その127 手に掛けた人達の為にもこの世界をクリアする
建物の外観と違って、内部はまぁまぁ広く、豪華な屋敷のエントランスの様な風貌で、1階に2階へと続く階段が左右対称にあった。
ライトは1階ホールにおり、そこには数人のブラックギルドのメンバーがいた。
そしてブラックギルドのメンバーはライトの存在に気が付くと驚いた表情になるが直ぐに状況を理解したのか武器を構え出す。
それに続いて異変に気が付いた他の部屋の者も部屋から飛び出しライトのいる1階ホールへと駆け付け、あっという間にライトは11人の敵に囲まれる。
「チッ!噂は本当だったのか!連絡通りだ!生きて帰すな!殺っちまえー!」
どうやら他者がギルドの内部に入る情報は広まっていたようで、直ぐに敵は武器を取り出すとライトに向かって一斉攻撃を開始してきた。
流石に対応が早いな……
「…………」すぅー
ライトは神経を研ぎ澄ます。
敵はこちらに向かって走っていた。先陣を切るのは3人。その手には槍。
向かってくる槍が3本、全てライトの頭を狙っていた。
それぞれがタイミングをズラしての素早い突き攻撃。普通なら交わすのは困難だ。
しかしライトはその槍の軌道を全て見切り、紙一重で交わすと身体をねじりながら槍を持つ敵1人に素早く近付き首を斬り捨て、すかさずライトはその敵が持っていた槍を掴み取り別の敵に投げ付ける。
あっという間に2人を始末するライト。
だが、敵も攻撃の手は緩めない。1人残った槍使いはそのまま槍を大きく振って攻撃してくる。
「っ!」
ライトは持ち前の反射神経で槍の柄の部分を足で蹴って槍を弾くと、剣を大きく振り、槍使いにダメージを与えて後ろに下がり距離を離す。
しかし当て所が悪かったのか、槍使いはレッドゲージになるが生き残っていた。
くっ、浅かったか……ん?
ライトが槍使いから距離を離すと、ライトの両斜め後ろから短剣を装備した2人がライト目掛けてやってきていた。同時に2階の隅から火縄銃を構えて遠距離攻撃をしそうな敵にも気が付く。
……すぅー
ライトは下がってる最中に一呼吸入れ体を捻り二刀流で向かってくる2人の短剣を弾き飛ばすと、1人は左手の剣で頭から一刀両断し、もう1人は右手の剣で腹を刺す。
早過ぎる斬閃。10秒と経ってない内にまた2人。
しかし両断された敵は即死だが、腹を刺された敵はまだ生きていた。
仕留め損ねたのかと思うところだが、それは違った。わざと生かしたのだ。
なら何故生かしたのか?その理由とは
部屋の隅から火縄銃で狙っている敵に対処する為だった。
今のライトからは火縄銃を持つ敵は死角。更に弾丸による高速攻撃。敵が攻撃するならこのタイミングしかない。
「よっし、くくくく、終わりだ英雄」バンッ
案の定放たれた弾丸はライトの頭を目掛けて飛んでくる。
ここでライトは音と音の出た方向に向かって、先程腹を刺した敵の男を瞬時に突き出し盾にする。
弾は見事防がれ、同時に盾代わりとなって弾の当たった男はそのままHPが0になり床に崩れ落ちる。
そして倒れる男を死角にしてライトは一瞬の隙を付き火縄銃を持っている敵との距離を1回の踏み込みでジャンプして一気詰めると、首目掛けて斬撃を放つ。
「ハッ!」スパッ!
「ッ!?」
一撃で倒れる火縄銃の敵。
まだ部屋に入って30秒と経たずして5人を葬るライトに残った敵は畏怖していた。
「つ、強過ぎる」
「これが【英雄ライト】の実力か」
「く、なんだってこんな」
残り6人。
ライトを敵が恐れたじろいている間に、ライトは2階から敵の数を把握すると再び剣を構える。
「一人一殺が可能だけど、万が一を考えて1人2撃は残しておきたかったんだ。悪いな。お前らはここで確実に始末するぞ。【十三星斬】」
【十三星斬】13発攻撃を当てるまで無敵状態になれる第4の特異スキルと呼ばれる攻撃スキル。
もうライトには攻撃が効かない。一方的な蹂躙。しかし敵はライトの攻撃スキルの効果を知らない。
だから、敵はライトを攻撃した。結果は言わずもがな。
その後は急に攻撃が効かなくなったライトにただただ困惑しながら敵はまるでドミノ倒しのようにライトに斬り伏せられていく。
ものの数分で全滅。一人も残らず斬り倒し、ライトはそのブラックギルドを見事に潰した。
「ふぅ……悪く思わないでくれよ。いずれこのゲームをクリアしたら必ず復活させる。それまで寝ててくれ」
自分に言い聞かせるかのような独り言を呟くとライトはブラックギルドの出入口から外に出る。
PKしたのが悪い人間達だと言っても心が苦しまない訳がない。ライトだって人間だ。ゲームがクリア出来たらいいが、出来なければ人殺しになってしまう。その事実を真正面から受けてしまうのは精神的にキツい。だからこそ生きて世界を攻略する事をライトは心の支えとして、特効薬として、自分を正当化する理由として、全力を上げているのだ。
生きて、必ずクリアしてみせる。俺が手に掛けた人達の為にも、救えなかった人達の為にも。
決意を新たにライトは次へと進むのだった。