その137 よっし!猫さんじゃない!
何故か怒り始めたのじゃが何故じゃ?まぁいいかの。さて、どうしたものかの?コノルが助けに来るまで暇なのじゃ。
さっきのメッセージで助けに来れる訳ねーだろと何処かからツッコミが入りそうだ。
そんな思考回路の黒猫は呑気に胡座をかきながら唯一の出入口である細い階段の方を見詰める。
拷問部屋が黒猫専用の牢屋に。階段を登った先の扉は固く閉ざされ開けられない。
出るには自分がスパイじゃない事を証明し潔癖を示さなければいけないのだが、それが出来なかったからここにいる訳でまず不可能。
助けが唯一の希望、だがご存知の通り、コノルとのやり取りからみてそれは絶望的だろう。馬鹿は希望を絶望に変える。
さて、ギルドにいつ断罪されるか分からない状況にも関わらず黒猫は助けに来れないコノルが来るまでの暇潰しを引き続き考える。
この肉片は……焼いたら食べれそうじゃ。
絶望的だった。もう何もかも――
―――その頃、コノルはというと―――
「え!?泥棒!?」
「そう。どうやってるか分からないけど自分のアイテム欄から装備やアイテムが無くなる現象が最近多発しているの。盗られた側はいつ盗られたか分からないのよ。分かっているのはモンスターの仕業じゃなく間違いなくプレイヤーが関係しているらしいわ」
コノルは高額報酬が期待出来る【依頼】を見つけて、依頼主の女性と会い、その詳細を聞いていた。
しかし内容は手段不明の方法でアイテムが何者かに盗まれるから、街中を警備して誰の仕業か確かめて欲しいという事。
そしてコノルは身近にそれが出来る人物を知っている。いや、知り過ぎている。
猫さんしかいないじゃん!?
のじゃのじゃ五月蝿いアイツが頭の中を走り回り、額から汗がドバっと溢れ出る。
「そ、それで、わわわ私は、ななな何を、すすすれば良いのですかかか?」
呂律が回らない程動揺するコノル。
「急にどうしたの?落ち着いて」
「す、すみません!持病の喘息が!」
「ゲームの世界で喘息なんて聞いた事ないけど?貴方……ひょっとして……」
バカな動揺を悟られまいと嘘をつく。しかし嘘が下手過ぎてツッコミを入れられる始末。
「ゴホゴホ!ゲフゲフ!んーんっ!でっ!私は何をすればいいんですかっっっ!!」
咳き込みながら勢いで乗り切ろうとするコノル。
「……まぁいいわ。貴方にお願いするのは、私のギルドメンバー、つまり公共ギルドの人達が5人1組でチームを組んで被害現場近くを見回るからその同行をお願いしたいの。情報が少なくて相手が手練なら数が必要だし念の為なんだけど、流石に人手不足でね」
「なるほど……」
そこでコノルは考える。
手練どころか躓いただけでピンチに陥る雑魚中の雑魚なんだけど……まぁ要領も悪いし手癖も悪いし頭も悪いから捕まるのも時間の問……だ……い?……あれ?……はっ!そうじゃん忘れてた!猫さん今捕まってるじゃん!面会謝絶の牢獄の中じゃない!
今回の騒動が黒猫ではないと気が付く。
まぁコノルは訳を知らないだけで犯人は黒猫で間違いないのだが。
猫さんは牢獄だからそもそも盗みを働けない!何よ心配して損した!よっしゃっ!これなら気兼ねなく依頼を受けられるわ!
知らないというのは幸せな事である。
しかし同時にある疑問が。
でも猫さん以外に盗みを働けるプレイヤーなんているのかしら?
当然の疑問。黒猫からやり方を聞いていてもちんぷんかんぷんなコノル。そんな黒猫と同じ方法をして盗みを働く人が本当に存在しているのか?
いるのかもしれないが、どうにも腑に落ちないモヤモヤが。
うーん……猫さんに確認したいけど牢獄だし会えないし……猫さんメッセージ開けないからなぁ……
とか思っていると、
『新着メッセージ あり』
と表示が目の前に現れる。
うん?
コノルは誰から来たメッセージか確認すると、そこには
黒猫の名前があった。