表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/62

第44話 第七章・3 鑑定士、皆のピンチに颯爽と駆けつける

廃都の冒険者達を、怪物と化したエルマンが突如襲撃する!

キクノはビヨンドとレイラとともに、エルマンに立ち向かうが――。


次回の更新は7月10日の18:00を予定しています。

 オルタ達が廃都を発ってから、どれほど時間が経っただろうか。

 遺跡内に存在する疑似空間――ロストサークルは、時間の経過で景色を変えることがない。曇りとも夕闇ともつかない薄暗い空は、いつまでも陽が差さぬままだ。

 そんな、待てど暮らせど光の現われない空を、キクノは寝袋の中から、廃墟の崩れ消えた屋根越しに、じっと見上げていた。

「……眠れない?」

 ふと、隣の寝袋から声がした。レイラだ。

「さっきまで、嫌というほど眠っていたからな」

「うん、それ、私も」

 キクノの言葉に、レイラが微笑んだ。

 彼女はついさっき廃都ここを訪ねてきた。邪神の呪縛から逃れた、無事な姿で。

 キクノはビヨンドと二人でレイラを迎え、ひとまず安堵した。聞けば、オルタに助けられたのだという。自分達と同じだ。

 それから三人は、周りの冒険者達がそうしているように、交代で眠ることにした。

 いずれ救助が来る。それまで持ち堪えるために――。

 ……と言いつつも、こうして二人とも起きているわけだが。

「ビヨンドに眠ってもらった方が、よかったかもしれないな」

 キクノが呟く。レイラが苦笑した。

 ビヨンドは今、建て物の外で見張りに立っている。他にもそこかしこの建て物で、冒険者達が同じようにしているはずだ。

「まあ、いいんじゃない? さっきまで寝ていたのは、彼も同じなんだし」

「それもそうか――」

 頷き、キクノはふと、残るハルとグロウのことを思い出した。

 ……全員が同じ目に遭った。邪神に意識を奪われ、暴走し、人を襲った。

 今、三人が助かっている。あとの二人も助かるだろうか。

 ――否、助けてもらえるだろうか。

 正直、人任せにしなければならない今の状況が、キクノはもどかしい。

 本当ならばオルタに同行したかった。エルマンの邪眼を受け、死にかけさえしなければ――。

 もちろん、オルタの腕を信じていないわけではない。むしろ逆だ。オルタならばきっと事態を解決してくれると、そう信じている。

 ただ――それは本来、自分達の役目であり、責務のはずだ。キクノはそう思う。

 しかしオルタを追いかけていこうにも、体がまだ万全ではない。それに、ここに集った冒険者を守るという使命もある。

 ……そう、守る。これもまた、罪滅ぼしにはなるのかもしれない。

 やはり、オルタにすべてを委ねるしかない。キクノは軽く溜め息を漏らし――それからふと、レイラに訊ねた。

「レイラ殿」

「何?」

「オルタ姫をどう思う?」

「どうって? すごい人だなーって思うけど」

「……そうか」

「うん。キクノは思わないの?」

「私も思う。ただ――」

「……ただ?」

「……いや、何でもない」

 キクノは何となく、口を噤んだ。不意に想像した「真相」が、あまりに荒唐無稽だったからだ。

 ――もしかしたら、真にすごいのはオルタ姫ではなく、一緒にいるリューク殿の方なのではないか。

 ――あの鑑定士は、一見ただのオトモを装ってはいるが、その言動は、すべてにおいて隙がない。

 ――だとしたら、オルタ姫の活躍の陰には、常にリューク殿の働きがあるのでは……。

 しかし「鑑定士が最強」など、さすがに荒唐無稽にも程がある。だからキクノは、このことは口には出さず、心に留めておくことにした。

「大丈夫だよ。ハルもグロウも、きっとお姫様が助けてくれる。あたしらはここで、自分達の役目を果たそう。ね?」

