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その200 棄世

 

 憶測でものを言う黒猫。しかし珍しく当たっていた。


 棄世が人殺しを行う時は命令があった時。そして命令があったとしても、ターゲットには必ず助かるチャンスを気付かれない様に密かに作っていた。


「……」


 棄世は驚いた表情で目を見開いて黒猫を見る。


「命令されてやったなら、お主の弱い部分を利用して命令した奴が悪いのじゃ。同級生とやらをPKした理由は知らぬが、同級生もそれだけの事をした。お主は間違っておらぬ筈じゃ」


「わ、私…………わた…………っ」


 棄世の瞳から涙が一筋零れる。


 ―――――


『死ぬと分かっているのに殺したのか!!』

『なんて子!やっぱりこの世代の子は倫理観に欠けてるわ!』

『わざとじゃ無い?信じられる訳ないだろ!この黒表示!人殺し!殺人鬼!』

『誰がお前の味方なんかするか!殺人しといてよくもそんな!』

『人を殺すような目をしてると思ったけどやっぱり』

『いつもあの女の子達と一緒にいたの見掛けたけど、やっぱりなぁ。殺したか。気分はさぞ良かったろうな』

『人でなし!近寄んな!』

『ゲーム脳の考える事は分からんわ。取り敢えずお前は死んだ方が他人様の迷惑にならないから死ねよ』


 ―――――


 ●●●達を怒りに任せてPKしてしまった日。まさか復活出来なくなるとは思わなかった。丁度ゲームの世界に捕らわれたタイミングでの過ち。死のゲームが始まったと同時に、味方どころか敵しか現れなくなった。わざとじゃ無いと言っても誰も信用してくれなかった。


 actが居なければ、その日に死を望んでいただろう。いや、自殺しなくても殺されていた。あの日の事が棄世の心を深く抉っていた。


 だから、今の黒猫の言葉で涙が自然と流れ出る。


「泣いておるのかの?辛かったのじゃろうが、お主には笑顔が似合うのじゃ。じゃから笑うのじゃ。泣かなくていいのじゃ。お主はあの時この花畑で心の底から笑っておった。お主は笑える筈じゃ。わたしゃの友達なら下を向いて泣かず笑っていて欲しいのじゃ」


「わ、私……に……わ、笑う……し、資格……な、なんて……な……い……こ、これまで……ど、どれだけ……ぴ、PK……を……し、したか……し、知らない……く、癖に……」


「資格なんかいらんのじゃ。PKしたから笑えない?知らんのじゃ。知った事か。ならば聞くが、PKをして嘘笑い以外で笑った事はあったかの?楽しかったのかの?優しいお主ならば楽しかった訳ないじゃろ。苦しみ泣いた筈じゃ。笑顔に見せ掛けた偽のお面を被って泣いておったじゃろうが。何度も何度も、心が壊れ掛ける位に。じゃから自分の心を守る為にブラックギルドに縋った。縋るしか無かった。仮面を被り続ける為に。ここまででお主の何が悪い?悪い意味が分からぬが?それにお主は会ったばかりのわたしゃを何度も助けてくれた。自分に余裕が無いにも関わらず、見て見ぬふりをすればよいのに、初対面の時からずっとわたしゃを助けてくれた。そんな優しいお主のどこに非がある?」


「で、も……こ、殺した……事……に……は……か、変わり……ない……」


「じゃから今迄散々苦しんできたのじゃろう?嫌な同級生の事まで考えて。忘れれば済むのに。お主は今も忘れず罪として認識し、苦しみ続けた。ならばもう罰は受けた。罪悪感という名の罰を。もう十分精算された。じゃからわたしゃがお主を許すのじゃ」


「な、何……言っ……て……」


「心を侵す罪を許すのは周りでは無い。ましてや神でも無い。自分自身じゃ。じゃが、自分自身を許す箱は、人によっては自分で開けられん。お主の性格なら尚更じゃ。ほっとけば内から苦しみ抜け出せぬ。鍵が必要なのじゃ。自分自身を許す自分ではないきっかけとなる鍵が。ならばわたしゃがその鍵となろう。わたしゃが棄世を許そう。鍵ならここにある。次はお主が箱を開ける番じゃ。邪魔をする奴はわたしゃがぶちのめしてやるのじゃ。じゃから下を向いて蹲るのでは無く、立つのじゃ。いつまでも箱に囚われるな。一歩踏み出し開けるのじゃ」


 背中を押す言葉。誰にも言われた事のない


 自分自身を肯定してくれる言葉


 ほんの少しだけしか話した事のない彼女は、人生で誰よりも自分の事を見ていて理解してくれた。親や同級生より、一番自分と近しい存在だと思っていたろくでなしのギルドメンバーより。


 たった数日。そんな短い期間で彼女は、自分の事を誰よりも、理解し、歩み寄ってくれた。手を差し伸べてくれた。


 嬉しくて……優しくて……暖かくて……目から涙が自然と溢れ出る。


「……」ぅぐ……


 涙を気付かれまいと棄世は顔を下に向け、しゃがみ込み蹲る。


「何やってんだ棄世!早くそいつを始末しろって言ってんだろ!モタモタしやがって!俺の命令が聞けねぇのか!」


 そんな中、ブルーハートが痺れを切らして棄世に催促する。


「うっっっさいのじゃ!今喋っとるじゃろ!邪魔するななのじゃ!空気読め!わたしゃお主が嫌いじゃ!死ね!ぶちのめすぞ!」


 自己中極まれりと言わんばかりに、ありとあらゆる罵声をブルーハートに浴びせてキレ散らかす黒猫。


「チッ……あぁウザってー……もういい。命令が聞けねぇなら俺がまとめて消してやるよ。約立たずで命令を聞かねぇコマなんざ要らねぇ。お前みたいな雑魚の代えは利くんだからなぁ……元々気に入らなかったんだ……噂に対して全然成果がねぇのに、てめぇが上のお気に入りって事がよぉ……死にやがれ根暗女ぁ!『展開』!」


 ブルーハートは棄世に向かって青い炎を纏った火の玉による魔法攻撃を放とうとしていた。


 「!」


 バッ!


 それを見た瞬間、黒猫は棄世を庇うように前に出て攻撃を防ごうとする。


「棄世よ。わたしゃは昔、生まれた事を後悔して生きてきた事があった」


「な……に?」


 黒猫は自分の過去を話す。


 棄世は顔を上げて弱い黒猫の小さくて、


 でも誰よりもデカく、強く見える背中を見る。


「生まれてこなければ、こんな辛い思いしなくて済むのにと……何度も思い、何度も口にした。生みの親の前で、じゃ」


「……」


「じゃが、わたしゃがこんな事を言ってもあやつはわたしゃを見捨てなかった。わたしゃの事をずっと思っててくれた。そして掛け替えのない物をくれた。そして、今のわたしゃがある。そうじゃ、あやつのお陰でわたしゃの世界は光り輝いた」


「そ……それ……って……」


「そうじゃ。諦めず助けてくれる者がおれば、暗く続く世界でも、いつか世界を輝かせる事が出来るとわたしゃは教わった。じゃからわたしゃはお主を諦めぬ。お主の世界が光輝くまでの」


「消えろカス共!」


 ブルーハートは自身のガントレットの硝子玉が全て青色に輝いた事を確認すると、黒猫目掛けて青い炎の球を真っ直ぐ放った。

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