみると「来たことがある」と確信する。前に来た時から四年以上は経過している。無料バスに乗り込み、競馬場へと向かう。
入場券はどこで買うのだろうときょろきょろしていると、入り口のとなりに行列ができている。その列に並ぼうとして、前のほうを見るとなんと券売機がある。入場券ではない。勝馬投票券のだ。競馬場のとなりに場外馬券場がある。馬友とすごいなぁと話しながら入り口に近づいてみると、入場券を買うのではなく、自動改札にそのまま百円玉を投入するものだった。
到着したときにはすでに第八レースの出走が近く、たった二つのレースのために五百円もする新聞を買い、レースを見に行った。中央競馬よりもコースが格段に近い。ゴール前の直線では、蹄の音、鞭の音まではっきりと聞き取れる。臨場感がすごい。
人の多さには閉口したが、ぜひパドックを見たいと馬券を先に買い、第九レースのレースを見るのはあきらめてパドックにいることにした。第九レースのパドックが終わっても、人が動く気配がない。みんな同じ目的なのだ。中央から関東オークスに参戦する白毛のユキチャンを見に来ているのだ。
「女の人は全員『ユキチャン』って名前なんじゃないかと思う」
馬友はつぶやく。女性がすごく多い。私はときどき映像でパドックを見るけれど、普通の日には画面で数えられるくらいの人数のときもあるのに、今日は現場にいても数え切れない。陣取った場所からは電光掲示板も見えず、第九レースは一体何が勝ったのかすらわからなかった。
ここまで人気になるのは、白毛が珍しいことがある。遺伝の関係で、白毛の馬が生まれてくること自体が珍しい。白毛は弱いと思われがちなのは、遺伝での白色化、アルビノと混同されているからではないだろうか。アルビノは色素の遺伝子の突然変異で、サラブレットの白毛とは根本的に違うものである。
そして、ユキチャンは強い。血統的な背景を見ても、母は活躍がなかったもののサンデーサイレンス産駒だし、父はクロフネ。一流といえるだろう。
女性割合が非常に多いパドックで随分待った。待っている間、ほとんどの人が持ってきていたカメラや携帯電話のカメラの調節をしていた。
出走馬が入ってくると、一斉にカメラを構える。私もその一人だったが、どうしてもぶれてしまうのでそうそうにあきらめた。
「可愛い……」
すぐ隣に陣取っていた女性がいった。私は可愛いとは思えなかった。白すぎて怖いと思った。真っ白い身体に真っ白いブリンカーをつけている。彼女の兄にあたるシロクンも近くで見たが、膨張色のためかもっと太って見えた。彼女は腹回りがすっきりとし、後ろ足の動きがスローモーションのように見える。バスケットボール選手が空中で止まっているように見えるのと同じようだった。しかしそれよりもメジロライアン産駒のマダムルコントの方がよく見えた。距離は不安だけれど、そちらを本命に馬券を買い足すことにする。
随分と長くパドックを周回しているように思えた。騎手が現れるとさらにみんな写真をとることに熱中していた。ユキチャンは騎手が乗ると気合を増したように見えた。出走馬たちが返し馬に向かうと、さっきまでが嘘のようにパドックから人がいなくなった。
買い足すためのマークシートを持ちながら券売機にならぶ。場内放送が流れる。
「白馬の王子は武豊」
ちょっと苦笑してしまう。なんとなく『白馬の王子』というと『白馬』のほうも牡のような気がしていたな、と思う。その後に続く、
「プリンセス賞二着の雪辱はここで晴らす」
大外の馬の紹介を聞いて、ハタノギャランの馬券も追加する。締め切り五分前に買うことができた馬券を手に、馬友とコースに向う。すでに人があふれていた。




