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第41話 第六章・9 鑑定士、《魔眼の騎士王》を完膚なきまでに打ちのめす

リューク達に向かって剣を抜いたエルマン。

力を失った騎士王の見苦しい足掻きに、リュークはついにとどめを刺す――。

第六章、クライマックス!


次回の更新は7月4日の18:00を予定しています。

「どういうつもりだ?」

 俺はエルマンを見やり、訊ねた。

 剣を抜いた《魔眼の騎士王》は、その切っ先を俺達三人に向け佇んでいる。「怯え」と、一方で「虚勢」という感情に塗り潰された心で。

「――その杖を私によこせ」

 擦れた声で、エルマンはそれでも居丈高(いたけだか)に答えた。なるほど、目的は「仮面の杖」か。

 俺は手元に目を落とした。ハルが持っていた杖は、気絶した彼女に代わって、俺が預かっている。

 こいつがあれば、力を封じられたレリックを元に戻すことができる。エルマンの狙いはそこだ。

 ――封じられた眼帯のアニムを復活させ、再び邪眼を取り戻す、か。

 確かに愛用のレリックを無力化されてしまったわけだから、直したいって気持ちも分からなくはない。……まあ、だからって頷くわけには行かないがな。

「やれやれ、あんたも大概だな。そういう時は剣なんか抜かずに、頭を下げてお願いするもんだ」

「黙れ! ……なぜ、なぜこの私が貴様らに! Sランクのこの私が、Fランクの貴様らなどに!」

「いや、俺はFランクでいいが、オルタはDだぞ?」

「よくないですよ、リューク。リュークだって本当はEランクなのですから」

 混ぜっ返した俺に、横からオルタが訂正を入れてきた。律儀な姫騎士様だ。

 そんなオルタは、苦笑している俺に溜め息をつくと、続いてエルマンの方に向き直り、一転して表情をキッと引き締めた。

「エルマン、眼帯を元に戻すのであれば、条件があります」

「条件……だと?」

 エルマンが低く呻く。普段のあいつなら、見下している相手から条件など突きつけられた日には、その邪眼を盾に、威圧的に脅し返していたところだろう。

 しかしあいにく、もうその手は通じない。オルタは真正面からエルマンを睨み、()(ぜん)と言った。

「あなたが今回の一連の事件でおこなったこと――。調査隊の全滅を目論み、そのために仲間達の命までも危険に晒した……。この事実を見過ごすわけには行きません。自ら遺跡管理局マスターにすべてを打ち明け、相応の処分を受けてください。そして、二度と邪眼を悪用しないと誓ってください。それが、眼帯を元に戻す条件です」

「……ふん、何を言い出すかと思えば、そんなことか」

 エルマンの形相が、怒りとともに嘲笑を帯びる。……俺はふと思い立ち、ロミィにそっと目配せした。

 一方エルマンは、そんな合図には気づこうともせず、ようやく尊大な態度を取り戻す。……どうやらオルタに対しては、強気でいいと思っているようだな。

「言ったはずだ。私はあくまで、邪神を退治しようとした――。それだけだ。調査隊の謀殺(ぼうさつ)などあり得ん」

「しかし、実際に彼らの命が危険に晒されました!」

「そんなものは不可抗力だ! それとも貴様、私が連中を謀殺しようとしたという証拠でも持っているのか?」

「う、証拠は……ありません」

「ふん、当然だな」

 エルマンが吐き捨てるように言った。オルタが悔しそうに唇を噛む。まあ、仕方ない。証拠がないのは確かだからな。

 しかし――だったら、こんな手はどうだ?

