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第33話 第六章・1 鑑定士、姫騎士様の水浴びを無視する

レイラと別れ、リューク達はさらにエルマンを追う。

そんな中、水場を見つけた二人は……?

第六章スタート!


次回の更新は6月18日の18:00を予定しています。

 レイラが目を覚ましたのは、それからすぐのことだった。

「あれ、ここは……って、何でお姫様と鑑定士さんがいるの?」

 しかも自分は一人で毛布にくるまって――と、分からないことずくめで、さぞ混乱したに違いない。レイラは寝惚けた頭を何度か振って、無理やりすっきりさせると、今一度俺達に訊ねた。

「……で、何で二人とも高ぶってるわけ?」

「いや、べつに高ぶってはいないが?」

「そう? なんか顔赤いし、つい今まで二人揃って興奮状態でした~みたいな感じなんだけど。ね、お姫様?」

「わ、わ、私は、べつにそんなに興奮してないですっ!」

 おそらく俺の秘密を守るため、オルタが懸命に否定する。いや、確かにそこまで頑なに否定すれば、俺の秘密は守れるだろうが――むしろ()()()()に誤解されるパターンだな、これは。

「え~、二人ってもしかして、そういうアレ……?」

「そうだな。そういうアレってことにしておいてくれていい。それよりレイラ、実は今、大変なことになっていてな――」

 レイラの邪推は面倒なのでそのまま受け入れ、俺はようやく本題に入った。

 そう、邪神のアクセサリーを巡る一連の騒動についてだ。調査隊のメンバー五人が邪神に心を支配され、そのうち三人までが元に戻った。レイラはその三人目だ。

 残るメンバーは――《狂月の狼》グロウと、《仮面の聖女》ハル。一方その二人を「退治」という名目で抹殺するため、《魔眼の騎士王》エルマンが動いている。なかなかに面倒な状況だ。

 ……俺がこの話を聞かせると、レイラは真っ青になって、すぐに協力を申し出てきた。もっとも、俺の方も余計な同行者は増やしたくないわけで――。

「そいつは助かる……と言いたいところだが、レイラ、あんたはキクノ達と合流して、他の冒険者を守っていてほしい。心配するな。こっちには、最強の姫騎士ことオルタ様がいるからな」

 横目でオルタの赤面具合を確かめつつ、俺はレイラにそう提案した。

 レイラは一瞬躊躇(ちゅうちょ)する様子を見せたが、幸い食い下がるほどではなかった。オルタを信頼しているから――というのもあるが、「早く仲間達に無事を報せたい」という想いも強かったはずだ。

「分かった。言われたとおりにする。……でも、せめて役には立たせて?」

 そう言って彼女は、自分のアイテムポーチから木製のボードを取り出し、表面を素早く指でなぞってから、オルタに手渡した。

 お馴染みのマッピングボードだ。そう言えば俺達の分は、ロミィに渡してそのままになっていたな。

「これ……この辺の地図が全部載ってますね!」

 オルタがボードを覗き込み、嬉しそうに叫ぶ。確かにそこには、大雑把ながら、周辺の通路と部屋の形がきちんと描かれている。もちろん、邪神に改造された後のものが。

「なるほど、《オートマップ》のスキルか」

 俺は納得して頷いた。こいつは探索用のスキルで、周辺の地形を自動的に把握することができる。それをマッピングボードと併用することで、瞬時に辺りの地図を描き出したってわけだ。

「助かります! きっとグロウとハルを無事送り届けますからね!」

「よろしくね、お姫様。あと――鑑定士さんも」

 そう言って立ち去ろうとするレイラ。その背中に、俺はふと声をかけた。

「なあ、一つ訊きたい。……ハルの能力についてだ」

 あの白魔術師の娘だけが、いまだにどんな力を持っているのか分からないままだ。

 俺の声に、レイラが振り返る。困った顔がそこにある。こいつは――知らないようだな。

「ごめん。あたしがあの子と組んだのは、この調査隊が初めてでさ。あの子がレリックの力を使ったとこ、まだ見たことないんだよね」

「ハルはあんた達の推薦で調査隊に入った――ってことだったが?」

「正確には、推薦したのはグロウ一人ね。まあ、ゴリ押しとも言うけど……。なんか、以前組んでたことがあったみたい。『こいつと俺が組めば無敵だ!』って、得意げに言ってたから。……ああ、あと噂でチラッと聞いたんだけど――」

