表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
40/62

第40話 第六章・8 鑑定士、レベルなど必要ないと知らしめる

リュークとグロウの一騎打ちが始まった。

一見互角に見える両者だが、実は――?


次回の更新は7月2日の18:00を予定しています。



※戦闘終了後の、ロミィに対するオルタの反応を追加しました。(2019.8.20)

 俺とグロウの戦いは、互角だった。

 まずグロウが俊敏な動きで鉤爪を振るう。俺が紙一重で(かわ)しつつ、ボディに細かい打撃を与えていく――。この繰り返しだ。流れだけ見れば、俺は一切のダメージを受けていない。むしろ攻撃を貰っているのは向こうの方だ。

 しかし、俺は拳。グロウは鉤爪。互いに武器を手にしていないとはいえ、人間と人狼とでは、どうしても基本的なスペックに差が出る。俺の攻撃を受けてもグロウはビクともしないが、もし俺がやつの爪や牙を食らえば、それだけでひとたまりもないはずだ。

 ただし、押されているわけでもない。

 確かにグロウは強い。パワー、スピード、タフネスの三つを備え、戦士としては一見完璧に思える。だが――足りてないものが一つある。

 そう、テクニックだ。

 大振りの攻撃。大振りの跳躍。ただ力任せに暴れ、相手を捻じ伏せようとするその戦法を、決して評価しないわけじゃないが――。

 あいにくそれが通じるのは、まったく同じ力任せの戦法を取りつつ、やつよりも力が劣る相手だけだ。

「グオォッ!」

 グロウが吠え、何度目になるか分からない鉤爪を振るった。

 もちろん躱す。すぐ間近で空気が裂けるのを感じながら、やつの側面へと回り込む。

 さらにそこへ次の爪が迫る。俺はタイミングを読んでその手をつかみ、体を軽く捻る。

 俺の動きに合わせてグロウが腕を引っ張られ、バランスを大きく崩す。その隙に完全に背後に回り込み、俺はすかさずやつの左耳を狙った。

 《邪神》の本質アニムを持ったイヤリング――。こいつを外すことができれば、グロウは正気に戻るはずだ。だが。

「グワゥ!」

「おいおい、噛もうとするなっての」

 寸前で振り返ったグロウが、伸ばした俺の手に向かって牙を剥く。俺は仕方なく腕を引っ込め、軽く距離を取った。まったく、これじゃ(らち)が明かないな。

 となれば――やはり「あれ」を使うのがベストか。

 俺の脳裏に浮かんだのは、さっき周囲にばら撒いた宝箱だ。もちろんトラップはまだ生きている。グロウをそこに誘導するのは容易いだろう。それに、もう白魔術師の邪魔も入らない。

 まあ、せっかくの丸腰同士のフェアな対決に、自分から水を差すってのも悪い気はするが――仕方ない。これが現実的な戦いってやつだ。

 作戦は固まった。俺はさっそくそいつを実践に移すことにした。

「グオォッ!」

 咆哮とともにグロウが跳びかかってきた。荒々しくも単調な攻撃だ。まずはいつもどおり回避し、横に回り込むふりをする。もちろん狙いは、やつを目的の方向へ振り向かせるためだ。

 ただし、俺が一気に動いたのでは怪しまれる。少しずつ誘導を重ねて、最終的に宝箱を踏ませる――。やれやれ、自分で選んだ作戦とは言え、だいぶ面倒臭いな、これは。

「リューク、頑張ってください!」

 離れた場所からオルタが声援を送ってきた。本当なら加勢に入りたいものの、猛り狂うグロウにどこから立ち向かえばいいか分からず、手をこまねいている――ってところか。まあ、今はその声援だけで充分ありがたい。励みとさせてもらおう。