「……ああ、そうだな」

 レイラの言葉に、キクノは空を見上げたまま、静かに頷いた。

 そんな時だ。建て物の外から、ビヨンドの声がしたのは。

「――二人とも、起きられよ。救助隊が見えた」

 その言葉に、キクノとレイラは、自然と微笑み合った。


 広場から遠目に見える救助隊は、マスターの要請で集められたと思しき、複数の冒険者から成っていた。

 盾役の聖騎士パラディン。回復薬の僧侶プリースト。戦闘回避役の狩人レンジャー――。これら生存重視の職業クラスが、各六名ずつ。

 遺跡攻略ではなく、あくまで救助を目的としたその一団は、しかしいずれもSランクのメンバーで構成された精鋭部隊のようだ。

 冒険者達が次々と建て物から出て、こちらを目指す救助隊に向かって手を振る。キクノも例に漏れずそうしようとしたが――。

 ふと、視界の中に「異様なもの」を見つけ、思わず目を丸くした。

 救助隊の中に一人、明らかにおかしな者が交じっている。頭から足まで、全身を厳つい甲冑で覆い尽くし、何本もの剣を背負った――しかし《英雄の紋章》を着けていない、()()()が。

「リュークさん、助けにきましたよ! リュークさんはどこですかっ!」

「……あれは、モーナ殿なのか?」

 声に聞き覚えがある。何度か任務で会ったことがある、マスターの局員だ。

「思いっきりモーナさんだね。何やってんだろ、あれ……」

 レイラが引いた様子で呟く。ビヨンドもツッコミに困ってか、黙って顔をしかめている。

 だがモーナは、こちらのそんな反応などお構いなしに、颯爽と向かってくる。

「どうです、驚いたでしょ! さっきの通信中は黙ってましたけど、実は私も救助隊に同行してたんです! 見て下さい、この完璧な武装を! たとえ冒険者にならずとも、戦闘職の同行があれば、私だってリュークさんのために、遺跡に入れるんです! ええ、今度から遺跡攻略には私も付いていきます! 私だってリュークさんとイチャイチャ……じゃなかった、仲よく冒険がしたいんです! リュークさん! どこですか、リュークさぁん!」

 何やら興奮して喚くモーナ。一緒にいる救助隊の視線も、心なしか泳いでいるように見える。

 そんな――束の間の()()を覚えた、直後だった。


 突如地表に、巨大な漆黒の渦が現れた。

 ちょうど救助隊の背後だ。

 その渦から、おぞましい量の瘴気が噴き上がるの見て、キクノは叫んだ。

「気をつけろ! 何かが後ろに――」

 だが、その言葉を言い終える暇はなかった。

 渦の中から、巨大な腕が現れた。漆黒の触手を絡みつかせた、怖気(おぞけ)立つような腕が。

 ハッと振り返った僧侶の一人が、その腕に捕らえられ、瞬く間に握り潰された。

 ()飛沫(しぶき)が散った。誰かが悲鳴を上げた。そして。

「――我ガ(ニエ)トナレ」

 不気味な声が響き、渦からヌッと、黒い巨人が姿を現した。

 ――邪神。

 その単語がすぐにキクノの脳裏をよぎったのは、自分が一度、「そのもの」を体験していたからかもしれない。

 だが、あれは誰なのか。ハルか。それともグロウか。しかし声を聞く限り、どちらでもないように思う。あれは……あの声は……。

「……もしや、エルマン?」

 キクノがその名を呟いた刹那、巨人が再び腕を振るった。

 盾になろうとした聖騎士が三人、瞬く間に自慢の盾を貫かれ、鎧ごと粉砕された。

「きゃぁっ!」

 モーナが悲鳴を上げる。巨人が彼女に目を向ける。だが特に興味を引かれなかったのか、すぐに救助隊の方に向き直り、殺戮を再開する。

「贄……。そうか。そういうことか!」

 キクノは気づいた。あの巨人は、力を取り込んでいるのだ。冒険者を殺して、その力を……。だから、何の力も持たないモーナは、とりあえずターゲットから外されたというわけだ。

