その125 実装されなかったエリア
棄世は少し間を置いて声を掛けた黒猫の方に目を向ける。
「「…………」」
寝転がっている自分を上から覗いてくる黒猫と、そんな黒猫をジーッと見る棄世。
黒猫と棄世は無言のまま互いに見つめ合う2人。
「……ふ、へへ……また夢に……現れるとか……ふひ、ふひひ……でも……今回は……妙に……リアル……だね……クロ」
棄世はニヤニヤと粘つくような笑顔で黒猫を見ながらそう呟く。心做しか、いつもより少し流暢に喋っている感じだ。
「誰がクロじゃ。略すななのじゃ。何でもいいが、何故こんな所で寝とるのじゃ?外じゃと外傷ダメージを喰らうのを知らぬのか?」
お前が言うなと言われんばかりの疑問を投げかける黒猫。
そんな黒猫の言葉を聞くや否や棄世は徐々に顔を赤くする。
「…………ひ、ひぎっ!?ほ、本物!?なななななんだよ!?どどどどうしてこここここにいいいるんだよぉお!?」
棄世は目を見開き、驚愕の表情で真っ赤になった顔を隠しながら即座に起き上がる。
驚いているからなのか、いつものたどたどしい口調では無く焦りの混じった早口で心底動揺している事が窺えた。
「いたら悪いのかの。もう寝たら駄目じゃぞ?それより綺麗な場所じゃの。何なのじゃここは?」
黒猫は棄世の様子を無視して、辺りを見回しながらこの場所の事を聞く。
「だ、だから……少しは……き、聞けよぉ……あ、う……こ、ここは……わ、私の……お、お気に入り……の……ば、場所……と、というか……お、お前は……ど、どうやって……ここに?」
「散歩してたら辿り着いたのじゃ」
「ぐ、偶然かよぉ…………こ、ここは……え、えっと……未実装エリア……え、エリア……情報は……つ、作られて……ある……けど……じ、実装されなかった……え、エリア……だよ……ふ、普通は……こ、来れない……場所……」
「じゃがわたしゃとお主はおるではないか?」
「……い、行き方が……あ、あるんだ……よぉ……う、裏技……み、みたいな……ぐ、偶然……お、お前は……クリアした……み、みたいだけ……ど」
「教えるのじゃ」
「ず、図々し……過ぎる……や、やだよ……こ、ここは……わ、私の……秘密の……ば、場所」
棄世はそっぽ向いて黒猫のお願いを断る。
「ならいいのじゃ。わたしゃ帰るのじゃ。またの」
「あ、あっさりし過ぎてるよぉ!?ま、待って!」
棄世は慌てて黒猫の肩を掴んで引き止める。
「……」
「……」
しかし引き止めた先を考えてなかった。勢いで止めたが謎の沈黙が二人の間に漂う。
「……あ……う……え、えっと……お、お茶でも……す、する?」
「ナンパか。何なんじゃ急に?」
「あ、うぅ……こ、こう言う……時……な、何言えばいいか……わ、分からない……んだよぉ……」
下を向いて照れ臭そうにそう言う棄世に黒猫は
「では、はよお茶。あと食べ物も欲しいのじゃ」
図々しくも乗るのだった。