その103 見ていますよ
ぐぬっ……また乱暴しおって……何が上手くやれじゃ!何すればいいのか全く分からぬのじゃ。
黒猫は憤慨しながら自分を店の中へと押したリョウケンを睨む。
「……何をすればいいのじゃ?」
とは言えまた反抗して突っかかれば痛い目に合ってしまう。癪だが従うしかないので、黒猫はリョウケンの目論見を聞く。
目的が分からなければ何も出来んのじゃ。それにお腹も空いたのじゃ。ハッ!もしやご飯かの!……いやまさかこの2人に限って有り得んのじゃ……じゃが……もしかしたら……ご飯かもなのじゃ。
淡い期待を抱きながら店に掛けられている看板を見つめて尋ねる黒猫。するとリョウケンが口を開く。
「ちちち、説明してやれ射場ザキ」
しかし説明ではなく射場ザキへの命令だった。
命令された射場ザキは嫌な顔をせず、わざわざ看板を眺めて涎を垂らしている黒猫の前に立つ。
「いいかポンコツよく聞け?この店はウチと対立してるギルドが管轄してる店だ。あとは分かるな?」
あまりに話を端折り過ぎて黒猫は涎を拭いて呆れた顔を向ける。
「分からんのじゃが?ちゃんと教えるのじゃ。ご飯ならご飯とそう言うのじゃ」
「チッ、なわけねぇだろうが。ここで店の奴等をPKして置いてあるアイテムを全て盗むんだよ」
予想はしていたが予想通り碌でもない内容だ。しかもPKするなら自分はいらないのでは?と黒猫はそこに疑問を抱く。
どう考えても戦闘になるのなら足手纏になるのは明白だ。なのに自分より戦闘力が高い2人が自分に期待してる意味が分からない。
「わたしゃ必要なのかの?」
黒猫はその疑問をぶつける。
「決行は夜だ。今は下見だが、下見してる内にお前の力でここの客のアイテムを盗みまくるんだよ。まさか俺達がお前の戦闘力に期待してると思ってたのか?本当にポンコツだなてめぇはよ」
「そう言う事だマヌケ。ちちち、俺達はアイテムを手に入れられる上に、ここを使ったバカな客に思い知らせられるって訳だ。お前に期待してんのはそこだけだ」
2人の辛辣な言葉を浴びせられるが微塵も気にせず黒猫はこう思っていた。
……やろうとしとる事が完全に小物なのじゃ。
呆れるばかり。こう、もっと何か、悪党らしい矜持はないのかと黒猫ですら思ってしまう。
こんな事こんな奴等に期待しても無駄だろうが。
「わたしゃがやると思ってるのかの?」
取り敢えず断ってみる。
「あ゛?」
すると、まぁ案の定といいますか。黒猫はまたもや射場ザキに腹を殴られる。
「てめぇは黙って言う事聞いてりゃいいんだよ。次意見したら殺すぞマジで」
「ぐぬ……この!」
度重なる暴力に黒猫はとうとう我慢の限界を向かえ射場ザキに反撃しようと拳を上げる。
その時、後ろから、えも言われぬ悪寒を感じ黒猫は振り上げた手を止める。
///コノルの生活は保証しません///
そして次の瞬間、NNの言葉が頭に過り、黒猫はその悪寒が誰のものかを理解する。
ギルマスめ……監視しておるのか……
周りをキョロキョロと見回すが、それらしい人物は見当たらない。勘違いにしてはあまりにハッキリした悪寒なので、恐らく近くにいる事は確かだが、探し出した所で何かが変わる訳でもなく、素直に探すのを諦めたその時、
「何だこの手は?よぉ!」ゴッ
今度は黒猫の上げた拳が気に入らない射場ザキの鉄拳が黒猫の鳩尾に決まった。