 一方ロミィは、ハルを片づけて満足したのか、楽しそうに俺の方を眺めている。そしてエルマンは――。

「……くくっ、所詮Fランクだな。さっきから、逃げ回ってばかりではないか」

 俺に毒づくことしか考えていない。自分は腰を抜かしてるってのに、いい気なものだ。

 しかし――そうか、「Fランク」か。

 ふと、脳裏に閃くものがあった。

 ……大事なことを思い出した。やれやれ、()()()を忘れていたとは、とんだ失態だ。

 すぐに実行しなければならない。しかし――どうやら宝箱を利用する必要は、なくなったようだ。


「すまないな、グロウ。俺としたことが、うっかりしていた」

 俺は素早くやつから距離を置き、そう言って軽く笑った。

「グルル……?」

 グロウが唸りつつ俺を睨む。獣の言葉は分からないが、その感情は読める。俺の声に、純粋に疑問を抱いているって顔だ。

 だから俺は、やつの疑問に、ストレートに答えてやった。

「装備を一つ外し忘れてたんだ。――()()()を、な」

 そして俺は、()()()()()()()()()()()それを、自分の体から毟り取った。

 そう――《英雄の紋章》を。

 俺に「冒険者」としての力を与えている、神の加護が籠ったアミュレットを。

 レベル1、最低ランクの、鑑定士――。そんな、()()()()()の塊を。

「そう言えば……今回は外していませんでしたね」

 オルタがハッとした顔で呟いた。

「リューク、うっかりしすぎだっての!」

 ロミィが呆れてツッコむ。まったく、俺もそう思う。エルマンが瞬殺されそうになっていたところへ割り込んだせいで、外す暇がなかったから――ってのは言い訳だしな。

 ちなみにそのエルマンは、唖然としている。まあ、無理もないか。普通の冒険者にとって、紋章を外すなんて行為は、命取りもいいところだからな。

 俺は苦笑を浮かべつつ――外した紋章を、例によってオルタの方に投げ渡した。

 ようやく身軽になれた。思えば今まで、いつもより動きが鈍っていたような気もするしな。

「さあ、今度こそ本気の丸腰だ。始めようか」

 そして――弾丸の如く、俺は動いた。


 一気に距離を詰め、俺は拳を振るった。

 これまでグロウからの攻撃を起点にしていたが、もうその必要はない。相手のカウンターが来るよりも早く、正面から拳を、やつの胴に勢いよく叩きつける。

「グォッ?」

 一撃でグロウが呻き、軽く身を折り曲げる。そこへすかさず足払いを駆ける。面白いほどあっさりと、グロウが前のめりになって、転倒した。

 だが、さすがにここで、向こうもまずいと分かったのだろう。グロウはすぐさま転がって、迫る俺の手から頭を退かせると、脚力にものを言わせて、その場で空高く跳躍した。

 狙いは、俺を怯ませつつ距離を取る――か。あいにく有効なのは後者だけだがな。

 俺はニヤリと笑い、近くの墓石に向かって駆けた。グロウはまだ宙からこちらを見下ろしている。ならば追いつくのみだ。

 地を蹴る。墓石の上に跳び、そいつを次のステップとして――。

 俺は全身の筋肉をバネに変え、大きく跳び上がった。

 宙を貫き、グロウに迫る。人狼の顔が一瞬、呆然とした色に包まれた。

 いや、同じく呆然としているやつがもう一人いた。エルマンだ。

「……な、何だあの鑑定士は。神の加護がなくなった途端に、人狼以上の動きを――」

 そして絶句。俺はそんなエルマンの声を聞き流しつつ、いよいよ空中でグロウを捕らえた。

 両腕を顔の前でクロスし、そのまま勢いよく体当たりを食らわせる。グロウも負けじと俺を受け止め、呻きながらも、俺を道連れに地面へと落ち始める。

 だが、こいつは墜落なんかじゃない。グロウは懸命に体勢を調節し、両足での着地を狙っている。

 直後、土煙を上げて、俺達は地に着いた。

 衝撃で互いの体が離れる。想定どおり着地に成功したグロウは、よろめきながらも踏み止まり、すぐに俺に向かって飛びかかってきた。

 ……いや、跳びかかってこようとした。

「――遅い」

