その188 彼の為の管理者
――黒猫が拷問部屋へと連れて行かれた同時刻――
教えるつもりですか?なりません。知らないからこそあのバランスを保てているのです。勝手な事をしないでもらいたい。
「教えない事には、彼女を拉致する形で連れて行く事になります。力尽くは私も本意ではありません㤅」
ここは海の真ん中。
嵐吹き荒れ、周りは荒波で水渋きが飛び交う中、その海のど真ん中にテーブルと椅子が宙に浮いていた。
不自然極まりない光景。そんな場所でNNと、水で形取られた人型の塊となっている㤅が椅子に座りテーブルを挟んで話し合っていた。
「それに、彼女は薄々勘づいています。隠す必要はないかと」
関係を壊す必要はない。何度も言わせないで下さい。『教える』『教えない』どちらを取るにしても、リスクしかない。ならばリスクの大きい方を避けるべき。
「大きなリスク?どちらも同程度のリスクだと思いますが」
自責の念ですよ。理解出来ませんか?
「……私はその場面を知りませんから」
なら尚更余計な事はしないで下さい。彼を怒らせるとどうなるか、ラインを超えた彼等の過去の事例で分かるでしょう?
「ええ。しかし、大半はよくある噂の独り歩きでは?」
全て本当ですよ。それから彼は貴方の正体を知れば容赦なく消しに掛かります。失敗は死だと思っていて下さい。そして、貴方への協力はこれで最後。覚えておいて下さい。私は貴方に今回だけ手を貸すだけで味方ではないという事。あくまで私は彼の……たった1人の理解者……そう
観測者……いえ、管理者の1人なのですから
「……管理者とは、良く言いますね。1人しか見ていない癖に……ですが……その気持ちが分からないからこそ私は、出来損ないだと……そう言われるのでしょうね」
波は世界を海の中へと沈めて飲み込み、暗闇へと誘った。