 そう言ってレイラは声を落とし、こう付け加えた。

「ハルってさ、たまにマスターから依頼を受けて、不良冒険者の取り締まりみたいなことをやってたみたい」

「……ほぉ?」

 そいつは面白い話だ。マスターからの依頼で取り締まりってことは、何かレリック絡みで問題が起きた場合だろうな。

 通常、マスターは冒険者の違法行為を取り締まらない。国際組織である以上、各国の司法には介入しないというルールを設けているからだ。にもかかわらず、敢えてマスターが動いた――となれば、おそらく目的は「レリックの保護」だろう。

 要するに、レリックの窃盗団とか、レリックを使ったテロリストとかがいて、そういう連中を「レリックの保護」の名のもとにぶっ倒すのはOKってわけだ。……で、そんな依頼を、あのハルが引き受けていた、と。

「なるほど――。いや、こいつはなかなか貴重な情報だ。ありがとうな」

 俺はレイラに礼を言って手を振った。レイラは少し怪訝な顔をしながらも、俺とキクノに笑顔で別れを告げ、廃都で待つ仲間達のもとへ向けて、急いで去っていった。

「リューク、今の話で何か分かったのですか?」

 ふと、オルタが不思議そうに訊ねてきた。俺はニヤリと笑い、答えた。

「ハルの真価は、対人戦で発揮される――。そういうことだな」

「なるほど。って、さっぱり分かりません!」

 そんなオルタの叫びを聞きながら――俺は密かにほくそ笑む。

 ……どうやら見えてきたようだ。ハルがどんな力を持っているのか、が。

 俺はオルタを促し、先へと進むことにした。


 レイラの残してくれた地図を見る限り、エルマンの居所の候補は二つあった。

 一つは、近くの水場だ。遺跡内を走る水路の集合地点のようで、ちょっとした湖ほどの広さがある。休憩場所にはもってこいだろう。

 ちなみに水路と言っても、この遺跡に上水や下水の設備があるわけじゃない。旧冒険者時代のダンジョンでは、雨水や地下水を排出したり、水を用いたトラップに利用するために、こうした水路がよく設けられていたという。それを形だけ忠実に再現したのが、この遺跡の水路――ってわけだ。

 ……そしてもう一つの候補は、墓地を模したロストサークル。こちらは適度に見晴らしがよく、適度に入り組んでいる。敵と戦うには都合のいい場所だ。

 俺達は勘を頼りに、まずは水場へ向かった。

 そして――この勘は、あっさりと的中した。

「……いたぞ」

 遠目にエルマン達の姿を見止めるや、俺達はとっさに身を低くして、近くの柱の陰に潜り込んだ。

 向こうは案の定、休憩の真っ最中だったらしい。全員で座り込み、思い思いにくつろいでいる……ってほど気楽そうには見えないな、あいにく。

 俺は目を凝らす。例によって「サーチ」が自然と発動し、エルマン達の感情を伝えてくる。

 ――意気込んでいるのはエルマン一人だけだ。残りのメンバーは、どいつもこいつも不安や恐怖に苛まれている。休憩中にもかかわらずこの状況ってことは……おそらく、「本番」が近いようだな。

「なるほど。休憩が終わり次第、『邪神』に挑むつもりか」

「そう都合よく、ハルやグロウが来るでしょうか」

「おびき寄せることは可能だろうな。何しろ二人とも、冒険者の魂を奪いたくてウズウズしてるんだ」

 小声で囁きながら、俺は視線を巡らせる。

 ドーリスを見つけた。水路の傍らで、真っ青な顔でしゃがみ込んでいる。

 見た限り、相当な重圧を覚えているようだ。……さては、エルマンから何かを命じられたな?

