その128 天河を連れ、NNは㤅と会合する
一方でライトと別れた天河はNNに導かれるまま、とある森にある遺跡のような場所に来ていた。
「……」
……なんだここは?やはり罠か?殺られた時の為に保険としてライトと別れたが、正解だったか。ギルドの柱を2人同時に無くす訳にはいかないからな。だが、殺されるにしても……それに見合う情報は貰うぞ。
天河はボイスレコーダーの様な機能を起動しており、もしもの時の為の準備をする。
ライトがいれば【希望の星】が潰れる事は無いだろうという目算の事、天河は1人でここにいた。
万が一、もしもの為、こうなるだろうと思って天河は幾つもの結果を予想し行動していた。それが【先見の天河】と呼ばれる由縁だ。
その予想の中にはいつだって死ぬ可能性が付き纏う。だが、死ぬ覚悟が出来ているからこそ危ない橋を渡り、誰よりも重要な情報を得られる。
そして、自分の後に続く者達の先を明るく照らせるのだ。
そんな天河は辺りを見回し、知らぬ間に血死涼とライが消えている事に気が付く。
「……」
……あの2人は何処に行った?離れて様子見でもしているのか?……それとも……
いつの間にか居なくなっている血死涼とライの動向にも近くで見張られていると考え注意を払いながら、天河は引き続きNNの背中をついて行く。
その時、不意にNNは遺跡の真ん中で立ち止まる。
「孤児院の子供達」
NNがそう言うと、天河は驚き目を見開く。
「っ……」
しかし、天河は黙ってわざと反応を押し殺す。
「だんまりを決め込んでも知ってますよ天河。【KILLER】は孤児院の出身者で構成された絆の深いブラックギルド。孤児院出身の貴方は、【KILLER】のギルドリーダーであるactのやり方が気に入らず【KILLER】に入らなかった。そして【希望の星】を立ち上げ、同じく孤児院出身のリリスを誘って今にいたる。彼女の訃報は残念です。しかし因果応報とも言いますね。光と闇、両方の居場所を大切にしたが故の末路。選ばなかった。それが彼女の死因。そんな彼女でも貴方にとっては妹の様な存在だった。だからこそ、敵討ちの為、情報を求め、私の誘いに乗ってここにいる。そうでしょう?」
「……リリスだけじゃない。【KILLER】で死んでいった奴等は全員家族だ。急になんだ?俺を挑発してるのか?」
まさか俺の知られたくない情報を持っているとは……こいつ……本当に何者だ?しかし……俺と【KILLER】の情報は普通漏れるはずがない……何故知ってる?誰かが漏らすとしたら、誰か生き残りがいるのか?それともハッカーか……黒幕……なら個人情報の入手も容易いか。
天河は何故NNがその情報を知っているかという事に思考のスイッチを切り替える。
その天河の様子にNNは兜を被っているにも関わらず少し驚いた様子を見せる。
「おやおや、驚かないのですか。流石……いえすみません。挑発だなんて。貴方とは秘密を共有したいと思ってましてね。本当の信頼関係とは秘密を共有してこそですから」
そう言ってNNは遺跡の真上を向く。
すると空にさざ波のような揺れが発生し、巨大な雲が人影を形成して現れる。
「㤅、彼は【希望の星】のギルドマスター【先見の天河】。彼なら貴方に会わせても大丈夫だと判断しました」
NNがそう言うと、巨大な人影はNNに向かって語り掛けてくる。
勝手な事を……それより私に黙って彼を危険な目に合わせた代償を払って貰いましょうか
「早まらないで下さい㤅。これは回り回って彼の為になるのです。コノルは弱い。それは彼の弱味でもあります。自分を守れる程彼女は強くない。だからこそ前に言った例の装置が必要なのです。それを使うにはこうするのが最適解。貴方も薄々分かっている。だからまだ彼に手を差し伸べてない。そうでしょう?」
回りくどい……でも貴方がやろうとしている事は分かりました。【天童】のデータは用意してあります。任せましたよ。あれは外と繋がれる唯一の……しかし彼とコノルさんに何かあれば、私は貴方を不要と判断します。言っている意味は分かりますね?
「ええ望む所です。私の計算に狂いはないのですから。それより天河に顔は見せないのですか?」
信用に足る人物かを判断するには材料が少なすぎる。今は彼女だけでいい。
「ライコって子ですか……㤅がそう言うなら私は従うだけ」
頭が切れても望む答えに向かうかは別問題。学習して下さい。貴方はまだ人の心を理解していないのですから。
「…………」
NNは下を向く。兜の中が見えない為感情が分からない。
同時に天河は、NNの話が終わったようなので質問する。
「なぁ、お前はいったい誰と話しているんだ?」
「……」
天河の質問に答えないまま、NNは天河にある提案を持ち掛ける。
「……近々、ある人物が目を覚まします。貴方ならば、答えはそこで得られるでしょう。また連絡します。メッセージはいつでも拾えるようにしていて下さい」
そう言うと、NNはその場から消える。青いクリスタルを使った瞬間移動とはまた違った消え方。そこにまた別の謎を覚える所だろうが、今の天河にとってそれはどうでもよかった。
「……生き残ったか……ふぅ、にしても、ある人物に答え、アイとライコという人物、NNの言う計算に例の装置、コノルと彼、そして見えない何か……キハハ。まだまだ死ねないねぇ。まったく」
天河は何事もなく生き残った事に安堵しつつ、未知の先を知る事に心を弾ませるのであった。