その 118 一虎再び
悲しきかな。
黒猫に会えもせず、承認欲求も満たせず、目的が何一つ達成出来ないまま、まるで何かの試合に惨敗したような気になりながらコノルはただただ歩く。
叩き付けた食糧の入った布袋を両手に虚しく引っ提げながら。
「何でこんな事に……はぁ……」
深いため息を吐きながらトボトボと足を動かす。
そんなコノルの前から1人の男が歩いてくる。
その男はコノルに気が付くと手を振りながら近寄って来た。
「あっれー?コノルちゃんじゃん!久し振りー」
そう言ってヘラヘラ笑いながら近寄ってくる男。
近付くにつれ、その顔に身に覚えがある事に気が付く。
「え?あれ?一虎さん?ここ1界ですよ?なんでこんな所にいるんですか?」
その男の正体は一虎だった。コノルは意外な人物が1界にいる事に首を傾げながら尋ねる。
因みに、コノルが意外だと思ったのは、攻略組のメンバーは常に最前線にいる訳で、一虎もその1人だからだ。こんな1界にいれば移動費用と素材が最前線に戻る度バカみたいに必要になるから普通ならいる事自体珍しい……というよりそもそも来る事自体有り得ない。
閉じ込められた人達をゲームの世界から解放するのが目的の攻略組にとって、最前線に戻る為に素材集めや資金集めをするのは時間の無駄もいい所。だからコノルは意外そうな顔で首を傾げているのだ。
そんなコノルに一虎は
「うわ!ひっでーよコノルちゃん!そんな邪険にされちゃいくら俺でも傷付いちゃうわ!ここに来たのは、コノルちゃんと運命の赤い糸で繋がってるからなんだぜ」
有り得ない程臭いセリフを吐きながら片膝を付いてコノルの手を取ってくる。
「あ、そうですね。じゃあさようなら」
そんなお調子者の一虎をまるで相手にせずコノルはスルリと一虎の手から逃れて先へ急ごうとする。
「え?えええええ!?ちょっと待ってええええ!?少しは話そっ!?そんなドライな関係じゃないよね!?つかいつにも増して扱い酷くない!?」
「いつも通りですね。ではまた来世で」
「今世でこれが今生の別れ!?ちょ、待っ!」
コノルの冷たいあしらい方に驚きつつ一虎はコノルの手を掴みコノルを引き止める。
「……もう、何ですか?ナンパですか?なら他に当たって粉々に砕けて下さい」
「砕ける前提なのか!?違う違う!そんな話をしに来た訳じゃなくて!……本当はギルドの用事兼黒猫ちゃんに会いに来たんよ。大変な事になってるって聞いてさ。少なくとも俺にもこうなった非がある訳だし、せめて自分から会いにいかないとって思ってね。コノルちゃんが来た方向からすると黒猫ちゃんと会った後ってとこかな?これから会いに行くつもりだけど、どう彼女の様子は?」
一虎はここにいる本当の理由を説明しながらコノルに黒猫の様子を聞く。
そんな一虎にコノルは嫌そうな顔をしながら一虎を見る。
「あれ?何でそんな反応?俺またおかしな事言った?」
「はぁ……猫さんには会えませんでした」
「……うぅん?」
一虎はそんなコノルの返事で心底不思議そうな顔をするのだった。