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一足先に、猫の走馬灯(2)





トクン……トクン。




胸の音が更にゆっくりになった。

けれど、俺の頭の中は過去を飛び回るように駆けまわっていた。

今まで生きて来て出会った様々なモノが頭の中を駆け巡って行く。



あぁ、そう言えば死にかけた一匹の子猫を拾ってやった事もあった。

俺のテリトリーでよたよたと、今にも死にそうな子猫を見かけた時、俺は気まぐれを起こした。

俺はその猫に餌をやり毛を繕ってやったのだ。本当に、本当に、ただの気まぐれだった。


俺にはおかしな事に他の猫のように発情期とやらが訪れなかった為、自分の子供とやらが居なかった。

故に、俺は誰からも庇護されない子猫を気まぐれに我が子のように世話してやったのだ。


子猫は俺になついた。


すぐに成人の猫になったが、アレはそれでも俺の後をついてまわったりしていた。

人間から貰った餌を一緒に食べたり、俺のお気に入りの軒下で一緒に寝たりした。

しかし、気まぐれで育てたその猫もいつの間にか居なくなっていた。


風のうわさで聞いたが、死んだらしい。

俺の母と同じく、人間のたくさんいるあの道の真ん中で。


まったく、あれほど大きな道を飛び出すなと言って聞かせたのに。


まぁ、あの猫はとてもけんかっ早く熱くなると周りが見えなくなる性分だったようだから、それも仕方ないのかもしれない。

それに何度も言うが、猫は行きたい場所へはまっしぐらだ。


一旦、止まって思慮するという事はしない。



あぁ、全てが懐かしい。


一緒に育った兄弟は別れた後どうしただろうか。

俺の頭を撫でながらいつも饅頭をくれた人間は元気だろうか。

死んでしまったあの猫と同じところへ俺もいくのだろうか。



と、くん。



最期の一瞬、俺の頭の中が鮮やかに開けた気がした。

しかし、それと同時に俺の最後の胸の音が鳴り終わった。

そして、再度その胸の音が聞こえてくる事はなかった。


俺は、俺と言う生き物はこの時死んだのだ。



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