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その129 彼女の2つ名は【殺し屋棄世】

「お茶はないのかの」


「い、言ってみた……だけで……な、ない……よ」


 黒猫と棄世は未だに花畑にいた。そしてお互い座って寛いでいる。


 お茶をしようと咄嗟に誘った棄世。その誘いに黒猫は乗るも、肝心のお茶どころか食べ物も無い。


 ならこれはなんだ?なんちゃってピクニック?違う。ただ花畑の上に座っているだけ。


 ……こ、これはいけない……せめて……何か……


 棄世はコミュ障。更に言うと、沈黙には耐え切れる程の肝っ玉はない。普段ならこんな場面は食べる行為で無難にやり過ごす。しかし、食べ物も飲み物もない今、その切り抜け方は出来ない。残された選択肢はコミュ障ながらも会話のネタを探して無理矢理に話を広げる他ない。


 しかし、辺りを見回して出てくるのは『お花が綺麗ですね』とか『いい天気ですね』の平凡な2択だけ。どう考えても秒で話が切れる話の振り方だ。


 棄世が頭を抱えてう〜んう〜ん……と唸っている前で黒猫は花を見つめていた。


「……のじゃぁ。ならばこれでいいのじゃ」


 思い悩む棄世と打って変わって、黒猫は足元咲いてる花をとち狂ってるのか唐突に毟り取ると、それを自分の口の中に入れ始めた。


「え?……な、何……してん……の?」


 予想外の行動に引く棄世。しかし、黒猫の奇想天外な行動で会話を考える必要がなくなった。


「花も食べれるとわたしゃ聞いたのじゃ。これでティータイムなのじゃ」


「は、バカ……なの?……く、口には……い、入れれる……け、けど……お、お腹は……ふ、膨れない……し……そ、そういう……データ……じゃ……な、ないから……」


「モグモグ……のじゃ」


「ぇえ……」


 呆れ顔で棄世は食べれもしない雑草を一生懸命咀嚼する黒猫を見る。


「あ、頭……おかしい……の?」


「のじゃ!誰の頭がおかしいのじゃ!」


「ひっ!?」


 ドサッ!


 黒猫が両手を上げてオーバーリアクションをしながら怒ると、棄世は驚いて後ろにひっくり返る。


「……お主……本当に強いのかの?」


 凡そギルドのNo.2とは思えないその様子に黒猫は怪訝な顔を向ける。


 そんな棄世は赤面しながら急いで上半身を起き上がらせる。


「う、うるさいっ!……わ、私は……お、驚かされ……るのが……に、苦手な……だ、だけ……だっ!!」


 抑揚の付け方が下手なのか、いきなり声を荒らげる喋り方に黒猫は耳を塞ぐ。


「うっさいのじゃ。急に大声出すななのじゃ。うむ。仕方ないの。お主にコノルから教えて貰った特別な技を見せてやるのじゃ」


「……うぇ?……だ、誰?……コノル……って?……と、特別な……技?」


 棄世の疑問を総スルーして、黒猫は生えている草花を毟り集める。


 そしてそれを編み込んで、ものの数十秒で花冠の様な物を作り出す。


 いや、花冠は良く言い過ぎた。それは見た目は粗雑で、まるで花で出来た鳥の巣みたいな物だ。


 何も知らない人からすれば花を毟り取って悪ふざけしただけの産物だが、黒猫は至って真面目に作っているので残念でならない。


 黒猫はそんなゴミを2つ作り、1つを自分で被るともう1つを棄世に渡す。


「……」


 棄世は渡されたゴミをジッと見つめる。


「花の冠なのじゃ。被れば少しは明るくなるのじゃ。互いに被れば効果2倍なのじゃ」


 そんな黒猫の言葉を聞き、棄世は顔を上げて黒猫を見る。


 呑気で間抜け丸出しの顔がそこにはあった。


 更に黒猫が被っている花冠を見ると、その花冠にデータで出来た蝶々が群がっていく。


 そして蝶々が集まっていくにつれ黒猫の頭は蝶々で溢れ返る。それはもうアフロの様に。


 し、自然界の……アフロ……く、くひ……


「ふ、ひ、あっははははは!な、何し、して、ふ、ふひひひひひひひ、あっはははは!」


 棄世はそんな黒猫の間抜けで滑稽な姿に耐え切れず大声で腹を抱えて大爆笑する。


「のじゃ?ぬはははははは!」


 そんな棄世に釣られて笑う黒猫。勿論笑われているとは微塵も思ってない。ただ楽しそうなので笑っているだけである。


 2人の笑い声が花畑に響き渡る。




「はぁ……こ、こんなに……わ、笑った……のは……ひ、久し……振り……」


 一頻り笑った棄世は笑い過ぎて出た涙を人差し指で拭う。


 黒猫はそんな棄世を見て、笑顔になったと満足気な顔で頷きながら、ふとある事が気になり尋ねる。


「うむ。効果覿面じゃ。ところでお主は何でこんなブラックギルドなんかに入っておるのじゃ?」


「うぇ?……ぁ………………わ、私………………」


 すると、さっきまでとは一変して棄世の顔色に暗雲が漂う。


 ………………


 空気が凍るような、


 肌に突き刺さるような、


 身体が重たくなるような、


 そんな錯覚を感じる程の雰囲気を棄世から感じる。


 ……な、なんじゃ?


 その空気の変化に空気を読まない(KY)の代名詞の様な黒猫ですら気が付きたじろぐ。


「…………」


 ……わ……たし……は……わ……らえる……たちば……じゃ……


 突然の悪寒に黒猫の額から汗が滲み出る。


「………………わ、私の……2つ名……は……こ、【殺し屋棄世】……わ、私は……か、数え……切れない……さ、殺人()を……犯して……きた……ふひひ……殺すんだ……皆……じゃ、邪魔……なんだ……あれも……これも……皆……皆………ふ、ひひ……ひひひひひひひ」


 さっきまでの無邪気な笑顔と打って変わって、そこには邪悪極まりない不敵な笑みが。


 さっきと本当に同一人物かと疑いたくなるような異質感。


 棄世は独り言の様な声量で物騒な言葉を並べると、何かを思い出したかの如くゆっくりと立ち上がり、黒猫にはもう興味が無いのか、目も合わせず花畑の周りにある深く暗い森の中へと歩いていく。


 渡された花冠も手から零れ落とす様に捨て、何かに取り憑かれたかの様にフラフラと歩く。


 森の先はうっすら見えるのに、その先に奈落があると錯覚してしまう程、不気味で底知れぬ孤独を彷彿とさせる薄暗い闇の中へと棄世は姿を消すのだった。


「急になんなのじゃ?」

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