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199/231

その199 ただ、あるようにあるだけ

 

「誰じゃ!?……のじゃ。棄世かの。驚かせるななのじゃ。何しとるのじゃ?丁度いいのじゃ。暇しとるなら助けてほしいのじゃ」


 自分を殺す為に現れた棄世に助けを求めるという頓珍漢な事を言う黒猫。


 無論棄世の答えは


 攻撃だった。


「……」スっ……


 手を前に出す棄世。


 手には棄世自身の影から作り出された槍が現れる。


「…………死……ね……だ、【ダーク・アンビエント】」


 棄世は槍を振り下ろすと、刀身から現れた黒い波紋が花畑の花をズタズタに引き裂きながら黒猫に向かってくる。


 ライのデバフのせいか、その波紋はいつもの数倍の遅さで黒猫へと向かっていた。


「のじゃ?なんじゃ?攻撃…………うむ、ぬはは」


 棄世が攻撃を仕掛けてきたのを見て笑う黒猫。


 その黒猫の態度に棄世は顔を顰める。


「……な、何が……お、おか……しい……?」


「おかしいじゃろ?何故おかしくないと思っとるのじゃ?わたしゃ知っとるのじゃ。知っておるからこそおかしくて笑えるのじゃ」


「………………な、何を……し、知ってる……って?」


「知っておる。お主にわたしゃを殺す事は出来ぬ事をの」


「ふ、ひひ……お、お前……な、なんか……す、直ぐに……こ、殺せ……る……な、なめるな……わ、私は……こ、殺し屋……棄世……ざ、雑魚の……ひ、1人や……ふ、2人……や、殺る……事なんか……わ、訳……無い……」


 2人が会話をしてる間にも、棄世の放った黒い波紋は徐々に黒猫へと向かってくる。


「冗談が上手いのじゃ。確かにわたしゃは簡単に死ぬ。しかしそうではないのじゃ。わたしゃが殺られるかどうかではなく、そこに殺意があるかどうかじゃ。お主にわたしゃを殺す理由が無い。殺意の無い攻撃。そんな攻撃でわたしゃを殺る事が出来るわけないじゃろ。分かり切っとるのじゃ。いや、わたしゃだけじゃ無いの」


 黒い波紋は黒猫の目前まで迫る。


 しかし黒猫に避ける素振りは全く無い。瞬きも一切せず黒猫は真っ直ぐ棄世だけを見つめる。


「お主には誰も殺せぬ。何故ならお主は誰に対しても殺意が無いからの。なによりお主は」


 波紋が花畑の花が散らせていく。命を摘みとる、ただそれだけの波紋。


 花びらが舞う様子は波紋の動きが目に見えるのと同じ。


 黒猫では避けれない。


 否


 避けるつもりは毛頭ない。


 何故なら


「誰よりも優しいから」


 そう信じているから


「…………」


 黒猫の前まで迫っていた黒い波紋は突如飛散し消え去る。


 黒猫は棄世が攻撃を止めることを信じていた。一切の疑いも無く。


「のじゃ。もう1度言う。助けてほしいのじゃ」


 黒猫は棄世に向かって手を差し出す。


「な、なん……で……さ、避けようと……し、しない……の?……あ、当たって……たら……し、死んで……なん……で……わ、私……」


 黒猫のそのあまりにも動じない様子に棄世は動揺し困惑する。


「うむ?何で?何で助けを求めるのか聞いておるのかの?理由は簡単じゃ。数少ない味方が今お主しかおらぬからじゃ。これ以上理由はいるのかの?」


 黒猫は何を言っているのかと、首を傾げながら棄世に答える。


 その時


「見付けたぜカス女」


 ブルーハートが後ろの木々から現れる。黒猫の跡を追って手順をクリアし、隠しエリアまで辿り着いたのだ。


「にしても何だこの場所は?こんな場所初めて見たぜ。お?棄世、お前もいたか。先回りしてるとはやるな。相変わらず地味に優秀なところがムカつく女だ。そういやお前は何かとそいつを庇ってたな。舞台は整ってるじゃねぇか。丁度いい。命令だ。お前がそいつを惨たらしく消せ。見ててやる。そうすりゃ少しは鬱憤がマシにならぁ」


 ブルーハートは状況を掴むや否や棄世に黒猫抹殺を命令した。


「…………」


 そんな中、棄世は俯きながら、思い悩む。


 何かの思いと葛藤しているのだろうか?棄世は俯いたまま手を震えさせていた。


 そして口を開く。


「わ、私は……こ、殺し屋……き、棄世……い、一杯一杯……こ、殺して……きた……そ、そんな……わ、私が……あ、貴方を……た、助け……られる……訳……ない……よ」


「関係無いのじゃ」


「……………………わ、私……は……ど、同級生……を……た、倒し……て……き、気付いた……ら……ひ、人……こ、殺し……に……な、なって……そ、それから……な、仲間……も……み、皆……こ、殺して……い、今……こ、ここに……い、いる……わ、私は……誰も……た、助け……られ……な、ない……に、人間……だよ………………て、手が……ち、血で……よ、汚れ……過ぎて……る」


「うむ。だからなんじゃ?別にいいのじゃ。ならば今こそ助けるチャンスではないか。わたしゃ棄世に助けて欲しいと言っておるのじゃ。手が汚れてるから何じゃ?洗えば済むじゃろうが」


 棄世の目が徐々に潤んでくるのが窺えた。


「そ、そんな……か、簡単な……は、話じゃ……ない……わ、私は……ど、同級生を……こ、殺した……んだ……ゆ、許され……な、ない事……を……も、もう……し、した……の……こ、これまで……も……た、沢山……こ、殺し……た……あ、洗い……流せ……ない……罪を……か、重ねて……きた……から……た、助け……られ……ない……」


「それを自分が他者を助けられない理由にしないでほしいのじゃ。ただ、あるようにあるだけ。重ねた罪がなんじゃ?森羅万象全ての事象に意味など無い。時の流れの様にただ身を任せるだけ。そして世界は回るのじゃ。至極簡単な話じゃ。勝手に周りが難しくしとるだけ。気付いたら人殺しにと言ったの?ならば事情は知らぬが事故じゃったのじゃろう?ただ流れに従っただけの話。それが偶然悪い方へと向かっただけじゃ。気に病む必要などこれっぽっちも無い。それにお主は優しいから、同級生以外は全て自分の意思でやっておらぬじゃろ?それくらい分かるのじゃ」


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