その166 彼女の能力と過去
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【ネクロマンサー】とは【人形使い】の中級役職から派生して進化した上位役職。実際に人形を操れる【人形使い】の力に、倒したモンスターや倒したプレイヤーを操れる力も追加されている。
しかし操れるのは1体まで。
それを棄世は特異スキルで上限突破していた。
特異スキル名【多は少を兼ねる】
効果は人数制限効果の限定解除。つまり1人にしか効果がない回復アイテムも複数人への回復効果に変えられたり、1人にしか効果がない攻撃も複数人に効果を与えられたり、1人しか操れない効果も複数人操れる効果へと変更出来るのだ。
ただ1度使えば最大HPと最大SPの数値の約半分を消費する為、何度も気安く使える訳ではない。
普通の人が使うなら使い勝手が悪い。回復アイテムを使う時【多は少を兼ねる】を使えば1回だけの使用で仲間を回復させたとしても自身のHPとSPが半分削れてしまう為本末転倒だ。
だったら単体攻撃スキルに使って複数人を狙う様にしたらいいと思っても、防がれたら削り損。そもそもそんな大人数と対決する事自体稀だ。
唯一使えるとすれば【人形使い】の人形を操る能力だが、それも一々複数の人形を持ち歩くかアイテム欄から取り出して【多は少を兼ねる】を使用しなければならないので効率が悪い。というより用意してる間にやられてしまう。かといって少ない数での運用はコスパが悪過ぎる。
しかし棄世に限ってはそのどの例に含まれない。
何故なら2つ目の特異スキルが関係しているからだ。
特異スキル名【絶影】
自身の影を媒体として、その面積分に比例したあらゆる形の物を作り出せる。その影の攻撃力はAT、耐久力はDF等の使用者のステータスに依存する。更に自身の影が別の影と重なっている場合その重なっている影も自身の影の面積として判定される。
これで棄世は人型の影、通称シャドーマンを即座に何体も出現させて、役職【ネクロマンサー】と特異スキル【多は少を兼ねる】を合わせる事で、大人数のシャドーマンを使役する事が出来るのだ。
HPとSPが半分になってもお釣りがくるレベルの恩恵を得られる為、タイマンで棄世程厄介な者はいないと恐れられている。
棄世との対決は 1VS1 ではなく 複数人VS1 の戦闘を強いられるのだ。
しかし、弱点もある。影を媒体にしてという事は影が少ない日中等は自身の少ない影の面積分しか使えない為、シャドーマンも一体程度しか作れないのだ。
だが裏を返せば、自身の影が繋がり無限の面積を獲得出来る夜や光の無い洞窟内ならば、棄世はあらゆる場所から影の攻撃が出来る上に、無限にシャドーマンを作り出せるのだ。
更に影の攻撃は影があるどこからでも出現させる事が出来る為、棄世の能力を知らないと、何も分からないまま背後から殺られてしまうといった事が起こる。まさに初見殺し。
それが、【殺し屋棄世】と言われる由縁である。
しかし、彼女だって最初は【殺し屋】なんて物騒な2つ名で呼ばれてなどいなかった。
そもそも彼女は気弱で戦闘を好んでする様な性格ではない。地面を擦るほど大きなフードの付いたヘンテコな服を着ていたり、話すと口篭って言葉が聞き取り辛い等、どこか変わってる所はあるが、その根っこはお花畑なんかで大の字で寝たりする普通の女の子。
そんな彼女が、ブラックギルドに入った経緯。
その背景には悲しい軌跡が続いていた。