 内容は――そう、あいつの二つ名を思えば、予想はつく。

「……オルタ、ドーリスの二つ名を覚えているか?」

「ええと……パンの兄ちゃん、でしたっけ?」

「その答えは、個人的には二重丸だがな」

 俺達がそんなやり取りをしていると、不意にエルマンが立ち上がった。どうやら移動を始めるようだ。

 おそらく連中は、目立つ道に沿って進むはず。そのまま行けば、やがて例の墓地に行き着く。エルマンはそこを戦いに打ってつけの場所と判断し、作戦に取りかかるだろう。

 俺は改めて、地図を確かめた。

 ……墓地へ向かうルートが、他にもう一つある。目立たない細道だが、そちらの方が着くのは早い。

「近道ができるな。先回りして妨害するか、もしくは――」

「もしくは?」

「連中が行くのを待って、ここでのんびり水浴びでもしてから追いかける……って手もある」

 俺はそう言って、ニヤリと笑った。

 途端にオルタの顔が赤くなる。……いや、まったく変なつもりで言ったわけじゃないんだけどな。

「……そ、その水浴びを採用します!」

「そうか。じゃあ、ゆっくり浴びてくるといい」

「あ、あのっ、リュークは……?」

「俺は必要ない」

「何なら一緒でも……」

「いや、ここで見張っている」

「分かりました! しっかり(私を)見張ってて下さい!」

 オルタが真っ赤になりながら叫んだ。……いや、これも変なつもりで言ったわけじゃないんだけどな。


 というわけで――。

 エルマン一行がいなくなるのを待って、オルタの水浴びが始まった。

 物陰に入って鎧と服を脱ぐ音をさせた後、「ひゃぁ!」とか「冷たいです!」とか、いちいち賑やかに騒ぎ立てている。俺はそんな光景には特に興味がないので、ただ彼女に背を向けて座り、退屈そうに周りの様子を眺めていた。

「リューク、とっても気持ちいいですよ? リュークも入ったらいいのに」

「俺は遺跡の水路より、城の大浴場の方がいいな」

「確かにうちのお風呂も気持ちいいですね。では、今度一緒に――」

「入らないぞ?」

「ちぇっ、です」

 ……やれやれ、どんな反応なんだか。

 俺は苦笑しつつ――ふと視界の端に「それ」を見つけ、ゆっくりと立ち上がった。

 ふむ、どうやらちょっとだけ、()()ができたようだな。


「ふぅ、いいお水でした。……って、リューク、何ですかそれはっ?」

「ようオルタ、上がったか? よし、ちゃんと防具も着けているな?」

 ようやく戻ってきたオルタに声をかけられ、俺はごく普通に振り返った。

 水浴びを終えて全身をしっとりさせたオルタが、俺を見て目を丸くしている。理由は――そうだな。俺が何の前触れもなく、ゾンビを一体、組み伏せているからかな。

 ゾンビと言っても腐っちゃいない。せいぜい干からびて、ミイラみたいになっているだけだ。服装は、簡素な皮鎧と剣――。典型的な戦士の慣れの果てってところか。

 いや、もちろん現代の冒険者が変わり果てた姿じゃない。こいつもまたロストワンダー。要は、過去に存在していたモンスターが再現されたものに過ぎないってことだ。

「ちょっとそこを通りかかったみたいでな。あんたの水浴びに気づいて覗こうとしてたんで、せっかくだから捕まえてみた」

「覗こうと、って……。ええと、不届き者を成敗してくださるのはありがたいのですが……ゾンビなど生け捕りにして、どうするのです?」

「決まってるだろ? 時間はまだあるんだ。約束どおり、()()()()じゃないか」

 そう言って――俺は組み伏せていた腕を解き、ゾンビを自由にしてやった。

 ゾンビはのろのろと立ち上がるや、俺達に敵意を向け、その錆びついた剣を、腰からザリザリと抜く。

「ひゃっ、き、来ますよ?」

「そうだな。オルタも剣を抜け。そのために、こいつを捕まえたんだ」

 その言葉に――オルタがハッとして俺を見た。

 ああ、ようやく思い出してくれたようだな。昨日……いや、もう日付けも変わったろうから、一昨日か。一昨日交わした「あの約束」を。

()()()()、ですね?」

「そうだ。壊れてない方の剣があるな? 構えろ」

「はいっ!」

 一転して表情を引き締め、オルタが剣を抜く。

 相手はとろいゾンビだ。決して負けることはないはずだが――もちろん俺が稽古をつける以上、そう楽に勝たせるつもりはない。

 さて、オルタがどれだけ頑張ってくれるか――。

 こいつは、なかなか見ものだな。

強くなるには実践訓練あるのみ!

次回、オルタの前に因縁の宿敵(?)が立ちはだかる!


お読みいただきありがとうございました。

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