その120 【希望の星】ギルドマスター天河
―――そんなこんなで、コノルは一虎と一緒にそこら辺にあったお店でお昼を取る。
「いつも奢りで悪いですね。わぁ、美味しそー!」
「奢るなんて一言も言ってないんですが……まぁ奢るけど。どんどん食べて」
少しでもコノルに良いところを見せようとする一虎を余所目に、コノルは目の前に並べられた美味しそうな食べ物に舌鼓を打つ。
何せ、まともな食事は数日ぶり。いや、今回は食事を取る行為自体数日ぶりなのだ。一虎の相手なんかしてられない。
この【始まりの楽園】での食事は腹を満たすというより舌を満足させるのが目的の食事。空腹や満腹感は多少は感じるが、それを放置していても身体に害はない。しかし人は食欲を満たすルーティンが無くなれば忽ち生活のバランスを崩すというもの。それに食べない事に慣れてしまっては現実世界に戻った時苦労するだろう。
お腹が空かなくても食べる行為は大事にしないとね。
そんなコノルは優雅に、しかし豪快に目の前の料理をかっ攫う。
うまうま。
幸せそうな顔で食べるコノルに一虎は癒されながらその光景を眺める。
幸せそうだなぁ……良かった良かった、良いもん見れたわぁ。
そんな食事をしている最中、とある人物がコノル達に話しかける。
「あれ?一虎、1人じゃなかったのか?」
ラフな格好をしたその人物はコノルを見て不思議そうにしながら近付いて来る。その人物とはライトだった
「おっせーよライト。つか、よく店間違えなかったな」
「一虎じゃあるまいし、間違えないよ」
「開口一番ひでーな」
笑いながら一虎はライトに言う。
「あれ?ライトさんも1界に?よっこいしょ。お久しぶりですライトさん。あの時はお世話になりました」
コノルはライトを視認するや否や、食べるのを止めて立ち上がり頭を下げて挨拶する。
「久し振りコノルさん。元気そうでなによりだよ。それに、あの時お世話になったのは僕の方さ。ありがとう」
ニコッと笑いながらライトはコノルの様子に安堵したかの様な反応で返す。
そしてライトは一呼吸入れると会話を続ける。
「それより黒猫さんの事だけど……本当にすまない……こうならない様に頑張ったんだけど……僕の力不足だ……君達には迷惑ばかり掛けて不甲斐無いたりゃないね……」
ライトはコノルに負けず劣らず、深く頭を下げて謝罪する。
ライトは何とか黒猫を無罪にしてあげようとしたが、あまりに反対意見が多く黒猫の罰を無くせなかった事を未だ悔いていた。
仕方がないとは言え、恩人を助ける事が出来なかった不甲斐無さ、おかげで黒猫は辛い思いをしてしまっているのだと、その想いがライトの言葉と態度から伺えた。
「あ、頭を上げて下さい!ライトさんは何も悪くないですよ!悪いのはウチのバカ猫ですから!お気になさらず!気にするだけ無駄ですよウチのバカ猫の事なんか考えてたら!あははははー」
早口でライトを励ますコノル。黒猫の事は一切フォローしない。
「コノルちゃんって案外天然のド畜生?牢屋に入れられちゃった黒猫ちゃんのフォローも少しはしたげて?」
黒猫に対してあまりにぞんざいな扱いをするコノルに、一虎は黒猫に同情する。
その時
「キハハハハ。面白いじゃないか彼女。ライト、一虎、俺の事も彼女に紹介してくれよ」
そう言ってライトの肩を叩いて後ろから現れたのはギルド【希望の星】ギルドマスターである天河だった。