その176 冒頭での場面
「はぁ……はぁ……ふぅ……何なのじゃ一体……」
ハイヴァーの姿が見えなくなって黒猫は安心したのか、一息付いて立ち止まる。
「疲れたのじゃ……」
黒猫は今来た道を振り返る。
黒猫の視線の先にはギルド会議場全体が真っ赤に燃えている光景が。
1階の窓ガラスからはブラックギルドの協力者達が何が起こったのか分からずパニック状態で逃げ出していた。その中にはブラックギルドでない連中も混ざっており、ギルド会議場は阿鼻叫喚の混沌と化していた。
「……のじゃぁ……ま、まさか……わたしゃのせいか……の?……マズイのじゃ……」
黒猫は思い出したかの様にフードを被り顔を隠す。顔を見られたらマズイと思って。
「……」
だが、そこからは疲れも相まって何も考えられない。
暗い真夜中で、燃え盛る屋敷を見ながら、黒いフードに身を包んでいる黒猫は呆然とする。
すると突如黒猫の背中に衝撃が走る。
ドンッ!
ドスン……
のじゃぁ……
不意に誰かに背中を勢い良く叩かれ黒猫はなすがままに力無く前に倒れる。
背中を叩いてきたのは同じく黒いフードに身を包んだ男。そいつは黒猫を蔑む様な目を向けながら口を開く。
「任務完了だ。倒れてねーでさっさと盗品を寄越せ」
その男とは、ブルーハートだった。
「……のじゃ」
黒猫はブルーハートに黒い紋章の付いた紫色の袋を渡す。
「チッ。少ねーな。これだから新入りは。まぁいい。さっさとずらかるぞ。お前以外はもう撤退してんだ。グズグズすんな」
そう言って男は近くにある祠型のポータルへと走って黒猫を置いて消える。
どうやら他のメンバーもポータルで移動した後の様だった。
「……の、のじゃぁ」
体中傷だらけになりながら、黒猫もヨタヨタと走って祠型ポータルへと向かい、ちゃっかり盗んでいた素材とゴルドを払って目的の場所へと移動しようとする。
すると後ろから懐中電灯みたいな物で照らされる。
「見つけたわよ!貴方が屋敷に火を放った犯人ね!」
懐かしい声…………ハッ!のじゃ!コノルの声なのじゃ!
パァアア
黒猫の予想通りそこにはコノルがいた。黒猫は感極まってフードを取り、コノルの方に嬉しそうな顔を向けようとする。
「のじゃ!コノ―――」
『次我々ギルドの誰かがコノルに出会ったら敵と見なして攻撃し捕まえ、無意味な拷問を掛けた後死んでもらいます。それがご希望でよろしいのですね黒猫?』
「ハッ!」バッ!
NNの脅し文句と、言い渡された任務を思い出すと黒猫はバッと顔を隠す。
ダメじゃ!これは極秘任務じゃ!コノルに教えたらギルマスが黙っておらぬ!最悪、コノルも一緒にお仕置されるかもしれぬのじゃ!それだけはダメなのじゃ!
黒猫はコノルの為にもここは会いたい気持ちを抑える。
しかし、その一瞬でコノルは目の前の人物が黒猫だと気が付く。
「え!?猫さん!?なんで!?」
バレたのじゃ……じゃが……まだこの場を立ち去れば……
コノルの驚く顔を見ながら、黒猫は悲しそうな顔でその場からポータルを使って消えた。