「なあエルマン、あんたも、もう分かっていると思うが――」

 俺が横から口を挟む。エルマンがこちらを睨む。……その睨み癖は治した方がいいだろう。

「な、何だ、鑑定士」

「いや、俺はただの鑑定士じゃない。分かってるよな? ちょっとばかり、人とは違う特別な力がある。例えば――あんたの心を読むこともできる」

「私の心……だと?」

「ああ。だから、あんたの企みは最初から全部分かっていた。しかも――俺の能力はマスター公認だ。あいにく俺は、あの組織の中じゃ結構有名人でな。俺があんたの悪行を証言すれば、そいつはかなりの信憑性をもって受け入れられるってわけだ」

「……う、嘘だ! そんなものはハッタリだ!」

「嘘じゃない。例えば、今あんたの心にあるのは――」

 そう言って俺はエルマンを見据える。

「――そう、『怯え』だ。自分の企みが表に出るかもしれないという恐怖。いや、それだけじゃない。この俺と敵対することへの恐怖もあるな」

「……だ、黙れ!」

「さっきの戦いを見て、俺を敵に回すことに恐れを感じた――ってところか。いや、ついでにロミィへの怯えも抱いているみたいだな」

 ついでってどういうことよ、とロミィが後ろで呟いた。そこはまあ、スルーさせてもらおう。

「とにかく――あんたは今、恐怖でいっぱいになっている。ただし、自分より格下だと見なしているオルタだけは例外だ。オルタの前でならば、あんたは虚勢を張れる。そしてオルタの前で虚勢を張る以上、一緒にいる俺達に対しても尊大に振る舞わないと、自分の行動に整合性が保てない。だから今、こうして三人に向かって剣を突きつけている――」

「ええい、それ以上喋るな!」

 エルマンが激昂する。図星だな。……まあ、ここでどんなに感情を読んでみせたところで、俺の証言がマスターに受け入れられるってのは、完全にハッタリなんだが。

 それでも、これだけ揺さぶれば充分だ。やつは大物ぶっているが、そいつは所詮見せかけに過ぎない。あとは、動揺に突き動かされてボロを出すのを待つのみ。

 そして――その機会は、面白いほど早く訪れた。

「おのれ、こうなったら……この場で貴様らを葬ってくれる!」

 剣を両手でしっかりと持ち直し、エルマンは身構えた。

「あーあ、これ悪党が一番やっちゃいけないパターンだ」

 ロミィが呆れた声を出す。俺も同感だ。

 ただ、こういう展開になった以上、きちんと相手はしてやらないとな。もっとも俺が引き受けたんじゃ、勝負にすらならないだろうが――。

「……そうだな、オルタ」

「何ですか、リューク?」

「エルマンの相手をしてやれ」

 そう告げた俺に、オルタが途端に目を丸くした。

「わ、私がですかっ?」

「ああそうだ。やつはもう邪眼は使えない。あんたの力を見せつけてやれ」

「いえ、力と言われましても――私まだレベル10にもなってないですよ?」

「知っているさ」

「エルマンはレベル400越えで……」

「それも知っている。心配するな。ちゃんとハンデは用意する」

 そう言って俺は、オルタのペンダントを視界に収め、いつもの鑑定魔術を行使した。

オープン!」

 途端に、ペンダントが光を放ち、白く輝く巨大な鍵へと変形する。「賢者の鍵」――。邪神に対抗する聖なる力を帯びたこいつは、しかし普通の悪党相手にも、武器としての役割を充分に果たせるはずだ。

