その104 【招待キー】は使われてないのじゃが?
そのまま殴られ、髪を引っ張られ、無理矢理立ち上がらされて店の中へと尻を蹴られながら、黒猫は半ば無理矢理入店する形で店の中へと入る。
そしてリョウケンは店内を軽く見渡し、店の中央にあるテーブルに目をつけ黒猫の首筋を掴むと、そこへ黒猫を無理矢理座らせる。
その席は動線的に入店した誰もが通るであろう席。黒猫に盗みをやりやすくさせる為だ。
不機嫌な顔全開で座る黒猫は四角いテーブルを挟んで射場ザキとリョウケンに顔を合わせる。
「……敵対ギルドの管轄してる店の真ん中に良く堂々と座れるの。お主らは鋼のメンタルじゃな」
嫌味っぽく皮肉を言ってさっき殴られた憂さ晴らしをしようとする黒猫。
どこからともなく、また殴られるぞ、と聞こえてきそうな態度に2人は相手すらしないような態度で返す。
「お前バカか?設定でギルド名は伏せられんの忘れてんのか」
そういえば、182界を攻略してた時ギルド名を隠しておる奴等がチラホラいたの。そういう事かの。わたしゃメニュー開けぬから考えもしなかったのじゃ。
思い出しながら納得する黒猫。黒猫の馬鹿さ加減が露呈しただけだった。
「そう言えば、わたしゃは隠しておらぬのじゃ」
「今すぐ隠せカス。殺すぞ」
もう店に入ってるのに巫山戯た事を抜かす黒猫に、射場ザキはキレ気味に返す。
「わたしゃ設定を開けぬのじゃ」
「ちちち、まぁいい。そもそもコイツは名前とギルド名が表示されてねぇんだからな。気にする事はねぇ」
「訳分かんねぇ奴っすね。こんな得体の知れねぇ奴がギルメンになるなんて、推薦した奴は何考えてんだ?」
推薦?何の話じゃ?
分からない話に心の中で首を傾げる黒猫。同時に【シャドーフェイス】に入団した覚えもない事を思い出す。
「うむ?そうじゃ。わたしゃまだお主らのギルドに入っておらぬのじゃ」
「ギルドルームに入ってるだろうが」
「???」
「んだその顔は?殴られたりねぇのか?」
「わ、分かったのじゃ。直ぐに手を上げるななのじゃ。まったく……ヤレヤレなのじゃ」
実はこの時、黒猫の指摘は的を得ていた。
このゲームの世界では1人につき1つのギルドにしか所属出来ない。他のギルドに行きたいなら今入っているギルドを1度抜けなければならないが、実は黒猫はまだ【夢完進】を抜けていなかった。故に【シャドーフェイス】のメンバーではない。
ギルドルームはそのギルドのメンバーか、メンバーでない者は【招待キー】というギルドマスターかサブマスターしか使えないアイテムを使ってギルドに招待して入るしか出来ない。
なら何故黒猫はそんな【招待キー】を使ってもらってないのにギルドルームに入れたのか。その理由はNNが裏で【シャドーフェイス】のギルドルームに入れるように手を回していたからだ。
そうとは知らない黒猫は呑気に運ばれてきたコーヒーに手を伸ばす。
「何やってんだ?てめぇのはねぇよ。早く仕事しろ」
黒猫の手を掴み取りコーヒーから引き剥がす射場ザキ。
「……ぬぐぐ。それはいいのじゃが、ギルド名は隠せてもお主らの黒表示は隠せておらぬのじゃ。警戒されたらどうするのじゃ。早く店から出ていくのじゃ!」
コーヒーを飲みたいが為だけに黒猫は2人を追い出す文句を並べる。
「本当にポンコツだなてめぇはよぉ?ブラックギルドの管轄の店に赤表示黒表示のプレイヤーは珍しくねぇに決まってんだろバカか。ここじゃ一般プレイヤーの方が珍しいんだ、何に目を向けてここまで来たんだカスが。これ以上無駄口を叩くなら、先にてめぇを地面に叩きつけるぞ」
「……のじゃ」
しかし辛辣な言葉の数々を浴びせられるだけで、黒猫の企みは失敗に終わる。今の所何も成功していない。