「モーナ殿、早くこちらに避難を!」

「は、はいっ!」

 甲冑をガチャガチャ言わせながら、モーナが走ってくる。その間にも巨人は腕を振り回し、次々と救助隊のメンバーを血祭りに上げていく。

 その攻撃を掻い潜り、何人かがモーナに続いてこちらへ駆けてくる。巨人は追おうとする素振りを見せたが、すぐに這いつくばるようにバランスを崩した。

 右足が崩れている。歩けないのだ。

 だが……。

「――癒シヨ、我ガ肉体ニ、再生ヲ!」

 巨人が叫んだ。そして――禍々しい漆黒の体に、瘴気と相反する聖なる光が流れ出す。

 崩れていた右足が、再生を始めた。たった今殺した僧侶から取り込んだ、ヒーリングスキルを行使したのだ。

「見よ、《英雄の紋章》が、あそこに!」

 ビヨンドが険しい顔で巨人の胸を指した。確かにやつの触手の狭間に、紋章が埋まっているのが見て取れる。

 紋章は、その形状と色で、所有者のステータスを表す。例えば、あの紋章が示す職業クラスは――騎士。やはりハルでもグロウでもない。……エルマンだ。

 いったいどういう経緯で、エルマンがこのような変貌を遂げたのかは、分からない。ただ一つ確かなのは、やつの邪眼が働いていないということだ。

 もし働いているなら、やつに視線を向けられた時点で、モーナが命を落としていただろう。

 しかし、たとえ邪眼がなくとも、あの巨人が脅威であることには変わりない。

 やつの紋章の色が目まぐるしく変化している。レベルが上がっているのだ。救助隊のメンバーを殺すごとに、そのレベルを取り込んで――。

(カテ)トナレ!」

 巨人が叫び、立ち上がった。

 逃げ切ろうとしていた狩人達が、瞬く間に追いつかれ、八つ裂きにされた。

 すでに巨人の――いや、エルマンのレベルは、6000を超えている。しかしまだ喰らい足りないのか。救助隊を皆殺しにし終えたエルマンは、続いてここにいる冒険者達を根絶やしにすべく、進撃を開始した。

