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第29話 第五章・3 鑑定士、《孤高の軍勢》を手玉に取る

分身で翻弄するレイラを封じるため、リュークが取った作戦とは?

VS《孤高の軍勢》、ついに決着!


次回の更新は6月10日の18:00を予定しています。

 俺がこの時点で知っているレイラの情報をまとめると、こうだ。

 職業クラス狩人ハンター。武器は弓。所持しているスキルは、特殊な光のヴェールによって姿を消す《ステルス・ウォーク》と、強烈な矢の一撃を放つ《パワーショット》――。

 もっとも、この二つだけってことはないだろう。他にも狩人固有のスキルをいくつか習得していると見ていい。

 そして――何より、彼女が所持しているレリックだ。

 その名は「アーミー」。手袋の外見に、《軍隊》の本質アニムを持つ。効果として、装着者の分身を生み出すことができる。

 この分身が本体と協力して、次々に矢を繰り出す。威力と命中精度、そして数を兼ね備えた矢の雨は、瞬く間に標的を封じ、貫き、葬り去る。

 故にレイラは、《孤高の軍勢》の二つ名で呼ばれる。


 ……とは言え、彼女にとって不幸なことが一つある。

 その分身能力が抱える()()()()()を、すでに俺に見抜かれてしまっていることだ。


「さて――まずは向こう側の様子を見させてもらうか」

 俺は低く呟き、右の通路を封じる岩の前に立った。

 宝剣のアニムを開放して生み出したこの岩は、すでに割れ砕け、一つの巨岩であることを諦めている。今は複数の岩塊として、ゴロゴロと雑多に積み重なるのみ。

 つまり、あちこちに隙間がある。俺はさっそく、懐からダガー(アルゴス)を取り出し、その切っ先を、岩と岩の隙間に挿し込んでみた。

 《瞳》のアニムを持つアルゴスの切っ先は、常に俺の視界と繋がっている。したがって、岩の向こうの様子が、手に取るように分かる。

 レイラは――いた。ステルスを解除した彼女は、こちらに背を向け、足早に通路の向こうへと消えていくところだ。

「逃げた……いや、違うな。誘い込むつもりか」

 一瞬「サーチ」した彼女の感情から、すぐさまそれを見抜く。俺はアルゴスを懐に戻し、オルタの方を振り返った。

 オルタは少し離れた場所に立って、こちらを窺っている。その表情から、いろいろな感情が透けて見える。俺の勝利を信じつつも、どこかでその身を案じ、さらにロミィがいないことが不安で、ついでにボロボロになった宝剣に嘆き――。

