その168 感覚リンクシステムの不具合
ログインして目の前に広がる景色は雲掛かった町の広場。
説明書に記載されているが、チュートリアルで始める最初のステージは毎回ランダムで選ばれ、絶景の中で始まる者もいれば、棄世みたいになんとも言えない場所からスタートする者もいる。
幸先が悪い……
棄世は取扱説明書に書いてあった事が頭の片隅に過ぎって、複雑な気持ちになる。
そんな心境のまま、棄世はチュートリアルを終え、●●●と合流する
「※RINEきたきたー。じゃあアレか。よっすー〇〇〇だよねアンタ?って、うわ、何その名前?きよ?」
※この世界のリアルで使われているメッセンジャーアプリケーション。
「き、『きせい』って……よ、読むんだよ。それより●●●ちゃん、ゲームで本名使うのは止めといた方が……」
「ふーん。なんでもいいや。皆〇〇〇を待ってられないって先行ったから行くよー。レベル上げー」
「あ、うん」
棄世は●●●の後をついて行く。
辿り着いた先は洞窟の入口だ。
「じゃ、ここの奥が今レベリング最効率らしいけど、罠が多くて行くの難しいらしいの。だ、か、ら、あんたが先陣切って罠を発動してきてー」
「……」
●●●が言いたい事はつまり、私の代わりにトラップに掛かって安全な道を探せという事。無論、誰だってそんな役回りは嫌だ。自分に利はなく痛い目に遭うだけなのだから。
……そんな事だろうと思った。なんで高いお金を払ってそんなつまらない事をしないといけないのさ?
と頭で考えはするが口には出さない棄世はただ黙って従う。
無論、初期装備にアイテムも無い上に、低レベルのプレイヤーが当たれば一撃死の罠を掻い潜れるわけもなく棄世はここで何十回も無意味な死を遂げる。
「もう!何やってんのさ!〇〇〇はほんとグズね!」
「し、仕方ないじゃん……そ、それに本名で……よ、呼ばないでよ。棄世ってプレイヤー名で呼んで」
「呼んで欲しかったら私を奥まで連れてってよ!もういい!友達に頼む!ふん!」
「……な、なんだよ……もう……私は友達じゃないのかよぉ……」
黒いモヤモヤは強くなっていく――――
―――月日は流れ棄世は●●●とクラスメイトと【始まりの楽園】をまだプレイしていた。
その中で棄世はクラスメイト内でトップのレベルになっていた。
損な役回りばかりを与えられる棄世は、そんな負担を少しでも軽減しようと、1人でレベルを上げてどんな状況にも対応出来る力を手に入れていたのだ。
しかし、それを棄世はクラスメイトに弄られる。
「なんで棄世さんだけこんなに強いんですかー?」
「隠れてレベル上げとか陰キャ〜」
「そんなプレイでゲームやってて楽しいの?」
「目にクマあるよー笑。まさか睡眠時間削ってゲームやってんの?廃人じゃんウケるー笑」
「棄世とやってても楽しくなーいw」
様々な罵倒を受けても棄世は耐える。
そもそもレベル上げを寝る間を惜しんでやったのは……
「はい、棄世が界ボスに挑んで私達はそれを観察しよー。今度こそ皆で協力して界ボスを攻略するよー!楽しんでいこー!」
●●●がそう声を上げると、
「「「「おー!」」」」
クラスメイト全員が一致団結してやる気に満ちた声で返事をする。
「……」
こうなるからだ……いっつも私だけ除け者で痛い目に合う役回り……はぁ……感覚リンクシステムのせいで痛いは痛いのに……切っちゃお。
棄世はメニューを開いて、設定で感覚リンクシステムを切ろうとする。
しかし
「?」
感覚リンクシステムを切るボタンがなくなっていた。