その163 少しは焦れ。そして隠せ
今……何て言った?スパイ?
晴太は自分の耳を疑うが、黒猫は追い討ちの様に、その残念な口を開く。
「何じゃ関係無いのかの……今聞いた事は忘れて帰るのじゃ。またの」
ガバガバにも程がある。もし晴太がブラックギルド側の人間ならここでまた殺されてる所だ。勿論生き残ったとしてもNNに八つ裂きにされるだろう。失敗したお仕置として。
そんな危険を犯した事など夢にも思っていない黒猫はそのまま屋敷の外へと続く扉を探して先を進む。
「ちょっ!?ちょっと待ったあああ!!」
晴太は急いで黒猫の手を掴んで引き止める。全く同じやり取りをこの短時間に2度もする晴太と黒猫。
嫌そうな顔で黒猫は晴太を薄目で睨み付ける。
「……何じゃ?お主わたしゃが好きなのか?わたしゃお断りじゃ。去れ。さっさと消えるのじゃ」
「辛辣過ぎないか!?いやそうなるのも仕方ないと思うがちょっと待って欲しい!スパイってどういう事だ!」
「そのまんまの意味じゃ。何か忘れてる気がするのじゃが?……うむ……おお!そうじゃ。丁度いいのじゃ。爆弾があるからお主、解除してくるのじゃ。これが地図……うむ?無いのじゃ。またの」
黒猫は頭を捻って大事な事(さっきのやり取り)を何とか思い出したが、思い出せる訳もなく諦め、今度は爆弾解除を頼もうと手に持っていた筈の地図を渡そうとするが、それも無く、知らない内に落としたと思い込み、無いのならそのまま無かった事にして先を急ごうとする。
地図はさっき晴太に渡したからある訳ないだろ。
渡した事すら忘れている。まぁ当然だ。ほぼ忘れてるのだから。
「……」
そんなかなり抜けている黒猫からこれ以上会話をしても有益な情報が得られないと感じた晴太は、呆れて物が言えない顔になりながら黒猫の後ろ姿を見送り、黒猫から渡された地図を見ながら爆弾が設置されてるであろう場所へと向かい爆弾を解除しに急いだ。