 ……やれやれ、どうやら姫騎士様は、心がお忙しいようだ。

「そこで待っててくれ。すぐに片づけてくる」

「だ、大丈夫ですか、リューク?」

「安心しな。レイラの分身は、一見厄介に思えるが、あれで結構()()()()だ」

 俺は苦笑し、再び岩の方に向き直った。


 ――あの分身能力の仕様は、おそらくこうだ。

 まず、分身は本体から分裂する形で、その場に生み出される。外見や装備などは本体をそのままコピーし、実体もきちんとある。

 そして、それぞれが独立して動くことが可能。また、一度生み出した分身は、個別に解除、消滅させることができる。

 ……一見、なかなか便利な能力だ。ただし、()()()()()()()()を除けば、な。

「さっき俺が分身を追い詰めた時、分身はすぐさま消滅した。しかも、二度――。こいつが弱点でなくて、何だって言うんだ?」

 俺は笑って呟くと、すぐさま身を落とし、走り出す体勢に入った。

 ――これから右の通路に突入する。そのためには、まず目の前の岩を取り除く必要がある。方法は至って簡単だ。

「――クローズ!」

 俺の声に合わせて、岩と化していた宝剣が元の姿に戻る。目の前が開ける。まっすぐに伸びた右の通路の彼方に向かって、俺は勢いよく走り出す――前に、もう一つ。

「――デリート!」

 通路いっぱいを視界に収め、叫ぶ。同時に、そこかしこの床に仕掛けられていたトラップが、シュゥッと白煙を噴いて、一気に消滅する。

 この罠は、遺跡に元からあったものじゃない。レイラが俺のために、今仕掛けたものだ。狩人の固有スキルの一つ、《罠設置セット・トラップ》を使ってな。

 こいつは本来、ワンダーを罠に嵌めて戦いを有利に進めるための補助スキル。しかしその使い手が敵になった以上、俺が罠のターゲットになることは予測済みだ。

 いずれにせよ――これで遮るものはなくなった。

 ここまで、ものの三秒。俺は即座に全身をバネに変え、正面に一気に躍り出た。

 すぐさま矢が飛んでくる。だが、軽く叩き落す。何度やっても同じことだ。次々と襲い来る矢を軽々と()なし、俺はレイラのもとへ走る。

 正面に光のヴェールが迫る。もうほんの少しで、そのヴェールを突破できる――。

 ……だが、その時だ。

 正面のレイラがヴェールごと、またも消えた。

 こいつも分身。本体がいるのは、さらにその奥だったのだ。

 そして――何もない虚空を捉えようとした俺に、彼方から容赦なく、無数の矢が浴びせかけられた。


 ……というのがレイラの筋書きだったはずだ。残念ながら、そいつもすべて予測済みだったがな。

オープン!」

 すかさずタイラントのアニムを、一部開く。瞬く間に俺の左腕から、巨大なドラゴンの翼が生え、盾となってすべての矢を弾く。

 もっとも、このような部分的な開放は、レリックそのものにかなりの負担をかけてしまう。長時間は維持できない。だから「矢を防ぐ」というひとまずの目的を終えたところで、すぐに翼を元のガントレットに収める。

 ただしこの瞬間――もちろん、()()()()()()()()()()

 俺の体を包んでいた巨大な翼が収縮した刹那。相手にほんのわずかに生じたであろう視覚の隙を突いて、俺は素早く「新たな一手」を繰り出していた。

 もちろん、レイラとの攻防を終わらせる、鍵となる一手を。

「――貰った」

 俺はニヤリと笑った。

 レイラの姿は今、俺の肉眼で、はっきりと捉えられていた。

 もちろん――()()()()()()()()な。


 種明かし、ってほど大したことはしていない。

 俺が翼をしまった瞬間に取った行動とは、通路の床にアルゴスを滑らせる――。ただそれだけだ。

 俺の手元を離れて正面へ飛び出したアルゴスは、その先にいる、ヴェールをまとったレイラの足元へ滑り込む。そうなれば、俺の「目」はレイラに密着したも同然。結果、《ステルス・ウォーク》は意味を成さなくなり、彼女は鑑定魔術に対するガードを完全に失う――。

 ……ちなみに、このレイラも分身のようだ。なぜなら、「サーチ」を介しても感情が見えないからな。

 もっとも俺に懐に飛び込まれた時点で、こいつが分身か否かは、もはや重要じゃない。なぜなら「アーミー」によって生み出された分身は、ある「致命的な弱点」を持つからだ。

 そう、分身には実体がある。その分身に対する攻撃や、その他様々な影響は――すべて()()()()()()()()()()()()()

 だから、これまで俺が分身に肉薄するたびに、レイラはその分身を消し去っていたってわけだ。本体に攻撃が届いてしまうことを恐れてな。

 ……俺がこの事実に気づいたのは、分身に魔法壁ごと突っ込もうとして消えられた、あの時だ。だからその後、左右の道のどちらを責めるかを、勘で選ばせてもらった。分身だろうが本体だろうが、事実上どちらでも正解だったからだ。

 つまり、残すは「詰ませ方」の問題のみ。左の道では、ブローチを直接狙うやり方を試してみたが、それでは紙一重で逃げられてしまうと分かった。ならば――やり方を変えるしかない。多少手荒になっちまうがな。

