その 183 下らない仲間意識
「なに!?」
「何だこりゃ!?」
シノ影とレウガルは、棄世が発動したと思われるその攻撃に吃驚する。
「気を付けろ!これは恐らく彼女の特異スキルだ!」
ライトは状況を飲み込めない2人に声を掛け、それが敵の特異スキルによるものと知らせる。
「は!?特異スキル!?嘘だろ!?じゃあこんな攻撃してRTも無しって事か!?どうなってんだ!」
デメリットが全くない特異スキルによる広範囲の攻撃にレウガルは驚きを隠せないでいた。
周りは死屍累々。幸いにも即死した人はいなかったが不味い状況ではある。
辛うじて自分は攻撃を避けられたが、反応が遅ければ自分達も殺られ、復活させる者もいなくなり、全滅する可能性もあったのだ。
それは1人で形勢を逆転させるだけの力が棄世にある事を意味する。
口だけじゃねぇってか。実力もしっかりありやがる……くそ、復活はコノルがいるから問題ねぇが、コノルが戻って来るまでにこいつを片付けないと……
レウガルが色々考えながら、片手でコノルに救援のメッセージを飛ばし棄世を睨んでいると、棄世は回復薬を取り出し自身のHPとSPを回復させていた。
「……よ、夜は……私の……み、味方……さ、さぁ……シャドーマン……も、もう一度……で、出番だ……よ」
先程ライトが倒したシャドーマンが再び数を増やして出現し、棄世は特異スキル【多は少を兼ねる】を発動してシャドーマンを再び操る。
影の木々には、600秒の表示がされているダウンしたプレイヤーがぶら下がっており、前には影の軍勢。切り抜けるのは困難だと思われる中、ライトが動き出す。
「【一閃】!【双撃】!」
ズバッ!スババッ!
不安を断ち切る様に、ライトは剣を振るいシャドーマンを次々と斬り捨てる
「確かに君は強い。だけど俺達も、仲間達と一緒に界ボスとの修羅場を切り抜けてきた。時にはこんな理不尽な状況もね。それに比べれば、君1人、なんて事ない」
「……ああ、確かにな。良く考えりゃなんて事ねぇ」
「流石、英雄は言う事が違う。私も微力ながら御助力しよう」
ライトに続いて、レウガル、シノ影は武器を構える。
「…………」
仲間……
棄世は下を向いて顔に影を作る。
「……く、くだ…………くだら………………」
そこから先の言葉が出ない。
『下らない』なんて事ない切って捨てる言葉。嘲笑い、小馬鹿にする言葉。言うだけで、相手を否定し、軽んじる。そして自分が正しいのだと思い込める、対した意味を持たない、そんな言葉。
だけど彼女は何故か最後まで言い切らなかった。
「ふん。下らないか。貴様らブラックギルドの奴等には分かるまい。仲間意識もなく、犯罪を犯し続けるしか脳の無い愚かなお前らではな」
シノ影はそんな棄世を嘲笑うかの様に、棄世の言葉を代弁して刀を向ける。
「…………」
棄世は手を震わせる。
怒りとはまた違った感情。しかし、ここにいる誰も分からない感情。
「ふひ……ふひひひひひひひひ……み、皆……こ、殺して……やる……み、皆殺し……さ……」
棄世は手から影で出来た槍を出現させる。
「獲物まで作り出せるのかよ」
レウガルは棄世の能力で武器まで作り出せるその汎用性の高さに畏怖しつつ、レウガルはレウガルで愛用の武器であるブーメランを構えて臨戦態勢に入る。