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第48話 第七章・7 鑑定士、魔人を罠に嵌める

オルタを人質に取ったエルマン。

だがそんな卑劣な悪党に、リュークの仕掛けた罠が容赦なく炸裂する――!


次回の更新は7月18日の18:00を予定しています。

 オルタを人質に取ったエルマンは、その右腕で彼女の首を挟み込み、後ろから締め上げた。

「クッ、は、離しなさい――!」

「そうは行かん。貴様は罪人だ。この私を侮辱した罪は償ってもらわねばな」

 エルマンが嘲笑い、腕に力を込める。ギリギリと狭まる気道にオルタが咳き込み、ついに賢者の鍵を取り落とす。

 彼女が丸腰になったのを確かめ、エルマンは改めて、その姿勢のままで俺を睨んだ。

「さあ、貴様も武器を捨ててもらおうか。鑑定士」

「……はいはい、分かったよ」

 俺は軽く苦笑し、聖剣を投げ捨てた。

 同時にロミィが動こうとする。だが俺はすぐに彼女を手で制し、首を横に振った。

「よせ、ロミィ。ここはおとなしくしといた方がよさそうだ」

「う、うーん。仕方ないか……」

 ロミィが渋々頷く。……いや、頷く素振りを見せる。少し芝居がかっている気もするが――まあ、エルマンが気づかなければ問題ない。

 俺はロミィと視線だけで意図を伝え合い、それから二人して両手を上げ、エルマンに無抵抗の意を示した。

 やつの表情が残忍に歪む。笑ってやがる。

「そうだ。それでいい。では――鑑定士、まずは貴様からあの世に送ってやろう」

 そしてエルマンは、俺をまっすぐに見据え、さっそく攻撃呪文の詠唱に入った。

 ……やれやれ、この俺があっさり負けを認めたことを、少しは不自然に思うべきだな。それほど自分の勝利に自信があるのか、それとも学習能力がないだけか――。どっちにしろ、エルマンに俺の「罠」を見破るほどの技量はない。

 そう確信し、俺はさっそく()()を実行に移した。

「ちょ、ちょっと待った!」

 唐突に叫び、慌てた(ふう)を装って、その場から大きく動く。

 エルマンから距離を保ったまま、弧を描くように――。そして「ある一点」で足を止める。傍目には、やつの攻撃を恐れて逃げたように見えただろう。

「どうした、死ぬのが恐くなったか」

 エルマンが呪文を中断し、せせら笑う。その言葉に、俺は素直に頷いてみせた。

「ああ、恐い。怖気づいて当然だろ? 何しろ俺は、ただのFランクだからな」

「ふん、ほざけ。これまで散々私をコケにした分際で――。だが、まあいい。存分に恐怖を味わいながら死んでもらおう」

 そして呪文が再開される。しかし俺は、ここで一転して余裕の笑みを浮かべ、エルマンに言った。

「――なあ、()()()()しないか?」

「……何?」

 エルマンが小馬鹿にした目で俺を睨んだ。その目を真っ向から見返し、俺は手袋パンドラから、「あるもの」を取り出す。

 ごくありふれた宝箱。しかし肝心なのは、その中身だ。

 俺は蓋を開け、そいつをつかみ出してみせた。

「俺の命を助けてくれたら、これをやろう」

「そ、それは――!」

 エルマンの目が見開かれた。なぜなら俺の手にあるのは、黄金色に輝く五つのレリック――。そう、回収済みの《邪神》のアクセサリーだったからだ。

「どうだ? こいつがあれば、あんたはさらに強くなれる。興味があるだろ?」

「……確かに興味はある。だが、貴様を殺して奪い取るのは簡単だ」

「そいつはどうかな。あんたが容赦なく攻撃魔法を放つって言うなら、俺はこのアクセサリーを素早くパンドラにしまう。そうなれば、俺もろとも魔法に焼かれて灰になるだけだ」

「……ふん、アクセサリーを道連れにしようというわけか。姑息な真似を」

 エルマンが忌々しげに俺を睨んだ。

 そう、交渉に乗ってアクセサリーを手に入れるか。それとも俺を殺して、アクセサリーを失うか。答えは二つに一つ。

 だが――すでに俺の目は、やつが選ぼうとしている選択肢を見抜いている。

 やつはこのアクセサリーに惹かれている。あと一押しで、俺の交渉に頷くつもりだ。

 まあ、最終的に行き着くのは、「アクセサリーを手に入れた後で俺を殺す」という結論だろうが――。もちろん、その前に決着はつけさせてもらう。しかし今は、交渉を成立させるのが先だ。

