その151 有難いけど超迷惑
「悪い……少し無神経だった」
「ううん……レウガルちゃんは悪くない……悪いのは全部猫さんだから」(本音)
「そんな事言うなよな……」(絶賛勘違い中)
すれ違う両者の感情と思い。どちらも悲しげな顔だが、まぁ面白い事に見事すれ違っていた。
一方は申し訳なさで一杯なのに、その感情を向けられる相手が黒猫の脱獄に呆れて涙も出ないといった状態なのだから、酷いものだ。
そんな事露も知らず、レウガルはやるせない気持ちとやり切れない思いが徐々に徐々に強くなる。そして
「……ああ!もう!くそ!」
レウガルは頭をワシャワシャと掻いて大きな溜息を吐いた。
「仕方ねぇーな!見回りか?俺が全力でバックアップしてやるよ!それで今回のはチャラだ!無論お金も取らねーよ!」
「レウガルちゃん?」
そう言うとレウガルはメニューを開いて何やらメッセージを打ち込み始める。
「スケットを呼んだ。そいつらもこき使ってやってくれ。俺も別の組を組んで他の界を見回ってやる。いいか?今回だけだぞ?だが絶対犯人は見付けるぞ」
「レウガルちゃんは……どの界を見回ればいいか分かるの?」
「俺を誰だと思ってんだ?情報屋だぞ?舐めんな。んじゃな」
それだけ言うと立ち去っていく。
そしてコノルは考える。
優しいなぁ……情報屋かぁ……稼げるのかな?レウガルちゃんの爪を煎じて猫さんに飲み込ませたら少しはマシな生活が送れたりしないかなぁ……ん?あれ?待って……というか……探す人増やしたらダメじゃん!?絶対見付けられたらダメじゃん!?探す範囲広げられたらダメじゃん!?私が会えなくなる!二人一緒に断罪される!?
しかしもう後の祭り状態。最悪な事態が余計最悪に。最悪の上が更に最悪があるのか。レウガルの絶対見付けるという確固たる意志が、本来ならこれ程頼もしいものは無いと感じる場面の筈なのに、今は有り得ないほど有難迷惑。最早親切な死刑宣告だ。OMG。
「く゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……」
なんとも言えない変な声を腹の底から出して頭を抱えて唸るコノル。
すると後ろから依頼主達が声を掛けてくる。
「貴方何者ですか!?あの【情報屋レウガル】がお金を要求しないどころか無償のご奉仕!?夢なの!?私達今夢を見ているの!?」
「あ、有り得ない!?あの情報屋が!?金に目が無いあの情報屋が!?」
「レウガルの弱味でも握ってるのか!?教えてくれ!!どんな弱味だ!!」
「そういえばさっき『レウガルちゃん』って言ってたよね!?あの守銭奴にちゃん付け!?まさか姉妹?親族?貴方がいればもうあの守銭奴に怯えなくて済むって事!?」
目を輝かせてコノルに羨望の眼差しを向ける依頼主達。どうやらあのやり取りが羨ましく、レウガルと対等な関係を築いているコノルに唯ならぬ気配を感じたらしい。媚びを売ろうとする者も。
しかし、そんな目や態度を向けてきてもコノルは些とも嬉しくない。寧ろ虚しい気持ちになる。
こっちは死活問題だって言うのに……
「…………いいですね……事情を知らないって……幸せで」
「「「「へ?」」」」
心からそう思った事を思わず口に出してしまうコノルだった。