その132 1番怪しいヤツ
伯瀬は【シャドーフェイス】を集めた理由を説明すると早々に立ち去っていった。
伯瀬が消えて間もなくして、残されたメンバーはというと……
黒猫をギルドルームの真ん中に吊し上げていた。
しかも逆さ吊りで。
……何故こうなったのじゃ?
いつもなら身に覚えしか無いが、今回ばかりは本当に身に覚えがない。だから抵抗する気力もない。
わけないじゃろ。
「ぬじゃああああああ!離すのじゃああああああ!降ろすのじゃあああああ!!降ろさぬとブチ殺すのじゃあああああああ!!ぐあああああああ!!」
吊るされながら体を捩って文字通り空中でグルングルンと暴れ回る黒猫。
部屋中にけたたましく鳴り響く奇声。黒猫から発せられる耳を劈く様な喚き声にメンバー全員耳を塞いでいた。
「バンシーかよコイツ!?」
「ちょっ!?うるっっっさ!?何よコイツ!?」
「チチチ、声だけで殺意が湧くぜまったく」
「…………」
「たくよぉ。ただでさえ大仕事があるのに、さっきの話で問題が増えたんだ。このマンドラゴラみたいな叫びを誰か止めて調べとけ」
射場ザキ、羽崎、リョウケンが黒猫に殺意増し増しな目を向け、棄世は耳を塞ぎながら黙ってそれを眺めている中、ブルーハートだけはそれだけ言うとギルドルームから出ていく。
「降ろせえええええ!降ろすのじゃああああああ!!」
鳴り止まない叫び声。
ここで何故こうなったのか説明しよう。
最近ブラックギルドが次々正規ギルドに摘発され潰されている。それには【夢完進】のNNが元凶な訳なのだが彼らはそれを知らない。前提としてブラックギルドの大半はアジト、つまりギルドルームを隠している。人殺しや盗みを働く輩が集まるギルド、そんなギルドを放置しておく道理は一般の善良なプレイヤーにはない訳で見つけたら公共ギルドや名のある強豪ギルドがブラックギルドの付近で待機しブラックギルドのメンバーを潰しに掛る為、普通は見付からない場所にギルドルームを隠すのがブラックギルドの一般常識だ。
まぁしかし【Re:ペア】みたいなブラックギルドの中でも巨大で強力なギルドは例外だが。
だがそれ以外の【シャドーフェイス】みたいな少数派のブラックギルドはギルドが見つかりにくい場所にギルドを隠す。そうして今まで摘発を逃れてきた。
しかし隠しているにもかかわらず、最近【Re:ペア】の下部組織である小規模なブラックギルドがアジトを見付けられて潰されている。それもどういったカラクリかブラックギルドの内部で仲間がPKされている様なのだ。
原因も犯人もNNだという真相に辿り着けず何も分からないまま潰されていく下部組織達。それを問題視したブラックギルドの幹部である伯瀬は、忠告兼内部にスパイが紛れ込んでいるかもしれないから調査するように指令を下しにきたのだ。
それが伯瀬来訪の理由である。
そして、スパイと言うならば、最近加入して一番胡散臭く、何より他人には出来ない事を平然とやってのける黒猫が容疑者として上がった。つまりこういう流れな訳である。
まぁ当然の流れといえは当然だ。