 ポイントは二つ。一つ目は、俺の密着をレイラに気づかれないこと。二つ目は、相手の行動を完膚なきまでに封じてしまうこと。

 ――その一つ目は、すでに達成済みだ。彼女は知らない。足元に落ちたダガーが、俺の目と連動していることを。そして俺の目が、あらゆるレリックに干渉することを。

 俺は――アルゴスを介し、すぐさま鑑定魔術を行使した。

オープン!」

 その対象となったのは、もちろん――。


「きゃぁっ! 何っ? 何っ?」

 どこかでレイラの悲鳴が上がった。まるで邪神の憑依など無縁とばかりの、妙に幼い叫びは、今やすっかり驚愕と混乱に満ちているようだ。

 聞こえた位置は――もう少し先にある曲がり角の向こうか。なるほど、本体はあそこに隠れていたってわけだな。

 俺はさっそくそちらへ向かう。途中、アルゴスに捉えられた分身の横を素通りする。しかし分身は俺を攻撃することなく、俺が過ぎ去ると同時に、あっさり消滅した。

 いや、べつに俺が消したわけじゃない。あくまでレイラが自分の意思で消しただけだ。おそらく、今彼女の身に起きている「とんでもない事態」を打破しようとしてな。

「――見つけたぞ、レイラ」

 そう言って、俺は曲がり角の先を覗き込んだ。

 レイラは、やはりそこにいた。

 ()()()()()とともに、通路いっぱいにギッシリとひしめき合って。

「うぐ、むぎゅっ、動けない……!」

 その分身達が揃って泣きながら、まるで芋の子を洗うように、互いに押し潰し合っている。まあ、いささか可哀想な気もするが、これで完全に身動きは封じたってわけだ。

 ――そう、俺が「オープン」を施したのは、もちろん彼女のレリック。《軍隊》のアニムを持つ手袋、「アーミー」だ。

 分身は本体の装備を反映する。そして、分身が受けた影響は本体に返ってくる――。だから分身のアーミーに「オープン」をかければ、そのまま本体のアーミーが影響を受けることになる。

 では、そんなアーミのアニムを思いっきり開放してやったら、どうなるか。

 ……これが答えだ。分身が、レイラの意思とは無関係に次々と生み出され、本体を容赦なく人垣に閉じ込めてしまう。勝手に増殖する以上、いくら分身を消しても無駄。しかも、後から後から湧いてくる全員が、互いにひしめき合うせいで、矢を射ることすらできない――。

「やれやれ、あんたがステルスなんて面倒なものを使わなきゃ、もっと早くに片がついていたんだがな」

 俺はそう言って苦笑すると、ぎゅうぎゅう詰めになったレイラの軍勢……と言うよりは、ただのおしくら饅頭に、悠々と歩み寄った。

 そして、手前にいる適当な一人に手を伸ばし――。

「回収完了」

 胸元のブローチを、(むし)り取らせてもらった。

 もちろん一個毟り取れば充分だ。きちんと本体に反映されるからな。


「片づいたぞ」

 俺がT字路に戻り声をかけると、すぐにオルタが嬉しそうに駆け寄ってきた。

「お帰りなさい、リュー……く?」

「どうした? 急に浮かない顔になって」

「いえ、その背中の……」

 何か言いかけて、頬を赤らめ口籠るオルタ。……ふむ、どうやら俺が()()()()()()()()に、少々不満を覚えたらしい。

 いや、気を失ったレイラを運んできただけなんだがな。このお姫様にとっては、多少やきもきする光景だった、ってところか。理由は――まあ、この際考えないでおこう。

「もやもや……いえ、何でもないです。それよりお疲れ様でした、リューク。無事『邪神』のアクセサリーを回収できたようですね」

「ああ。そっちは特に問題なかったが――むしろ、この気絶したレイラの方が問題だな。起きるまで、もう少し時間がかかりそうだ」

 まさかその間、ずっと背負っているってわけにも行かないしな。

 ……それに、目を覚ました後のこともある。もちろん彼女がついてきたところで、戦力として足手まといになるわけじゃないが、できれば俺は、あまり余計な人間をパーティーに加えたくない。

「オルタ、どう思う?」

「そうですね……。とりあえず、レイラは私が背負う、というのはどうでしょうかっ」

「そうか。じゃあ任せた」

 俺はオルタの申し出に素直に頷き、さっそく彼女の背中に、眠っているレイラを預けた。

 ……で、直後。

「え、意外と重……ひゃぁっ!」

 重量オーバーを起こしたオルタが、レイラを背負ったまま床にベチャッと這いつくばったのは、言うまでもない。

「仕方ない。どこか安全な場所を探して休憩するか。もう真夜中だしな」

「そ、それがいいです……」

 笑いながら提案した俺に、潰れたまま答えるオルタ。

 ……やれやれ、図らずも、二人きりの夜になりそうだな。まあ、もう一人そばで寝ているが。

リュークとオルタは遺跡の一角で野営することに。

次回は久々にまったりモード……と見せかけて?


お読みいただきありがとうございました。

次回の更新は6月10日の18:00を予定しています。

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