冒険者組合
年若い子の後ろを勝手に着いて行くのに負い目を感じながら尾行を続けていると、無骨ながらどこか威厳ある幅広い二階建ての建物へと入って行く彼等の姿。
目につく所に『冒険者組合』と書かれた巨大な看板が置かれ、入り口は冒険者達の出入りで激しい。
「ほら早く!もう馬車行っちゃうよ!」
「分かってるッ!いいから走れぇっ!」
閉まりかかった扉から忙しなく駆け出す二人組を避け、次が来る前にさっさと中へ移動すると騒がしさ際立つ場所が広がっていた。
「今日は三十階層で稼ぐか…」
「おい!それはオレの酒だバカ野郎!」
「見ろよこの輝き!かっけえだろっ」
「はいはい何回言うのよ、まったく」
歩いているだけで誰かしらの話し声が聞こえるなかで、少しの列が伸びた受付と思われる場所へと向かう。
並んでいる間に周囲を見渡すと、まず目についたのは魔物の部位であろう素材をテーブル上に広げ始めた一人の冒険者。
「頼むバルック。金貨五枚は欲しい」
「状態の良い暴れ鹿の角が四本…ま、いいだろう」
「ありがとうバルック!これで家賃が払えるよ」
「…賭博は程々にな」
買取屋の場所はあそこと、一人でに把握している間に前に進みつつある列。
他に目を向ければ酒場のようなカウンターでのんびり酒を飲む人を少数見かければ、大型テーブルでは豪勢で量のある料理に食らいつく冒険者の姿など、見てる自分も食欲をそそられる光景。
「あ、あの〜」
前方から聞こえる声に反応して振り向けば、いつの間にか赤毛の女性と目が合う事態に急いでカウンター前に移動する。
近付けば見上げるような体勢で目線を合わせようとする彼女の身体は少し震えているのが分かる。
「…申し訳ない」
「いえいえ、今日はどのようなご利用ですか?」
「冒険者登録を」
「なるほど、では冒険者証をお作りしますのでお名前と銅貨一枚をお願いします!」
一枚の紙と羽根ペンをカウンターから差し出す彼女を前に雑嚢から銅貨を取り出し、紙の横に置いて名前を記入する。
「ええと…ルビアさんでお間違いないでしょうか?」
やや猫背の状態で彼女の問いに頷きで返すと少々お待ちくださいとひと言告げ、カウンターから離れていく。
ガコンと何かを押し潰すような軽い音が鳴り終えた時には、彼女の姿はカウンターへと戻ってきた。
「お待たせしました!こちらが鉄等級の冒険者証になります!」
手のひらに収まるほどのプレートは身につけられるよう紐が括り付けられ、厚みは非常に頑丈そうだ。
冒険者証のプレートを受け取り、ふと裏を見てみれば自身の名前が刻まれていることが分かる。
「次に等級と仕組みの説明を…「図に乗るなよっくそガキゴラァッ!!!」
突如響き渡る男の怒鳴り声に受付嬢の肩が跳ね、食器が割れる音が過ぎ去ると今度は鈍い音が響く。
すると自身の体に軽い衝撃が伝わり、元をみれば青年に成りかけの少年といった風貌の子が自身の足元にもたれていた。
勝ち気な目つきで睨み、鼻から流れる血を無造作に拭っているが、少年の足腰は力が入らないように見える。
「てめぇ役立たずの癖に一丁前に金が欲しいだぁ…!!」
「約束通り四十階層を案内しただろッ!」
「そのてめぇのせいでこっちは防具や武具を失ったんだぞ!」
「それはひとの話を最後まで…」
「うるせえこの役立たずがぅ゙ぐぁッ!?」
「!?あ、アンタ…」
冒険者に争いごとやチームとのいざこざは良くあることだと聞いたことはあるが…子供も含まれるとは。
少年の後ろに自分も居たというのに男は殴りかかろうとした、だから私が彼の首を絞めているのは…いや、駄目か。
「ぐぅあぁっう…!!」
「…大の大人を片手で持ち上げてやがる」
「だ、だれか止めろよ…顔の色が……」
呻き声が小さくなり抵抗も弱まり始めたところで彼の首から手を離すと、力無く地面に崩れ落ち苦しそうに息を吐く。
あれほど騒ぎ立てていた冒険者達の静寂の様子に頭を抱えたい気持ちにはなるが、とりあえず受付嬢に目的の確認をとる。
「登録は済んだ。これで迷宮に入れるんだな」
「は、はい大丈夫です…」
「そうか」
「え…?」
足元で唖然としていた少年の腹に手を回し、困惑の声を上げていたのを聞き流して自然と組合外へと出て行く。
されるがままの少年を片手に外に出て、突き刺さる視線から逃げるよう表通りを避け暗闇広がる建物裏へと辿り着くや否や身を捩り暴れだした少年を地面に降ろす。
「……」
「ッ…!な、なんだよジロジロ見んな!」
服で手についた血を拭き取り恥ずかしそうに立ち上がる少年の全身を見るに、怪我は鼻血だけのようだ。
衣服やブーツは随分とボロボロで、腰の後ろに納めている鞘の中のショートソードも期待できそうにない。
「…相手は怒り心頭のようだったな」
「ふん、知るかよ。馬鹿どもの自業自得だぜ」
「報酬も得られなかったようだが、いいのか」
「いいわけあるかよ! 苦労して案内したってのに…」
先ほどの勢いは鳴りを潜め、屈辱と悔しさが混じった表情の少年に自分は雑嚢の底に手を入れあるものを取り出す。
隠し構造にした雑嚢の底から、城の絵が彫られた白金に輝く一枚のコインを少年の視界に入れる。
すると少年の動きは時間が止まったかのよう、コインを凝視する。
「……白金貨」
「迷宮を案内できるのだろう」
「は?急になにを…」
「何階層まで行ける?」
「それは…五十四までならいける、けど」
「…これで一緒に来てほしい」
生憎と迷宮攻略なんて初めてなもので、冒険者組合などに依頼をしようと思っていたが目の前に有望な冒険者がいるんだ、是非とも彼に来てほしいが。
急に怪しくなる話の内容で彼の態度は警戒心剥き出しになり、探る目つきに早変わりになってしまった。
「……変なことすんのか、オレに」
「……」
「いってぇぇぇっ!?なんで殴んだよ!」
「やるのかやらないのか」
「やるっやるよ…!」
頭を抱え痛みに悶える少年の雑嚢に白金貨をすかさず捩じ込む。
大金を入れられた咄嗟の出来事に涙目のまま驚愕した少年の前へと、手を差し伸ばす。
「よろしく」
「…ふん、勝手に居なくなってやる」
「……」
「う、嘘だよ!だからその手を降ろせって!」
どうやら先ほどの拳骨が相当痛かったのか、軽く振り上げた自分の拳に青ざめて身震いする少年は致し方ないと言わんばかりに手を握る。
子供相手に大金を餌に断りづらくしたり、すぐ暴力を振るい、半ば強引に仲間に加えようとする己の所業は記憶から消すとしよう。
「ルビアだ」
「…レイン」




