その117 なんなのっ!!
何事も無く無事撤退が完了。
しかし
ギルド【シャドーフェイス】が全体で成果を上げた一方で、黒猫個人はというと……【夢完進】からの任務に対して何の成果も挙げられずにいた。
コノルと出会う目的は遠のくばかりだ。
――そしてあの店を襲撃する一件から幾許かの時が過ぎた――
あの日以降【シャドーフェイス】のメンバーをPK、もしくは捕縛するチャンスも訪れず、ただただコキを使われるだけの日々。
黒猫は半ば諦めていた。というより、射場ザキとリョウケン以外のメンバーとは仕事はおろか会うこともなくなっていたからだ。
同じ面子で不意を突くチャンスがあるかと言われれば……ない。何故なら少しでも変わった動きを見せれば鉄拳制裁が待っているからだ。
つまりあの2人相手では信頼関係が皆無な為下手な事が出来ない。
フゥみたいに【夢完進】からの使者も連絡も指示も助っ人も、
何も無し。
……コノルに……会いたいのじゃ……
もう数年会っていない様な感覚。コノルと過ごした日々が懐かしく恋しい。そんな気持ちが日に日に強くなっている時、ふと、とある思考が黒猫の脳裏に過ぎる。
……あれ?コノルはわたしゃがここに居る事を知っておるのかの?そもそも監獄から消えたら探さぬか普通?コノルなら絶対探す筈。何故音沙汰が無いのじゃ?
コノルが黒猫の現状に気が付いてもいい筈だが、しかしコノルに自分を探して動いてる様子がない事に違和感を覚える黒猫。
まぁそれもそのはず。コノルが気が付かない理由はちゃんとあった。
それはコノルがある程度お金を稼いで黒猫に差し入れを持ってアルカトラズ監獄に赴いた時の出来事である。
――――
「うーん……少しずつ界を上がっても結局猫さんは1界にいるから超意味無いんだよねー……あーあ、やっぱり難しいクエストキャリーしてもらうのが1番稼げるのかなぁ」
などとぶつくさ言いながらコノルは両手に大量の食料が入った布袋を引っ提げて、黒猫が収監されているアルカトラズ監獄へと面会をする為向かっていた。
無論食料が渡せるか不明だ。ライコのように渡せない可能性を念頭に置いて、コノルは黒猫の為にあえて食料を持っていく。
一見無意味な事だが、別の目的があった。予めこんなに食料が外にあると見せ付けておけば、黒猫も出る時までのモチベーションを維持出来ると思っての為。そうすれば少しは我慢と大人しくするという事を覚えるだろうと。
あと、お金集めを頑張ったアピールをしたいという承認欲求も少しはあった。テヘッ。
準備は万端。用意は周到。後は監獄で黒猫に会うだけ。
そして監獄に着くや否や、前にやった手続き通りに面会を行う為の手順を踏んで黒猫と会おうとした時、看守員にコノルはある事を言われ追い返された。
追い返されたコノルは湖畔に浮かぶ監獄と陸との間を繋ぐ橋を呆然と歩く。
何を言われて何が起こったのか、今さっきの場面をコノルは脳内で遡る。
その場面の看守員の第一声がこちら
『彼女は監獄内で問題を起こし過ぎて面会謝絶の地下牢へと移監された』
それを聞いた瞬間コノルは声を上げた。
『なんでやねーん!!どうしたら問題を起こさせないようにする牢屋の中で問題を起こせるのよあのバカ猫!!トリックスターか!!』
脊髄反射の如きツッコミ。トリックスターという単語の意味を全く理解していない事が丸わかりである。そんなコノルは、黒猫の牢屋における破天荒ぶりに声を荒らげる。
しかし騒いでも仕方がない。コノルは今日の面会を諦めて次いつ黒猫と面会出来るのかを聞く。
そう、切り替えが大事。何事も冷静に……よ。
とか考えながら尋ねるコノルに対して看守員はこう返す。
『面会はもう無い、次会えるのはギルド会議で処遇が決定した時か釈放された時だけだ。何せ、自由にしたら危ないと監獄内で満場一致で判断されたから。なかなか重犯罪者でもそんな扱いはされない。逆に凄いな。ははは』
そう言われたコノルは
『何ワロとんねん!というか一体全体猫さんは何をしたの!?重犯罪者ですらやらない事をした!?動けない牢屋で!?なんなのっ!!』バシンッ!
冷静さを忘れて再び声を荒らげながら、勢い余って黒猫への大量の食糧が入った布袋を地面へと叩き付ける。
そして追い出された。