「なあエルマン、そう難しい取り引きじゃないと思うぞ?」

 そう言って、俺はニヤリと笑ってみせた。なるべく、あくどい顔に見えるように。

 ――この手の交渉は、こちらが善人ぶっても成立しない。悪党相手には悪党として挑む。これが鉄則だ。

 だから俺は、エルマンを頷かせるため、さらにこう続けた。

「助けるのは()()()()()()。オルタの命はくれてやる」

「……ほお?」

 エルマンがほくそ笑んだ。同時にオルタが俺を睨み――。


(――何か策があるのですね?)


 ――ああ、そのとおりだ。

 言葉には出さず、心に描いた感情だけでメッセージを送ってきたオルタに、俺は無言で小さく頷いた。

 互いに信用しているからこそ――そして、彼女に俺の能力をすべて打ち明けていたからこそ成り立った、心同士の会話だ。

 だが当然、エルマンにそいつは見抜けない。やつは俺が寝返ったと誤解し、ようやく交渉を受け入れる気になったようだ。

「いいだろう。さあ、アクセサリーを渡してもらおうか」

 オルタを捕らえた右腕はそのままに、左手をこちらに差し出してくる。……とは言え、やつも分かっているはずだ。俺が素直にアクセサリーを持って近づくことはない、と。

 悪党同士の取り引きってのは、常に腹の探り合いだ。

「アクセサリーはここに置く」

 そう言って、俺は手にしたアクセサリーを、自分の足元に落とした。

 黄金に輝く《邪神》が、軽やかに音を立てて石の床を刻む。指輪。ブレスレット。ブローチ。ティアラ。そして、イヤリングの片割れ――。

 すべてのアクセサリーが足元に散らばったのを確かめ、俺はゆっくりと後ろに下がった。

 アクセサリーから充分に距離を取る。そして両手を上げ、もう一度抵抗の意志がないことを示す。

「リューク、あなたという人は!」

 オルタが叫んだ。もちろん演技だ。なかなかやるようになったな、姫騎士様。

 俺はにんまりと笑い、エルマンに言った。

「さあ、このとおりだ。持っていけばいいさ」

「……ふん、そうさせてもらおう」

 エルマンが頷き、慎重に足を踏み出した。

 アクセサリーに向かって、一歩ずつ。ただし拘束したオルタを、後ろから押すようにして、先に歩かせ――。

 そう、用心のために人質を盾にするのは、悪党ならやって当然の行為だ。もちろん俺は、エルマンがそうするだろうことを読んでいた。

 そして――だからこそ、()()()()()()()()

 俺とロミィが遠目に見守る中、オルタがアクセサリーに辿り着く。彼女の足が、つい今まで俺が立っていた位置を踏もうとする。

 その瞬間――。


 不意にオルタの体が、床から()()()()()()


 今まさに床を踏もうとしていた足が、体が、全身が。まるで反発する磁石のように、エルマンの腕からすっぽ抜けて、宙へと舞い上がる。

 いったい何が起きたのか――。それは、当のオルタ自身がすぐに気づいたようだ。

「これは――()()()!」

 オルタがハッとして叫んだ。

 そう、こいつは罠回避のスキル。つまりオルタはトラップを踏みかけ、それを自動的に回避したってわけだ。

 ――もちろん偶然じゃない。すべて俺の作戦どおりだ。

 オルタをトラップに誘導し、スキルを発動させる。そしてエルマンの腕から脱出させると同時に、そのエルマンを――。

「ぬおぉっ?」

 エルマンが声を上げた。跳び上がったオルタに腕を引っ張られ、やつが大きくバランスを崩した瞬間だった。

 エルマンの体が前にのめる。転ぶまいと翼を動かす。だが、飛ぶことはできない。なぜなら、すでに()()()()()()()()()だからだ。

 すべては俺の計算どおり。そしてエルマンは為す術なく、たった今オルタが踏もうとしていたトラップの上へ――。


 ――かかった。

 この瞬間、()()()()()()()