「さあオルタ、やってみろ」

「――分かりました」

 手にした鍵の重さを受け、オルタがようやく決意を固める。そして彼女は、鍵を剣のように構え、改めてエルマンと対峙した。

「……美しい鍵だ。私が勝ったら、そいつをいただこう」

「この期に及んでそのようなことを言うのは、どうかと思います」

 いきなり世迷言を吐いたエルマンに、オルタがド直球な正論で言い返す。両者は睨み、そして一呼吸の後、動いた。


 二人が互いに切り結んだのは、一瞬のことだった。

 己のレベルにものを言わせて、力任せに踏み込んできたエルマン。一方オルタは俺の教えを守り、相手の攻撃を鍵で受け流しつつ、柔軟な足取りで優位な立ち位置を狙う。

 だいぶ動きが様になっている。特訓の成果が出た証拠だ。

「ええい、こざかしい!」

 エルマンが叫び、素早く剣を振り回した。しかしオルタは冷静に、斬撃を次々と鍵で受け止め、防ぎ切る。

 本来なら膨大なレベル差のせいで、オルタの方が押され負けしていただろう。しかし今、彼女が手にしているのは賢者の鍵。だから、このレベル差は帳消しと言っていい。

 つまり――今二人は、純粋な剣の技量だけでぶつかり合っている。

「エルマン、無闇に剣を振り回せば、限界が早まるだけですよ」

「何を偉そうに! この新米剣士が!」

 ガキンッ! と鍵を剣で打ち、エルマンが叫ぶ。オルタはそんな騎士王を、冷静に――いや、冷ややかに見つめ、攻撃を難なく受け止める。

 どうやら思い出しているようだな。さっきゾンビと戦った時の、自分の立ち回りを。

 ……あの時オルタは、無闇にゾンビを攻撃し、自ら隙を晒すことになった。だがその失態を、今はエルマンの方が演じている。

 徐々にエルマンの息が上がってくるのが、こちらからも分かる。やがてその手が止まり、やつが荒い息をついた瞬間だった。

「でぇぇぇいっ!」

 オルタが勢いよく鍵を振るった。

 ガッ! と金属の爆ぜる音が響いた。

 何が起きたかは、確かめるまでもなかった。賢者の鍵が一閃した刹那、エルマンの剣は中ほどからきれいに折れ、クルクルと宙を舞っていた。

「ば、馬鹿な……っ!」

 エルマンが呻く。地に落ちた剣の切っ先を唖然と眺め、それから怯えた目でオルタを見る。

 オルタはそんなエルマンに向かって、鍵の先端をまっすぐに突きつけ――。

「もう結構です。勝負はつきました」

 そう言って、そっと鍵を下ろし、軽く息をついた。

 凛とした――まさに姫騎士然とした姿で。


 俺がオルタの鍵をペンダントに戻した後も、エルマンはひとり戦慄(わなな)いていた。

「なぜ……なぜだ。私は騎士だ。レベル400を超えた騎士だ。Sランクだ。なのに――なぜ、こんな低レベルの、低ランクの剣士などにっ!」

 恐怖と怒りに揉まれ、土気色になった顔で喚く。実に見苦しいやつだ。

 しかし「なぜだ」と言うなら、ここは説明しといてやるか。

「エルマン、あんたの敗因は簡単だ」

「……何?」

 口を開いた俺を、エルマンが睨み返す。俺は苦笑し、事も無げに言った。

「――()()なんだよ。剣が」

「なっ……!」

 エルマンが絶句する。だが事実、すべてこれに尽きる。

 今のオルタとエルマンの戦いは、二人のレベル差が武器の質で帳消しになっていた以上、純粋な技量だけの勝負に等しかった。だが、そこでエルマンが見せた剣技は、ただただつたないの一言しかない。

 だから、結論は明白だ。――エルマンは、剣をまともに扱えない。以上。

「実はな、城であんたと会った後、遺跡ここへ来る前に、少しだけあんたのことを調べてきたんだ」

「……私のことを?」

「ああ。――冒険者になってすぐに、宝箱からその眼帯を引き当てたんだってな。一睨みしただけで相手を絶命させる力を手に入れたあんたは、それから次々と強力なワンダーを倒し、一気にランクアップ。そして剣士から上級職の騎士へと駆け上がり、《魔眼の騎士王》として、名声を欲しいままにした」

「……そうだ。確かにそのとおりだ」

 エルマンが顔をしかめ俯く。……どうやら気づいたようだな。俺が何を言いたいか。

 ――レリックは冒険者の運命を左右する。デビューしてすぐに強大なレリックを手に入れた冒険者は、往々にしてその力に頼りきりになり、自分の職業クラスが持つ本来の能力を蔑ろにしてしまう。

 そう、つまり――。

「エルマン、あんたは眼帯の力だけで、ここまで伸し上がった。だから、剣なんかろくに振るったことがない。今のあんたは、単に基礎ステータスが高いだけで、剣技自体は()()()()()()()()()()()()()ってわけだ」

「ぐっ……」

「そしてもう一つ言っておこう。――オルタは、すでに新米剣士なんかじゃない。毎日欠かさず、あんたよりも真剣に剣を振るってきた。……これが、今の勝敗のすべてだ」

 そう言って、俺は軽くオルタを見やった。

 オルタの目が潤んでいる。やれやれ、せっかくの凛とした姿が台無しだぞ?

