その124 清々しい朝のお散歩なのじゃ
朝
いつもならお腹に衝撃が走り、内蔵が破裂したかと錯覚するほどの蹴りを入れられ、文字通り叩き起されるのだが、
今日は違った。
黒猫は静かに部屋の隅で目が覚め、起き上がり、大きな欠伸をする。
「……」
頭がボーッとして働かない。数分間ボーッとして漸く頭が回り出す。
「……起こされんかったのじゃ……わたしゃ……早起き……したのじゃな」
ギルドルームにある時計に目を向ける。時刻は昼の12時30分。全然早起きでは無い。
「……」
頭が働く働かない以前の問題である。訳が分からない。
いつもなら、盗みの為に朝早くに雑で乱暴に起こされ連れ出されるか、用が無くても、鬱憤晴らしでお腹に蹴りを入れられ起こされるのに、今日はそれが無い。
不思議な事もあるものだと黒猫はギルドルーム内を見渡す。
ご飯は……ないかの?
黒猫の視線の先にはテーブルの上に乗った葡萄が。
黒猫は近付いてそれを丸々口に放り込み咀嚼する。
「……」モグモグモグモグ……
そして飲み込むと、再び大きな欠伸をする。
ギルドルーム内には人の気配がない。
「みな出掛けておるのかの?」
黒猫はギルドルームを出る。
静謐した昼下がりの日が差し込む森の中。木漏れ日が辺りを幻想的に彩る。
何も予定が無い黒猫は特に考える事無く歩き出す。
殴られない朝なぞ久し振りなのじゃ。任務も無さそうじゃし散歩しようかの。
目的地も無くただただ歩いて、木々の間を幾つも抜け、数分間のんびり歩いて辿り着いた先には、色取取の花が咲き乱れる広場があった。
こんな所が近くにあったのじゃの……綺麗なのじゃ。
穏やかな気持ちになりながら黒猫はその光景に見蕩れて広場の真ん中へと歩いていく。
すると、広場の真ん中で大の字にある人物が寝ている事に気が付く。
「のじゃ?棄世?何やっとるのじゃこんな所で?」
黒猫が声を掛けると棄世はゆっくり目を覚ました。