その196 ブルーハートという追跡者
ブルーハート
暗殺専門ブラックギルド【ゲゼルシャフト】の元副ギルドマスター
目的達成の為なら他人を利用し蹴落とす事を良しとするろくでなし。他人に興味が無く、部下は全員自分の駒程度にしか思っていない。
ステータス
Lv54
役職は【追跡者】
遠距離中距離特化で、投擲者からの上位特殊派生役職。特殊な役職で、隠し条件をクリアしなければなれない役職。条件が隠されている為、狙ってこの役職になるのは厳しい。故にこの役職の恩恵はスキル持ちの超人に匹敵する。
役職にはそれぞれ特色がある。例を挙げるなら、棄世の役職【ネクロマンサー】は人形を操る事が出来、ライトの役職【双剣士】は二刀流が使えるといったものだ。
ではブルーハートの役職の特色は何か?それは放つ魔法や遠距離系攻撃や投擲系攻撃アイテム等にバウンド効果、つまり物や壁に当たっても目標に当たるまで消えず跳ね返って向かう効果を加えられ、必中に近い攻撃を放つ事が出来るのだ。止めるには直接当たるか、魔法でガードするか、同じ攻撃で相殺するしかない。盾や武器でもガード出来るが、物によっては跳ね返ってきて相殺出来ない。
狙った獲物は必ず仕留める。それが追跡者のコンセプト。
役職の効果だけみれば特異スキルと差異は無いと言っても過言では無い効果だ。それに加えてブルーハートは特殊な武具を装備をしている。
青い炎を放つ篭手。
『天界シリーズ』
名称 : 焔摩天の篭手
装備可能箇所腕
この装備はレア度が高い装備の中でも更にレアとされている。
その理由は装備にとある強力な効果が付与されているからだ。
装備箇所によって効果は多少異なるが、この『天界シリーズ』は時間経過で魔法を自動で補充し、RTとデメリット無しで補充した魔法を放つ事が出来るのだ。
焔摩天の篭手に補充される魔法は青い炎の球。当てた相手を低確率で火傷か凍傷に出来る。補充される数は最大7つ。威力は所持者のMGに依存する。確認方法は篭手に付いている白い玉が青く光れば、光ってる分だけ使用可能。補充時間は60秒に1個。
RT無しで最大7発の魔法を連続して放て、更に炎の球以外の形で射出する事も出来る。この篭手による魔法攻撃も役職の追跡者でほぼ必中となっている。
デメリット無し。詠唱無し。ほぼ必中。ステータスを上げれば威力も上がる。
ブルーハートが強いとされている大きな理由がこれだ。役職と篭手攻撃の組み合わせがマッチし過ぎているのだ。
そのおかげでブラックギルド内では結構有名人で、それなりに高い地位に付いている。
そんなブルーハートはある事件をきっかけに【シャドーフェイス】元ギルドマスター焼原の席に移ることを命じられる。所謂出世だ。
ただ居座るだけで良し。仕事は自分に必要な事のみ。ギルドを動かす時は上からの指示だけ。そんな話で移動を良しとし【シャドーフェイス】に移った。
簡単な筈だった。出世した上に働かず部下の上で胡座をかいているだけで良いのだから。しかし、無(偽名を使った黒猫)が来てからあらゆる問題が起きた。
盗みを働けるプレイヤーの捜索。正規ギルドとの衝突。テレポートによる襲撃アイテムの調査。裏切り者の捜索。部下の不穏な動き。
どう考えても時期から見て無というプレイヤーが怪しい。しかし上は関係ないと、こちらの意見を握り潰した。
そして今回部下2人を殺される。
白い鎧を全身に見に纏った性別不明のプレイヤーと、金髪で厳つい装備を見に纏った女プレイヤー。この2人が射場ザキと羽崎を目の前から消した。
とは言え実際に部下が死んだところを確認した訳ではない。ギルドメンバー表から名前が消えただけ。だがそれは死ななければ消えないので死んだも同じ事。
ブルーハートは自分が付いていながら数少ない暗殺ギルドの部下をみすみす殺されるといった失態の責任を上から負わされ怒り狂い、あの時黒猫に鬱憤を晴らす為半殺しにしたのだ。
同時に厳つい装備をした金髪の女プレイヤーが自分をコケにしてきた事も頭から離れなかった。
敗北したあの時を思い出す度、怒りを滾らせるブルーハート。
―――――
『ハッ!『天界シリーズ』持ってんのにその程度って、笑わせるなし。装備が泣いてっし』
『んだと……』
こいつ……強過ぎる。何でこんな奴等とエンカウントしちまったんだ。チッ、しかも俺の篭手の事も知ってやがるときた。役立たず2人はあの鎧野郎と戦ってるが2対1でいつまで掛かってんだ?早く倒して戻って来てもいい頃だろ。クソ、幾らなんでも分が悪過ぎる。ここは大人しく引くか……
『お前、あーしが強いと思ってっし?違うし。お前の知らない世界があるだけだし。だからレアコレクターの誼で特別に見してやるし。あーしの知ってる世界。本当の武器の使い方ってやつをな。『展開』『装填』――――――
『は?』
―――――
ムカつくが……ありゃ規格外だ。『天界シリーズ』とは別で『蒼天シリーズ』なんてもんがあるなんて聞いてねーぞ。しかも神人で俺と同じ特殊役職ときた……勝てるか。チートだあんなもん。
嫌な記憶を思い出してイライラしているブルーハートは、ライの妨害を何とか掻い潜って棄世と別々になって黒猫を追っていた。だが、ライのデバフのせいで素早さが極端に遅くなっている。今の速さを例えれば、全力で走っているが、早歩き程度のスピードしか出ないのだ。これではいくら遅い黒猫でも追い付けるかは難しかった。
そんな中、森を走り抜けている途中、突如遠くに走る人影を見付ける。
それを見てブルーハートはニタァとこれまでに無いほど不気味な笑みを口元に浮かべた。
「俺は運が良い。見付けたぜぇカス女……『展開』」