その116 ブルーハートが現れたのじゃ
襲ってきた敵は既に体力がレッドゲージ。最早敵じゃない。更に一撃でそれ程ダメージを与える技、その技を放った射場ザキ本人は動けないでいる。
威力が高い技は大抵RTがクソ長い。射場ザキは恐らく30~60秒、下手すれば3分は動けないだろう。
それだけの時間があれば、フゥからバフを盛りに盛られた今の黒猫なら射場ザキを八つ裂きに出来る上にお釣りがくる。
ボコスカ殴られている日頃の恨み……もとい、任務を遂行する絶好の機会。
どうする?
黒猫は心の中で熟考する。
やる★★★★★☆☆☆☆☆やらない
……うむ。
黒猫の脳内で射場ザキの蛮行が次々と思い浮かぶ。
殺る★★★★★★★★★★やらない
即決。殺る。
殺意増し増しの黒猫。拳を握る。
「何やってんだ?早くアイツを殺りに行け。ポンコツなお前でも今なら殺れるだろ」
こやつ……うむ。
黒猫は最後にやる気をうんと上げる。
だが、黒猫がやる気を出すと同時にある出来事が起こる。
それは目の前にいるHPレッドゲージの敵が、どこからとも無く現れた無数の青い炎の球に襲われる光景。
その青い球はボールの様に壁を反射しながら飛んできて、男の身体にぶつかるとその身体を燃やし尽くし始める。
「ぎゃああああああ!?」
断末魔の叫びを上げながら男は青い炎に包まれ悶え苦しむと、そのまま地面に倒れて黒焦げになり消える。
のじゃ?なんじゃ?
突然の出来事に射場ザキへの攻撃を忘れて唖然としていると射場ザキがその出来事の正体を口にする。
「これは……マルチロックオン。って事はブルーハートさんか」
射場ザキは納得した様子で焼け焦げた敵がいた場所を見つめる。
「お前らの獲物だったか?悪いな。あんまり始末が遅いから取っちまった」
突如上から声がして、黒猫は驚いた様子で急いで上へと振り向く。
「いえ、気になさらず。相変わらず余裕そうですねブルーハートさん」
屋根から飛び降りて現れた【シャドーフェイス】のギルドマスターであるブルーハートは地面に着地すると、自身の手に纏わせていた青い炎を消して臨戦態勢を解除していた。
そんな唐突な登場をするブルーハートに射場ザキは驚くことなく返事をする。
そんな射場ザキの様子に黒猫はよく驚かないなと素直に感心する。呑気なもんだ。
ブルーハートは射場ザキの言葉で軽い溜息を吐くと続けて口を開く。
「当たり前だ。棄世が殆ど喰っちまいやがったからな。お陰で俺は暇してんだ。もう人っ子一人逃げられねぇよ。という訳でお前らは邪魔だ。さっさと引け」
「了解しました」
射場ザキは動ける様になるとブルーハートに言われるがまま撤退を始める。
一方黒猫は、
ん?ハッ!失敗したのじゃ!……ぐぬぬ……よりにもよって良いところで来よって……仕方ないのじゃ……次の機会を狙うかの……
横槍を刺されて何とも言えない感情のまま、不満を胸に射場ザキへとついて行った。