その160 全力で選択を間違え続けるバカ
――ライトがピンチに陥っている一方黒猫はというと―――
黒猫は廊下を歩きながら考えていた。
………
小さい頭をフル活用して考える。
これは……別に……爆弾を設置せんでも……良いのでは?と。
熟考した。考えに考え抜いた。何を成すべきか思い出した。だからこの考えに達した。もしくは良い案を思い付いた。
だと思うだろう?
な訳ない。全然違う。
ただ単純に面倒臭くなっただけである。
「そもそも何故わたしゃがこんな無意味な事をせねばならぬのじゃ。うむ。そもそもギルマスが悪いのじゃ。帰ったらお金をもらってコノルに褒めてもらって※洗濯ザンマイ(※恐らく贅沢三昧の事)しなければ割に合わぬのじゃ」
などと、ぶつくさ言いながら目的地に到着すると黒猫は渡されていた爆弾をポケットから取り出そうとポケットを弄る。
そして目当ての爆弾を取り出し……
ゴソゴソ……
爆弾を取り出し……
ゴソゴソゴソゴソ……
取り出……
無いのじゃ。
無かった。そもそも渡されて無かった。
何しに来たのかいよいよもって謎である。役に立たないとかそんなレベルでは無い。敵であれ味方であれ、どちらにしても邪魔なだけである。
「設置した事にして次の目標地点に行くかの」
そしてただの徘徊になった。
今まさに戦闘が何処かしら起こっているこの戦場を呑気な足取りで歩き出す黒猫。同時に頭のフードを取る。
これで顔を隠す目的で着ていた黒いローブの意味すら無くす黒猫。もう誰から見ても何がしたいのか分からない。お前は一体どこに向かっているのだ?
鼻歌を唄いながら黒猫は廊下を徘徊する。
暫く歩いて2つ目の目標地点だった場所に辿り着く黒猫。
すると、ある1人の男と出会う。
「君は……」
「うむ?誰じゃお主?」
黒猫の前に現れたのは、かつて182界で、闘技場にいそうな戦士の見た目で戦っていた晴太がいた。今回は軽装備だった。だから黒猫は誰か分からない、という訳では無く眼中にすらないので覚えている訳がないだけなのだが。
「何故ここに?君は確か監獄にいるはず」
「人違いじゃ」
またもや秒でバレる嘘を言う。
「それよりこの屋敷に爆弾を仕掛けておる奴等がおるから気を付けるのじゃな。わたしゃ次の目的地に行かねばならぬから、またの」
爆弾を仕掛けようとしていたのはお前で、お前はもう目的地に行く必要はないだろうと、事情を知ってる者がいれば誰もが思う巫山戯た事を抜かしながら黒猫は晴太の横を通り過ぎる。
ポタッ……ポタッ……
「ん?何か漏れてるぞ?何を腰にぶら下げ……いや!それより!爆弾だと!?それが本当なら急いで止めないと!君も早くここから逃げるべきだろ!何悠長にしてるんだい!」
「?」
「いや……そんな顔されても困るんだが……」
「またの」
「どんだけ立ち去りたいんだよ!?だからちょっと、ちゃんと話を聞いてくれ!爆弾があるんだろ!早くここから逃げないと!」
「なるほどの。分かった分かった、分かったのじゃ」
そう言って黒猫は手でクシャクシャに握り潰していた爆弾配置の地図を渡す。
「これで爆弾が何処にあるか分かるじゃろ。またの」
「………」
晴太は口をあんぐりとさせながら固まる。
まぁ、こんな反応になるのも当然ちゃ当然だ。
理由は簡単、監獄にいる筈の奴がこんな薄暗い所で、しかもブラックギルドの奇襲の可能性がある場所で、1人彷徨い歩いていて、更に爆弾の情報を持っていて、トドメに爆弾を設置する地図という名の計画書を持っているから。
私が主犯です。こんにちは。と言っている様なものだ。普通なら隠すだろ。
暗闇へと消えていこうとする黒猫。
それを急いで引き止める晴太。
「ちょっと待てえええええ!!お前は!!ここで!!何を!!してた!!言え!!」
興奮状態の晴太。剣と盾を装備して臨戦態勢に入っていた。
ここで正しい答えを出さずに間違った答えを答えると忽ち斬られそうな勢いだ。
さぁ黒猫の答えは……
「なんじゃ五月蝿い奴じゃな。爆弾を仕掛けるつもりじゃったのじゃが爆弾を持って無かったのじゃ。じゃから仕掛けた事にして仕事をサボってるのじゃ。またの」
答えの中で大正解を引く黒猫。勿論斬り殺される方で。