その158 形勢は不利。ならばと、仲間の到着を待つライト
「ガキだと小馬鹿にする大層ご立派な大人のあんたも、こんな所で陰湿な事を企んで侵入する暇があるなら、俺達子供に少しでも協力してこの世界からの脱出に力を貸してくれないものかな?」
ライトは嘲笑うかのような口調でブルーハートを煽る。
しかし、内心は其れ処ではなかった。
敵が増えたのだ。それも現れたのがかなりの手練。気配で分かる。後ろにいる羽崎と射場ザキとは比べるまでもない程の実力者だ。そんなのが敵に増えてしまっては焦らざる得ない。
冷や汗が一粒、額を沿ってツー…と滴り落ちる。
温存してられないな。こんな薄暗く狭い場所は大振りする剣士にとってかなり不利だ。その上、少なくとも1人は敵にスキル持ちの超人がいる。佳代ちゃんが戦えない分実質3対1。佳代ちゃんを連れて逃げようにも前も後ろも退路を防がれて逃げられない。俺1人ならまだ何とかなっただろうが……下手に戦闘して佳代ちゃんに何かあったら……いや、言っていても仕方がない。【十三星斬】を使用して仲間の到着まで佳代ちゃんを守りながら粘る。それしかない。
「少し本気を出させてもらう。【十三星斬】!」
攻撃スキルを使用すると同時にライトの身体が蒼白く光る。
「はっ!それが噂のオリジナル攻撃スキルって奴か!長いRTが楽しみだなぁおい!」
ブルーハートはガントレットをライトに向かって構える。
ガントレットに装着されている玉は青く光っているのが5個と白いままの玉が2個。ただ、白いままの玉が1つだけ徐々に徐々に青く変色していっていた。
「『展開』。防いでみな英雄小僧」
ブルーハートのガントレットから青い炎の球が4つ放たれる。それは廊下中をバウンドするボールの様に上下左右に激しく跳ねながらライトに向かっていく。
軌道の読み辛い青い炎の球。ライトはその球に目もくれずただ剣を構えて佇む。
ドカンドカンドカンドカン!
青い炎は全てライトに命中するが、【十三星斬】は自身を無敵状態にさせる攻撃スキルだ。特異スキルに並ぶ攻撃スキルによりライトへのダメージは全て無効化されていた。
「余裕ってか!調子乗ってんじゃねぇーよ!【断罪刃】!」
羽崎はブルーハートに続く様に攻撃スキルを使用する。
その技は首に目掛けてギロチンが飛来するものだった。
しかし、この攻撃も首に当たった瞬間ギロチンは弾かれライトは無傷のまま。
「んだそりゃ!?ざけんなよ!【ヘビーアロー】!」
すかさず射場ザキも攻撃するが、放たれた弓はライトの身体に当たると弾かれる。
「無敵って奴か。くっくっく、お前らぁ!攻撃し続けろ!」
「「了解マスター」」
ブルーハートと射場ザキと羽崎は、連続する怒涛の攻撃をライトに向かってお見舞いする。
ありとあらゆる攻撃を受けるライト。しかし微動だにしない。
噂に聞いてただけでどんな能力か分からないのか?なら佳代ちゃんにだけ流れ弾を注意してればこのままやり過ごせるな。
ライトは仲間の女の子に攻撃が当たらないように注視しながら攻撃を浴び続ける。
時間経過で無敵が解除されるのを狙っているのだろうが、無駄だ。今のこの攻撃スキルは俺が13回攻撃を当てないと解除されない。
本来なら【十三星斬】は時間経過で攻撃スキルが解除される。だがライトはとあるアイテムを装備してその時間経過の制限を緩和していた。
『【命の砂時計】ゲーム内時間で1日1回1種類のみ時間制限のある効果等を1時間に変更する事が出来る』
つまり、何もしなければ1時間無敵状態でいる事が可能なのだ。
だからライトは安堵しきって攻撃を受けて、仲間の合流を待っているのだ。
その油断した顔をブルーハートが確認した瞬間、ブルーハートは口角を上げて笑った。