 低く呟きつつ、俺の拳がグロウの胴を捉えた。

 何のことはない。俺もまた着地に成功し、素早く次の攻撃に転じていた。ただ、そいつを仕掛けたのがやつよりも速かった。それだけの話だ。

「グオッ!」

 完全に不意を突かれたグロウが、前のめりになる。それでも負けじと両腕を振り回し、あわよくば俺を切り刻もうとする。もちろん、そんな攻撃は躱させてもらう。

 そして俺は、隙を突いてグロウの両肩に手をかけると、再び跳躍した。

 グロウの体をステップにし、やつの頭上へ。そのまま宙返りし、やつの背面へ――いや、文字どおり背中へと降り立つ。

 グロウを攻略する上で、最低限拘束したい部分が三箇所ある。両腕と頭だ。爪と牙を封じてしまえば、やつはただ足が速くて硬いだけの獣に過ぎない。

 俺は、落下した自分の爪先がグロウに触れるや、大きく開脚し、その脚でグロウの上半身をガッチリとホールドした。もちろん、やつの両腕ごとだ。

「――グッ?」

 爪を封じられ、グロウが牙を剥こうと頭を動かす。だがそいつは想定済み。俺は空いている右手を伸ばし、やつの突き出た鼻っ面を、下顎ごとつかみ取った。

 さらにそのまま腕全体を使って、頭を丸ごと抱え、抑え込む。本来、ドワーフと人狼の剛力をもってすれば――そしてレベル1の補正しかない鑑定士相手ならば、こんな拘束は、余裕で振り解けただろう。

 しかし、今の俺は違う。《英雄の紋章》を外した結果、レベルも職業クラスも、俺に一切の影響を与えない。冒険者としての補正が消え去った俺の()()()()()()は、冒険者であり怪物でもあるグロウのそれを、ストレートに上回っていた。

 したがって――グロウが反撃する術は、もはやない。

「よかったよ。最後にきちんとフェアな戦いができてな。あんたもそう思うだろ?」

 俺はそう言って笑い、まだ使っていない左手を、動けないグロウの左耳に伸ばした。

 今度こそ、《邪神》のイヤリングを捉える。

 特にもったいぶることなく、俺はすぐさまそいつを、グロウの耳から外してやった。

「グオ――」

 やつの全身から力が抜けるのが分かった。

 グロウが地に崩れ落ちる。俺はその動かなくなった体からゆっくりと離れ、軽く息をついた。


「やりましたね、リューク! それに――ロミィも!」

 オルタが喜びの声を上げて駆け寄ってきた。

 彼女がロミィの名を口にした瞬間、その心に浮かんだのは、純粋な歓喜と興奮のみだ。普通の人間なら誰もが(いだ)くであろう、恐怖、好奇、あるいは距離感――。そんな感情とは無縁に、素直にロミィに称賛の声を贈れるのは、いかにもオルタらしい。

 ロミィは――そんなオルタに、珍しくはにかんだ笑みで応えると、ハルの杖を手に、こちらへやってきた。

「封印されたアニムを戻さないとね。でもこれどうやって使うの?」

「どれ、見てみよう。貸してくれ」

 ロミィから杖を受け取り、眺める。――なるほど、大抵のレリックと同じで、使用者の思念に応じて発動する仕組みのようだな。これなら問題なく使えそうだ。

 俺は杖を振るい、先端に光を灯らせた。

 まずは自分のタイラントとパンドラを回復させる。それから、オルタのペンダントも。

「ふう、やっと元どおりです。調査隊の皆さんも助かりましたし、事件解決ですね!」

 オルタが元気よく叫んだ。

 しかし――俺は頷かない。

 確かに調査隊のアクセサリーはすべて回収できた。

 だが、()()()()()()()()()()()()

 ……ああ、やるべきことが残っている。ただしその前に――。

 俺はエルマンの方を振り返った。


 やつはすでに立ち上がっていた。

 その手に、剣を抜いて。

調査隊五人を救い終えたのも束の間、今度はエルマンが仕掛けてきた。

やつと剣を交えるのは――まさかのオルタ?


お読みいただきありがとうございました。

次回の更新は7月2日の18:00を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