その174 融通も機転も効かないポンコツ従者
「「……」」
黒猫が黙ると、ハイヴァーも何も喋らないのでお互いが沈黙する事に。
するとハイヴァーが何やら腕を抱えて考え込む。
「ん?うーん…………あ、そうでしたそうでした。レウガル様の支援と始祖様から貴方様に会った時の連絡を仰せつかっていたのでした」
そしてハイヴァーは思い出したかのように手を叩くと、何やらメニュー画面を開いてメッセージを入力し始める。
「急になんじゃ?」
「始祖様に連絡を取っております。【侵食のシフォン】様はご存知ですね?」
「知らぬが?誰じゃ?」
「お久しぶりですナナシ君。覚えてるでしょうか?あの砂丘の楽園以来ですね。と言えば私が誰か分かるでしょうか?あれから随分と経ちましたね。積もる話もありますが、先ずは私を当ててみて下さい。ヒントを言います。今の私のプレイヤー名はシフォンです。と始祖様は仰ってます」
「お主……何言っとるのじゃ?いきなり何言っとるのじゃ?壊れたのかの?」
「『お主何言っとるのじゃ?いきなり何言っとるのじゃ?壊れたのかの』っと、送信しました。少しお待ちを。始祖様の返事を待っております」
「何しとるのじゃさっきから?」
「きました。申し訳ありません。ハイヴァーを通して会話をしていて、分かり辛かったですね。そこに私はいません。だからハイヴァーを通して貴方と会話を試みています。と始祖様は仰ってます」
「意味分からんのじゃ。またの」
「『意味分からんのじゃ。またの』と、少しお待ちを。返信を待ってます」
ガシッ!
「……」
ジト目で黒猫はハイヴァーを見る。察しが悪い黒猫はハイヴァーが何しているのかまだ分からない。立ち去ろうとするとハイヴァーがメニュー画面を凝視しながら無言で黒猫の腕を掴んで離さないから立ち去れない。
「「……」」
沈黙再び。そこで黒猫は察する。
「……まさかお主……誰かの言葉を代弁しとるのか?」
「はい」
「分かり辛過ぎるのじゃ。出直すのじゃ」
「きました」
「おいスルーするななのじゃ」
「待って下さい。ハイヴァー彼を引き止めて。と始祖様は仰ってます」
「お主が言われとるではないか。一々わたしゃに報告せんでいいのじゃ」
「『一々わたしゃに報告―――』」
「のじゃあああ!それも書かんでいいから要件を言えなのじゃあああ!あと手を離すのじゃああああ!」
「『のじゃあああ!それも書かんでいいから要件を言―――』」
「こやつ違うベクトルで面倒臭い奴なのじゃ!?これまで会ったことないタイプの面倒臭い奴なのじゃが!?何故そんなに融通が効かんのじゃお主!?離せ!」
「きました」
「『きました』じゃないのじゃ!聞け!」
「研磨の時の事、覚えてますか?それともやはり別人なのですか?そのような語尾も彼は使っていなかった筈……覚えているなら私の研磨時代のプレイヤー名を仰って下さいませんか?と――」
「始祖様が仰ってるんじゃろうが!面倒臭いのじゃ!そこはもう割愛するのじゃ!」
「『始祖様が仰ってるんじゃろうが――』」
「ええええい!お主はロボットかああああ!!のじゃああああ!!手を離せえええええ!!」
オウム返ししかしなくなったハイヴァーから一刻も早く立ち去りたくなる黒猫。
しかし黒猫はハイヴァーに腕を掴まれた状態で暴れるも、ハイヴァーはビクともしない。まるで身体が金属の塊の様だ。
botマシーンよりタチの悪いそれから逃れたい黒猫はハイヴァーに掴まれている腕をブンブンブンと振り回す抵抗しか出来ない。
因みに火の手はこんなくだらない事をしている間も瞬く間に広がっていた。