 もはや手をこまねいて眺めている場合ではない。

「モーナ殿、皆の避難を頼む!」

 キクノはモーナにそう言って離れさせると、迫るエルマンを見据え、腰の刀を抜いた。

 ――戦う。戦わねばならない。

「やるよ、ビヨンド!」

「承知!」

 レイラが弓を構え、ビヨンドがマントを翻す。すぐさま臨戦態勢に入った三人は、散開し、各々のポジションからエルマン目がけて攻撃を繰り出し始めた。

「五星転換――!」

 キクノが間近に駆け寄り、エルマンに隣接する建て物を斬りつけ、炎へと転換する。

「パワーショット!」

 幾人にも分身したレイラが、物陰から次々と矢を飛ばす。

「ボルテック・ミサイル!」

 不動の要塞と化したビヨンドが、雷魔法による一斉射撃を放つ。

 エルマンが咆えた。炎が体を焼き、矢が皮膚を貫き、電撃が触手を弾き飛ばす。

 これが並みの敵であれば、三人の猛攻を前に、為す術なく沈んでいただろう。だが――。

「効カヌ!」

 叫びとともに、光のシールドがエルマンを覆った。

 あらゆるダメージを軽減する聖騎士の力だ。次いで僧侶のヒーリングスキルが、今受けた傷をたちどころに回復させていく。

 さらに――今のエルマンの能力は、防御だけではない。

「ゴバァァァッ!」

 異様な叫びとともに、やつの腕から触手の一部が撃ち出され、次々と地面に着弾する。それは地表で黒い球体と化し、三人の周囲を瞬く間に覆い尽くす。

「これは……罠設置スキル!」

 レイラがハッとして叫ぶのと、エルマンが次の一手を繰り出すのと、同時だった。

「マジックボルト!」

 魔法の矢が、エルマンの眼前から放たれる。その攻撃が球体の一つを貫くや、それがトリガーとなって、たちまち球体が爆発を起こした。

 罠設置――。狩人の固有スキルだ。エルマンはそれを、撃ち出した触手を地雷に変えるという形で再現した。

 一つ目の爆発が周囲の地雷に及び、新たな爆発を引き起こす。膨大な量の連鎖爆発が、キクノを、レイラを、ビヨンドを、四方から一気に襲う。

 もはや、逃げ場はない。

 ――これに耐えられるのは、要塞となったビヨンド殿だけだろう。

 轟音と炎に包まれながら、キクノは冷静に、そう思った。

 ――だから、後を頼む。

 ――ハル殿とグロウ殿を迎えてくれ。そして、生きて帰れ。

 ――私の代わりに。

 そしてキクノは、その目をゆっくりと、閉ざした。


「――って、そう簡単にくたばらせないっての!」

 どこかで聞いたことのある、幼い少女の声が響いた。

 キクノが目を開ける。……体は無傷だ。

 振り返ると、ビヨンドはもちろんのこと、レイラも無事な姿で「一人」に戻って佇んでいる。

 そして――ああ、それからあと三人。

「皆さん、ご無事でしたか!」

 白いローブをまとった白魔術師の少女、ハル。

「おいおい、だらしねぇぞ? 俺が帰ってくる前にくたばるなってんだ!」

 巨大な斧を掲げたドワーフの狂戦士、グロウ。

 二人が笑顔でキクノ達を見ている。

 そう、二人とも無事だった。無事に帰ってきてくれた。

 しかし――今の爆発からみんなを守ったのは、この二人と一緒にいる「彼女」なのだろうか。

「……()()()殿?」

 キクノがその名を呼ぶと、ロミィはただ、ニィッと笑って応えた。

 あの爆発の中で聞こえた幼い声は、やはりロミィだったようだ。

「ロミィ殿、あなたはいったい――」

「説明はメンドいから省略。ここからは力を合わせて戦おう! ……なんて無茶を言うつもりはないよ。さあみんな、逃げた逃げた!」

「し、しかし、あの怪物を放っておくわけには――」

「心配ないってば。ちゃんと手はあるから」

 そしてロミィは、何やら自信満々の顔つきで、エルマンを見上げる。

 エルマンが睨み返す。その禍々しい視線を臆さず受け止めたロミィに、エルマンが叫んだ。

「小娘! 貴様ニ、何ガ出来ル!」

 そして嘲笑が轟く。

 すでにエルマンのレベルは6000を超えている。キクノ達の攻撃も通用しない化け物を、ロミィがどうにかできるとは思えない。

 だが――ロミィの答えは、実に簡単だった。

「あたしだけだと思った? 残念! ちゃんと()()()()だよ!」


 刹那、白く(まばゆ)い光が、廃都に差した。

 キクノが思わず振り返る。

 いや、キクノだけではない。レイラも、ビヨンドも、ハルも、グロウも。それにモーナや他の冒険者達も、誰もがいっせいに、光の源へと目を向ける。

 エルマンとて例外ではない。やつもまた嘲笑をやめ、巨体を静かに震わせ、そちらを睨んだ。


 ――彼らがそこに見たのは、白く輝く巨大な鍵。

 ――そして、それを携えた姫騎士の姿。


「――待たせたな、エルマン」

 しかし口上を述べたのは、その姫騎士の隣に佇む、一人の鑑定士だった。

「ちょっと目を離している隙に、ますます血生臭い体になっちまったか。あんたには、遺跡ここより地獄がお似合いだ。さっさと送らせてもらおう。もちろん、片道でな。――と、オルタ様が仰っている」

「はい、私が言っています!」

 リュークの言葉に、オルタが堂々と頷く。

 この一見チグハグな雰囲気に、しかしキクノは、もう違和感を覚えることはなかった。

 ――そうか。やはり、()()()だったのか。

 とてつもない眩さを覚え、思わず目を細める。

 そんなキクノの視線に気づいてか、ふとリュークが、こちらを見た。

 まるでキクノの心を読んだかのように、フッと、笑みを浮かべながら。

リュークとエルマンの戦いが再び始まった。

しかしレベル6000を超えたエルマンは、一筋縄では行かず――?


お読みいただきありがとうございました。

次回の更新は7月10日の18:00を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