 俺は笑い、軽く後ろに下がる。入れ替わって前に出たのは、ロミィだ。

「あ、もう喋っていい? えっとね、邪眼のおじさん。今の戦いと、その前後のやり取り――。全部()()()()()()()してたから」

「な、何っ?」

 エルマンがギョッと目を剥いた。

 そう、さっきの俺の合図は、これをやってもらうためだった。今ロミィの手の上では、通信用のリンクジュエルが起動している。ってことは、当然――。

『はい、バッチリ中継されてました!』

 そう、()()()()()()()()()()ってわけだ。

 見慣れた女エルフのドヤ顔が、ジュエルの中から浮かび上がっている。エルマンが呻く。

「き、貴様はマスターの……!」

『はい、本部の局員のモーナです! エルマン様、今のはいったい何ですか? リュークさんに剣を向けるとか、リュークさんを葬ろうとするとか、あとええと……オルタ様にも無礼を働きましたねっ!』

 いや、俺より一国の姫君に剣を向けた方が大事おおごとだと思うんだが――。どうやらモーナの中では、優先順位が違うらしい。まあそれはともかく。

『それに調査隊の皆さんをボーサツって、どういうことですかっ! この件はしっかり上に報告させていただきます! あと、オルタ様って一応権力者だと思うんで、エルマン様はもう逃げられないですよ? この国の法律でバッチリ裁かれちゃいますよ? でも、それもこれも全部リュークさんを馬鹿にした報いです! ザマァ見やがれです!』

「はーい、うるさいからそろそろ切るね?」

 ロミィがそう言って、サクッと通信を切った。

 後には束の間の静けさだけが残った。そいつを打ち破ったのは、エルマンだ。

「馬鹿な……。馬鹿な……。わぁぁぁぁっ!」

 苦悶の声を迸らせ、エルマンが走り出す。俺達に背を向け、墓地の外へ。

「逃げますよ、リューク!」

 オルタが慌てて叫んだ。だが俺は、ゆっくりと首を横に振った。

「やつに逃げ場なんてないさ。遺跡から出れば捕まる。かと言って、ここに立て籠もっていたところで、野垂れ死にするだけだしな」

 理性をもって裁きを受けるか、それともプライドに(すが)って身を亡ぼすか――。どのみち、エルマンはこれで終わりだ。

 ……やつの姿は、すぐに見えなくなった。俺は軽く息をつき、改めてモーナに連絡を入れることにした。

 とりあえずは現状報告。それからハルとグロウの介抱。あとは、廃都に残してきた冒険者達の救助も必要だろう。まあその辺は、モーナが手配してくれた救助部隊に任せるにしても――。

 もう一つ、大事な仕事が残っている。そろそろ片づけなければならない、最後の仕事が。

「……そういえば、リューク」

 ふとオルタが、怪訝な表情を浮かべた。

 どうやら気づいたようだな。オルタも、()()()()に。

「さっきグロウから回収したイヤリング。あれはなぜ――」

 彼女がその疑問を口にしようとする。だが、そいつは俺の方で引き継がせてもらった。


「なぜ()()()()()()()()()()のか、だろ?」

 ……そう、まだ事件は終わっていない。

 《邪神》のアクセサリーは、あと一つ残っている。イヤリングの右側が――。

事件はまだ終わっていなかった!

残るイヤリングの行方とは? どうやらリュークは知っていたようだが――。

そして次回、ついにラスボス出現!


お読みいただきありがとうございました。

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