その193 赤いクリスタル
「何故じゃ!?何があった!?誰が!?まさかまたわたしゃのせいか!?何故コノルが!?」
黒猫はこれまで以上に冷静さを失い、ライの襟元を掴んで鬼の形相で問いかける。
「落ち着け。お前は悪くない」
「やはりわたしゃのせいか!!またわたしゃはコノルを危険に晒したのか!!何故じゃ!!わたしゃを直接狙えば良いじゃろう!!クソ!!まだコノルを危険に晒し足りないとでも言いたいのかこの馬鹿は!!この無能に何の恨みがある!!誰も救えず!!誰も助けられず!!何もかも全て間違えるこの私に何を求めてる!!actか!!それとも観測者か!!どいつもこいつも何度も何度も何度も!!ほっとけばいいものを!!戯言ばかり抜かしおって!!知らぬと言ってもまだくるかっ!!!!!いいだろう!!もう一度あの時の様に組織事1人残らず皆ご―――」
「落ち着け黒猫!深呼吸しろ!冷静になれ!」
ライは取り乱して冷静さを失っている黒猫の肩を強く掴み返す。
黒猫はハッ!っと我に返ってライの襟元から手を離す。
「……の……じゃ?……わたしゃは……何か……言ったのか……?」
まるで取り乱した事を忘れたかの様な反応をしながら黒猫は後ろに後退る。
黒猫の周りには薄っすらと赤い文字の様なものがまとわりつくように現れており、黒猫が我に返ったと同時にその表示はゆっくり消える。
「…………気にするな。それよりコノルは囚われてるが、なにも危ない目に合っているわけじゃないから安心しろ。とは言え俺も詳しくは知らんが」
ライがそう言うと、黒猫は安心してほっと胸を撫で下ろす。
「居場所は分かるのかの?」
「迎えに行く気か?」
「うむ」
「流石だ。それでこそ癒し隊。分かった。場所はライト達が囚われているダンジョン、コノルはその最奥、『儀式の間』と言う場所にいる。事情はさっき説明した通り、俺達は手を貸せない。悪いが黒猫。お前が1人で向かうしかない」
「そこまで分かっておるならわたしゃ1人で大丈夫じゃ。ありがとうなのじゃ風神雷神の金剛石」
「わざわざフルネームで呼ばずに略せよ。あとこれを」
ライは黒猫にテレポート出来る違法アイテムの青いクリスタルを渡す。
「のじゃ?何じゃこのゴミ?」
「ゴミ言うな。お前は物を見る目を養え。握り潰して使用すると何時でも何処でも好きな場所にテレポート出来るアイテムだ。園田作の違法レアアイテムだぞ」
「のじゃ!」
「1つにつき1回限りだがな」
「のじゃ……」
1度は嬉しそうな反応を見せるがライの説明で、黒猫はゴミを見るような目を青いクリスタルに向ける。
「お前……いやいいわ。俺は本来ツッコミいれる様なキャラじゃないしな。後で同じ反応見せて園田に怒られろ。で、もう1個大切なアイテムを渡す」
「のじゃ?」
ライは黒猫に青いクリスタルに似た赤いクリスタルのアイテムを渡す。
「何じゃこのゴミ?」
「全部その反応か。それは……お前に渡しとけってギルマスが渡してきたんだ。使った時の効果は分からねーが、使い時は誰かが教えてくれるんだとよ」
「誰がじゃ?」
「知らねーよ」
「適当じゃのぉ……のじゃ」スっ……
黒猫は赤いクリスタルを天高く掲げて地面に投げつけ壊そうとする。
「うおい!?やめろ!?何しようとしてんだお前!?」
ライは急いで黒猫の手を掴んで止める。
「何で割ろうとした!?使い時があるって今言ったばっかだろ!」
「効果が知りたいのじゃ」
「脳筋か!使って調べようとすんな!1個しかねーんだ!次やったらギルマスがブチ切れるぞ!持っとけ!大切にな!」
「のじゃぁ……」
渋々黒猫はポケットに赤いクリスタルをしまう。
「ポケット……いや、もういい。とにかく伝えたからな。落とすなよそれ」
「分かったのじゃああああ!!」
「一々やかましいな」
ライは黒猫に呆れた目を向けてその場から立ち去ろうとした、その時
「てめぇ!?【夢完進】の一味!?」
ブルーハートが黒猫の大声に気が付き、急いで階段を降りて現れた。
「くっそ!騒ぎ過ぎた!黒猫!青いクリスタルを使って外に出てコノルを助けに行け!俺は先に外に行くぞ!」パリンッ!
ライは素早く自身が持っていた青いクリスタルを使って拷問部屋から外へと離脱する。
「のじゃ!割ればいいのじゃの!」
ライの使い方を見て青いクリスタルの使い方を理解する黒猫。口頭では伝わってなかったようだ。
「てめぇがやっぱり内通者だったか……しかもあのクソグレーギルドの仲間とはな……成程な。だからお前は盗めたり名前が表示されねー訳か。俺の部下をよくも2人も殺ってくれたな。お前を八つ裂きにして見せしめにしてやる」
ブルーハートが怒りで手を震えさせていた。
「何言ってるか分からんのじゃ!さらばなのじゃ!」パリンッ
「逃がすかカス!『展開』!」
ブルーハートは黒猫に向かってガントレットを構え、青い炎の球を黒猫に向かって放つ。
しかし、その青い炎の球が当たる直前で黒猫はその場から姿を消し、青い炎の球を回避したのだった。