 俺は、エルマンがトラップの上に倒れたのを視界の端で確かめつつ、宙にいるオルタに向かって手を伸ばした。

「オルタ、こっちだ!」

「リューク!」

 オルタが頷き、足を(かじ)のようにして、俺のもとへ飛んでくる。俺は両腕を広げ、一歩前へ踏み出した。

 直後、宙で弧を描きながら、オルタが俺の胸にストッと飛び込んできた。

 その衝撃によろめくことなく、俺はしっかりと彼女を抱き止める。オルタは俺の胸に顔をうずめ、無事敵の手から解放されたことに、ようやく安堵の息を漏らした。

 ……が、どうやらそこで、俺の腕の中にいることを意識してしまったらしい。不意に顔を赤らめ、彼女は叫んだ。

「ひゃっ、ご、ごめんなさい! 思いっ切り飛び込んでしまいました! 大丈夫ですか?」

「ああ、軽くて助かったさ」

 俺は笑って、オルタをそっと胸から離す。ロミィが何か言いたげにこちらを見ているが、まあ、それは後でいい。

 俺は――改めて、エルマンに向き直った。

 やつが立ち上がろうとしている。その目に怒りを(たた)えて。

「貴様……どこまで私をコケにするつもりだ!」

 叫び、身を起こす。だがその瞬間――俺は自ら仕掛けた。

 タッと床を蹴り、一気にやつの前へ。そして右手の拳を固める。

 ああ、右手だ。タイラントを装着した左手じゃない。

 やつを――今のエルマンを打ちのめすには、()()()()()だ。

 眼前に立った俺に、エルマンが何か叫びかけた。何を言おうとしたかは、感情を読めば分かる。「待て!」という制止。そして、「素手で私を倒せると思っているのか!」という、陳腐な脅し。

 もちろん、そいつをいちいち聞く理由はない。俺は無言で真っ向から、やつの顔面に拳を叩きつけた。

 バキィッ! と甲殻の砕ける音とともに、()()()()()()()()()()()()

 顔をヒビ割らせながら、やつは俺の拳一発で吹っ飛び、無様に床に転がった。

「ば、馬鹿な!」

 床に這いつくばって、エルマンが呻く。心に戸惑いの色が浮かんでいるのが、ありありと分かる。

 ああ、戸惑いもするだろうさ。何せやつは、自分の力に絶対的な自信を持っていた。やつを攻撃して傷つけられるのは、ごく一部の武器だけ――。そう信じていたはずだ。

 なのに今、俺の拳は、エルマンの装甲を容易く突破した。こいつは恐ろしく想定外だったに違いない。

「なぜだ! なぜレベル5600越えの私が、貴様の素手の一撃に――!」

 エルマンが顔を押さえながら、俺を睨む。

 ……やれやれ、まだ気づいてないようだな。自分の身に何が起きたのか。

 仕方ない。()()()()と行くか。

「そいつは違うな、エルマン」

 顔に苦笑を浮かべつつ、俺は言った。

「あんたは踏んじまったのさ。この宝物庫に眠る、()()()()()()()をな」

「……最悪のトラップ、だと?」

 エルマンが顔をしかめる。同時に「あっ!」とオルタが叫んだ。

「リューク、もしかしてそのトラップというのは……?」

「ああ、オルタが一度引っかかった、()()だ」

「なるほど、そういうことね」

 ロミィがにんまりと笑う。そしてオルタもまた、エルマンの身に起きたことを理解したようだ。

 彼女の視線がエルマンを見据える。これで脅威が消え去ったという安堵と、多少の同情を込めて。

「な、何だ! 私が何を踏んだというのだ!」

 ただ一人、状況を呑み込めないエルマンだけが騒ぐ。俺はやれやれと軽く溜め息をつくと、その答えを教えてやった。

 ……ああ、やつにとって、最も残酷な「答え」を。

()()()()()()()。踏んだやつのレベル、ランク、スキルを、すべてリセットしてしまう、最悪のトラップだ。つまりエルマン、今のあんたは、ただの――」


 ――()()()()だ。


 そんな、この上ない残忍な宣告とともに。

 俺は再度拳を固め、ニヤリと笑った。

リュークの巧妙な作戦が、ついにエルマンを無力化した。

もはや悪党に為す術なし。次回――決着!


お読みいただきありがとうございました。

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